人間の感情の中で


 一番醜い感情は何だろうか


 人間の感情の中で


 一番人々が抱く感情は何だろうか






yellow rose








「それではまたお会いしましょう。中森警部」
「待て! 奴を逃がすな!」


 いつもの様に今夜もダミーに引っかかる警察をよそにKIDは優雅に夜の空を飛行していた。




(今夜も名探偵はおいでくださいませんでしたか…)


 名探偵が自分を小さくした組織を潰し、元の姿に戻ってからもう3ヶ月。
 その間、名探偵に予告状を送り続ける事5回目。
 今日も彼の姿は現場にはなかった。

 今回は警察に事前に指示を与えていた様だから暗号は解いてくれているのだろう。


(やっぱり泥棒に興味はないと言う事ですかね…)


 KIDは苦笑した。

 暗号は解いてくれているらしいのに、現場には決して来てくれない自分の想い人。
 以前は偶然出会う事も多かったが最近ではそれもすっかりなくなってしまった。

 それは果たして偶然なのか、それとも彼が故意に自分を避けているのか。

 彼の性格的に言って後者のような気がしてどうにも気持ちが滅入ってしまう。


(名探偵はそこまで私に会いたくないのでしょうか…)


 恋する乙女(by快斗)の悩みは尽きないものである。


(やはりここは私から会いに行くしかありませんね。)


 そう決断すると愛する人の住む家へと方向を変えたのだった。















「そろそろ寝るかな」


 いつもの様に推理小説を最後まで読破してしまえば時刻はもう夜中の2時で。
 また明日蘭に怒られるな、なんて思いつつ寝室に行こうとしたその時だった。



「お久しぶりです、名探偵」



 目の前に強烈な白が現れた。しかも書斎のど真ん中に。


「…お前何処から入ったんだ?」


 その図々しさに驚くより先に呆れてしまった。


「さぁ。手品師はタネを明かさないものですから」


「…不法侵入だな」


 しかも、時刻も時刻だろう。と続けざまに言われKIDは苦笑するしかなかった。


「名探偵が現場に来てくださらないので私が会いに来たのですよ」
「お前は俺に来て欲しいのか?お前にとって厄介な相手でしかない俺に?」


 随分と奇特な奴なんだな、と新一は悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「中森警部や白馬探偵では少々役不足ですからね」


 言外に自分と対等なのは名探偵だけなのだと告げる。
 彼でなければ自分を捕らえる事などできないのだと。


「まぁ、捕まったら笑ってやるけどな」


 それが解っているのか新一は酷い事をさらっと言った。


「でしたら何故私の現場においで下さらないのですか?」


 そう、今日の目的はそれを尋ねること。
 答えは解っているのだけれど。


「前に言わなかったか?俺は泥棒に興味はない」


 自分は第一課の事件にしか興味はない。
 すなわち殺人事件にしか興味はないのだと、新一は告げる。

 KIDとしても解っていた事だけれど、改めて言われると辛い。



「では、私がもし誰かを殺めたなら貴方は私の現場に来てくださいますか?」


 それは不意に自分の口をついて出た言葉。
 決して深く考えて言った事ではなかった。


「…冗談なら今のうちにやめとけ」


 新一の目がすっと細められる。
 彼の顔は一瞬のうちに探偵のソレになっていた。


「冗談でなかったら?」


 決して人を殺める気はなかったけれど興味が沸いた。
 彼は自分が人を殺めたならどういう行動をしてくれるのか。


「お前を捕まえる。それだけだ」


 答えは至ってシンプル。
 けれど、それが彼の真意を一番良く告げていた。


「安心してください。私はそんな事はしませんよ」


 KIDには誇りがあるから。親父から受け継いだ誇りが。


「…わぁってるよ。んな事聞くんじゃねぇ」


 いささか面倒そうに、けれど少し安心したように新一は呟く。


「けれど、私も人を殺す可能性はありますよ」
「お前の場合それは正当防衛だろ。」


 KIDとしての仕事には危険が多い。
 KIDを狙っている組織の存在には新一も気づいているから。
 可能性としてそれが思い当たったのだろう。

「いいえ、組織の人間でなくても殺すかもしれない人は居ますよ」
「へぇ…お前に殺したいほど憎んでいる人間がいるとは知らなかったな」

 人間が強調されていたのは彼が自分の目的を知っているから。
 パンドラを砕くという目的を。


「誰なんだ? お前が殺したい相手って」
「さぁ…」


 それっきりKIDは黙ってしまった。


「誰なんだよ…。その殺したいほど憎んでる人間ってのは」


 いくら待ってもその正体を言う気配すらみせないKIDに業を煮やしたのか再度新一が尋ねてくる。


「それを知ってどうなさるおつもりで?」
「そいつを護衛するに決まってるだろ」


 事件は未然に阻止できるなら阻止した方が良いと、コナンの頃の力のない自分ではないのだからと。


「護衛ですか。誰を護衛につける気です?」
「そりゃ、警察は事件が起きてからじゃなきゃ動けねぇだろうから俺を護衛につけるだろうな」
「それでは護衛になりませんね」
「どういう意味だ?」


