「新一! 駄目だって言ってるでしょ!!」
快斗の叫びと共に吸いかけのタバコは
俺の手からふっと消えてしまった
肺ガン予備軍VS成人病予備軍
「何すんだよ」
「吸っちゃ駄目!」
めったらめっ!!
「………俺は猫かガキか?」
何だか非常に可愛らしい怒り方にそれ以上文句を言う気も削がれて。
けれど直ぐに手持ち無沙汰になって、ポケットからタバコの箱を出してもう一本タバコを取り出す。
が…。
「新一!!! めっ、なの!!」
直ぐにそれも取り上げられて、ついでに箱も持っていかれてしまう。
「返せよ」
「いーや!」
「嫌じゃねえ。返せ」
「嫌ったら嫌なの!!」
タバコの箱を絶対に渡さないと言う様に胸にぎゅっと抱えたままぶんぶんと首を振られて。
新一の口からは、はぁ…と溜め息が零れ落ちる。
「何で急にんな事言うんだよ」
「急にじゃないもん! 何時も言ってるもん!」
聞いてくれないから強行手段に出たんだもん!!
「あー、そういや言ってた気もするなあ」
「新一!!」
丸っきり相手にしていない様子の新一に快斗はぷうっと頬を膨らませて。
手に持っていたタバコの箱をこれ見よがしに消してしまう。
「んな事しても無駄だぞ?」
「な、何で…?」
「俺の部屋にはカートンであるし」
「あ、それならさっき捨てといたから♪」
「!?」
にぱっと笑ってそう宣った快斗に先程まで冷静さを失っていなかった新一が少しだけ目を見開く。
しかし、それも一瞬だけ。
「…それなら別に買いに行けばいい話しだし」
「あ、お財布俺が預かってるから♪」
「………カードとつうちょ…」
「それも俺が預かってるから♪」
「……………親父に送ってもら…」
「優作さんに電話したら『良い機会だから禁煙させるのもいいかもしれないねえ』って言ってたよ♪」
「…………」
完璧だ。
余りの用意周到さに流石の新一もそれ以上案が出てこない。
そんな新一に対し、
「だって身体に害なのが解ってて新一に吸わせ続けるなんて俺には出来ないの!!」
と一生懸命に主張した快斗ではあったが、新一からは不機嫌な反応が返って来る。
「………お前に言われたくねえよ」
「何で!? 俺は吸ってないもん!!」
「ちげーよ。この成人病予備軍」
「せ、成人病…予備軍…?」
新一の言った単語に快斗は首はパチパチと数度瞳を瞬かせて、ついでに可愛らしく首を傾げるというオプションまで付けてくれた。
その様子に新一は本日何度目かの溜め息を吐きながら、けれどしっかりと説明してやる。
「お前甘いもの好きだろ?」
「うん。好きだけど…?」
「あれだけアイスだのチョコだのケーキだの食ってりゃ果ては糖尿病だろうなあ…」
あ、お前の場合はあの異常に甘いコーヒーもあるか。
「!?」
だから成人病予備軍なのだと語る新一に快斗はぶんぶんと首を振る。
「違うもん!! 俺はしっかり運動してるし…」
「そうやって言ってる奴程なったりするんだよな」
「で、でもいざとなったら俺は止められるし…」
「ふーん。じゃあ冷凍庫にあるハー○ンのアイス今すぐ処分できるか?」
「そ…それは……」
「ほらな」
うっ…っと詰まった快斗に新一はにんまりと笑って、
「お前も人の事言えねえだろ?」
解ったらさっさと財布返しやがれ。
と掌を上に向けた右手を快斗に向かってびしっと出したのだが…。
「……める」
「ん?」
「俺もやめる!!」
「…………は?」
返って来たのは財布ではなく何やら決意を固めたらしい快斗だった(笑)
「そうだよね。新一だけに我慢させるなんて駄目だよね」
「もしもーし?」
「やっぱり何事も一緒に耐え抜いてこその恋人同士だし」
「かいとくーん??」
「俺もおやつ断ちする!!」
「………えっι」
快斗は何やら一人で勝手に決意したらしい。
しかしながら、思いっきり新一の意思を無視した決意なのだが…ι
「ここは俺も一緒に頑張るから!!」
だから新一も頑張ろうね!!
「………俺は頑張りたくないι」
最終的に出された結論に新一はがっくりと肩を落とす。
が、快斗の決意は変わることは無く、
「最初から何弱気な事言ってるの!! こういうのは最初が肝心なんだから!!」
と拳をぎゅっと握り締めて何やら気合を入れている。
そんな快斗にはもう新一も溜め息しか出てこない。
「……お前そんなに俺にタバコ止めて欲しい訳?」
「うん! だってタバコは百害あって一理無しだし、依存性なんて大麻より高いんだから!!」
だから絶対やめさせるの!!
「………わあったよ…」
何だかんだ言っても新一も快斗には弱い。
しかも自分の為なのだとここまでしっかりすっぱり言われてしまってはこれ以上駄々も捏ねられない。
仕方なく、渋々了承の意を示してやる。
が、しかし、やられっぱなしは性に合わない(ぇ)
「ほんと!?」
「ああ…けどその代わり…」
「?」
「お前が甘い物食ったら俺もタバコ吸うから」
「!?」
確かにそれは先程快斗が言った事で。
けれど改めてそれを新一から聞かされた瞬間、快斗の顔が激しく強張った。
「もちろんあの異常に甘いコーヒーも、それからココアも駄目な?」
「え!? ココアも!?」
「それから果糖も取り過ぎは良くないって言うし…」
「ちょっ、ちょっと新一!!」
指折り甘いものを数えてあれは駄目これは駄目と項目を追加していく新一に快斗は顔を真っ青にして静止をかける。
「何?」
「……流石にそれはちょっと…」
「お前さっき言ったよな?『何事も一緒に耐え抜いてこその恋人同士だし』って」
「そ…それは……」
「ふーん。嘘だったんだ」
超冷酷にそう言われて。
快斗はうっすらと瞳に涙を浮かべて叫ぶ。
「嘘じゃないもん!!」
「じゃあ我慢できるよな?」
「う、うん…」
「そうかそうか。じゃあさっそくアイスは処分な♪」
「うっ……」
新一が提示した条件は甘い物が大好きな快斗にとってはそりゃあもう拷問に近いもので。
けれど新一に嫌われたくない一心で快斗は泣く泣くアイスを処分したのだった。
新一が耐えられなくなるのが先か、快斗が耐えられなくなるのが先か。
勝負の行方は快斗が何処まで甘い物を我慢出来るかにかかっているのかもしれない…。
END.
タイトル成人病にするか、生活習慣病にするか散々迷った挙句成人病に決定。
何故ならば……生活習慣病にするとshort novelのタイトル枠に収まりきらなかったから(爆)←そんなんかい!
でもこの話し…新一の事だからどっかに隠し持ってそうだけどなタバコ…(苦笑)
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