 新一は訝しげに目を細める。
 自分では役不足なのかというように。


「そのままですよ。貴方では護衛は出来ません」


 なおも断定的に言うKIDに新一はますます解らなくなる。


「それに、憎んでいるから殺したい訳ではありませんしね」
「いったいどういう意味な…」


新一が言い終わる前に、夜中の三時を告げる時計の鐘の音が室内に響き渡った。


「だいぶ長居をしてしまいましたね。そろそろ私はお暇させて頂きましょうか…。  では、名探偵。今宵も良い夢を…」


 そう告げるとKIDは煙幕と共に忽然と姿を消した。
 カード1枚とそれに添えられた黄色い薔薇だけを残して。




















     
 
次の満月の晩


貴方の答えを頂きに参ります






怪盗キッド
 
     




















 KIDにしてはシンプル過ぎる予告状だった。
 次の満月と言えば一週間後。
 一体KIDの殺したい相手とは誰なのだろうか。
 KIDが人殺しをするなど想像も出来ない。



「せっかく会わねぇ様にしてたのにな…。」


 人の苦労水の泡にしやがって、と新一は苦々しげに呟く。
 興味が無い訳なかった。  あの強烈な白に心奪われたのは自分なのだから。

 けれど、それは探偵としは失格。

 あまりにも冷静な対処が出来なくなっていく自分に気付いたから。

 しかし、組織を潰して元の姿に戻った後、捜査一課からの協力要請は昔よりも格段に増えた。
 それは良いきっかけだったから、それを理由に彼の捜査からは外れる事が出来ると思ったから。

 だから離れようと、決して彼に会う事がない様避けていたというのに…。


「ったく…。」


 予告状を出されてしまった以上、少なくとももう一度KIDに会わなければならないだろう。


「答えねぇ…こりゃ今まできたどの暗号より難しいかもな。」


 真夜中の書斎で新一は一人呟いた。
 怪盗が残した黄色い薔薇を見つめながら。




















 帰宅したKIDは衣装を脱ぎ快斗へ戻っていた。


(さて…次に会ったとき本当の事を言うか否か)


 さっき名探偵に言った事は半分は事実。
 半分は偽り。

 殺したい人間はいるけれど、それは決して憎んでいるからではない。
 むしろ逆。愛しているからこそ殺してでも手に入れたい。

 「殺したいほど好き」とは昔の人もうまい事を言ったもんだと思ってしまう。

 名探偵を好きになるまでの自分では到底理解できない言葉ではあったが。




 名探偵を好きになって初めて知った


 憎む以外で殺したい相手ができるなど




 実際には実行しないという確信はある。
 けれどもし、名探偵が自分以外のものになったら?

 その時自分は彼を殺すのではないだろうか。
 そう思ってしまうのは事実で。

 そして、それを告げたら名探偵はどんな顔をするのだろうと考える。

 自分の思いを知ったら名探偵はどうするのだろうと。




















「黄色い薔薇ねぇ…。」

 KIDが帰った後、根っからの探偵気質の新一は謎は解けないと眠れないとばかりに愛用のノートパソコンに向かっていた。
 おそらくはこの黄色い薔薇がKIDからの最大のヒントなのだろう。
 いつもは赤やピンクなどの薔薇を添えるKIDが、わざわざ黄色い薔薇を添えてきたのだから。

 新一が調べているのは黄色い薔薇の花言葉。
 恐らくはそれがKIDのヒントだから。


「黄色の薔薇の花言葉は………『嫉妬』…? 一体何に嫉妬してるっていうんだ…?」


 しかし、そのヒントはKIDの気持ちを知らない新一にとって謎をより謎にする物にしかならなかったのだった。




















 翌朝、結局悩みに悩んで答えが出ず明け方眠りについた新一は酷く機嫌が悪かった。
 それは普段の機嫌の悪い朝の彼を散々見てきた彼の幼馴染が見ても少々声を掛け辛い程に。


「新一。随分機嫌悪いみたいだけど何かあったの?」


 それでも声をかけるあたりがこの幼馴染の毛利蘭であるのだが。


「別に。ちょっとな…。」


 かなり機嫌が悪そうに、けれど答えておかないと後が怖いので一応受け答えはしておく。
 流石の蘭もそれ以上は聞けないのかその日はそれ以上話しかけては来なかった。


(なんで『嫉妬』なんだ?)


その日の新一は授業もそっちのけでその質問ばかりを自問自答していた。




【嫉妬】 (名)スル

(1) 人の愛情が他に向けられるのを憎むこと。また、その気持ち。特に、男女間の感情についていう。やきもち。悋気(りんき) 。
「―心」「夫の愛人に―する」


(2) すぐれた者に対して抱くねたみの気持ち。ねたみ。そねみ。
「友の才能に―をおぼえる」


(三省堂「大辞林 第二版」より)




「(1)だとすればKIDには好きな奴が居て、そいつに対して嫉妬してるって事になるけど…あいつの場合嫉妬される方だろうし…。
 (2)の方が可能性は高そうだけど、あいつが嫉妬する様な才能の持ち主なんか居るのか?」


 いくら考えても新一にそれに確答する名前は出て来なかった。
そして、新一が答えを出せないまま時は一日一日と過ぎていき、気づけばKIDの予告日である満月の晩になっていた。




















「こんばんは、名探偵」


 この間の『不法侵入』と言ったのが利いたのか、今日のKIDは窓の外から声をかけてきた。
 これで窓を開けずに新一が立ち去ったらどうするのかと気にはなるが、目的はそっちではないので窓を開けてやる。

 すっ、と足音を立てずにKIDは書斎へと降りたつ。
 まるで雪が舞い落ちて来た様に。


「名探偵、答えはお解り頂けましたか?」


 KIDは書斎へ入るや否や切り出してきた。
 その余裕のない行動に新一は苦笑し、ソファーを勧めてやる。

「今日は随分とせっかちなんだな。コーヒーぐらい出してやるからそれまで待ってろ」


 そう告げると新一はそそくさとキッチンへ行ってしまった。






(焦り過ぎたかなぁ…)


 そう、KIDは焦っていた。
 いや、むしろ苛立っていた。
 自分がまだ答えを出せていない事に。


 あれから一週間自分はまだ答えを出せていなかった。

 名探偵に本当の答えを言うか否か。  言ってしまえばそれはつまり、自分の気持ちを名探偵に伝えてしまうという事。

 伝えてしまえばきっと名探偵とはもう二度とこうして会える事はなくなるだろうけれど。

 それでも、自分の思いを好きな人に知って欲しいと思う。
 けれど、いざ名探偵の顔を見てしまうとその決心もぐらついてしまって。


(結局堂々巡りだな…)


 土壇場でうじうじと悩んでいる自分に思わず苦笑がもれる。
 けれど、それも一人で居た一瞬の間だけ。

 新一が両手にコーヒーの入ったカップを持って来た時にはもういつものポーカーフェイスに戻っていた。






「ほら、砂糖とミルクいるか?」


 まるで普通の友人に接する様な態度の新一にKIDは内心苦笑する。


「えぇ。できればいただけますか?」


そして、砂糖とミルクを差し出した次の瞬間、新一は目の前の光景を疑いたくなった。


(こいつ何杯入れる気だ…)


 目の前のKIDがコーヒー1杯に対し砂糖を5杯という異常な量を入れているのだ。
 さらにそこに並々とそそがれるミルク…。


(あれはもうカフェオレをも通りこしてるな…)


 ブラックでしかコーヒーを飲まない新一は思わず頭を抱えてしまった。


「どうかなさいましたか名探偵?」


 そのコーヒーもどき(by新一)を美味しそうに飲みながらKIDがのほほんとそんな事を聞いてくるもんだから、なおさら頭が痛くなるのだが…。


「いや…何でもない…」


 こんな姿を全国の怪盗KIDファンが見たら卒倒するだろうなぁ、と思いつつあえてそれは言わないでおく事にした。


「名探偵…。こんな事を言うのは恐縮なんですが…」


 KIDが何やら渋い顔をしながら居心地悪そうにしている。
 一体何事だろうか?


「なんだよ。言いたい事があるならはっきり言え」
「苦く…ありませんか…?」


 見ればKIDは新一のマグカップをじーっと凝視していた。


「ぷっ……あははははっ……!!」


 あまりの意外な質問に新一は思わず声をたてて笑ってしまった。


「名探偵…笑い過ぎですよ…」


 KIDはそんなにおかしな質問だったかなぁ、と首を傾げている。


「お前ってもしかしなくても甘党?」
「まぁ、甘いものは好きですが…甘党なんですかね?」


 コーヒーに5杯も砂糖を入れる(ミルクも)分際で自覚症状がないらしい。
 あまりのイメージとのギャップに新一は笑いが止まらなくなる。
 しまいには笑い過ぎで涙まで出てくる始末だ。


「名探偵! 笑い過ぎですってば!」


 どうやら、言われて自覚したのか耳まで真っ赤に染めて新一に抗議の目線を向けてくる。


「いや、…悪い…悪……ぷっ…」


 けれど笑いは止まらなくて、それがますますKIDを赤くさせていくのだが。


「名探偵!」
「悪い…悪い…」

 流石に笑いつかれたので懸命に息を整え、なんとか平静に戻る。


「それで、答えはお解り頂けましたか?」


 このままでは当分笑われてしまうと判断したのか、KIDは話しを本題に何とか戻そうとしてくる。


「…あぁ、おそらくはな…」


 解らなかったのが悔しくて思わずそう答えてしまった。


「そうですか…」


…しばしの沈黙。


 新一は答えを切り出そうとはしない。
 KIDも答えを聞いてこようとはしない…。




 お互いが俯いたままどのくらい時間が経ったのだろうか。
 ゆっくりとKIDが新一を抱き寄せた。


「KID……?」


 KIDの気持ちなど微塵も解っていない新一はその意外な行動に戸惑った。


(こいついったい何がしたいんだ…?空調効き過ぎで寒いのか…?)


 などど見当違いな事を考えている始末で。
 一方KIDと言えば、


(…なんか悩んでるみたいだし…やっぱ迷惑なのかなぁ…)


 と、空調の事で悩んでいる新一をみて更に悩んでいたり。

 結局そのままの状態でまた沈黙が続いていく。






「で、答えはなんなんだよ。」


 沈黙に耐えられなくなったのか、新一はぶっきらぼうにKIDに尋ねる。


「名探偵の答えを聞いてから答え合わせをしましょう…」


 あくまでKIDのポーカーフェイスを保とうとしても上手くいかず何だか泣き笑いの様な顔になってしまった。


「…実はな…」
「はい」
「まだ解けてない…」
「そうですか………って、名探偵?」


 あまりに意外な答えにKIDのポーカーフェイスは完全に何処かに忘れ去られてしまったらしい。
 あとに残ったのは、ただ呆然と新一を見つめるだけの少年の顔で新一はそのギャップにまた吹き出してしまった。


「名探偵…それはあんまりじゃないですか…?」


 自分の腕の中で一生懸命に笑いをこらえる新一にKIDはよろよろと崩れ落ちる。


「悪い悪い…でも、お前が悪いんだぞ。あんまり面白い事するから。」


(面白いって…人のせいですか…名探偵…)


 心の中でいじけつつ、これ以上笑われるのは避けたいので本題に話を戻すことにした。


「でも、先ほど名探偵は謎が解けたとおっしゃいませんでしたか?」
「気にするな」


 途端に新一は顔をKIDの腕の中に沈めてしまう。
 どうやら謎が解けなかった事がよっぽど悔しかったのか顔を見せまいとしているらしかった。

 が、その行動が余りにも可愛過ぎてKIDの理性を吹っ飛ばせる事になってしまった。


「名探偵…その行動は反則ですよ…」
「ん? 何言って……んっ……」


 KIDは新一の細い顎をその端正な指で捕らえると自分の唇を優しく押し当てた。
 そのまま歯列をなぞって口を割り開き口腔の中を味わっていく。


「っ……ふっ……んぅ………」


 抵抗する新一を宥める様にそれでいて更に口付けを深くしていく。
 しばらく新一の唇を堪能していたKIDが名残惜しそうに唇を離すと、


「な、なにしやがる!」


 そう言って顔を真っ赤に染めながらKIDの腕の中で新一はばたばたと暴れ出す。
 しかし、相当鍛えているであろうKIDの腕の中から抜け出す事は出来ず、新一はしばらく暴れた後観念したように大人しくなった。


「すみません、名探偵」


 今更ながらにKIDは自分の行動を後悔する。
 自分の想いを告げる前にその唇を奪ってしまったのだから。


「謝るぐらいなら、んな事すんじゃねぇよ…」


 真っ赤になった新一はそっぽを向きながら答えた。


「でもこれでこの間の答えは解って頂けたのでは?」
「え…答えって…」
「私が嫉妬しているお相手ですよ」


 それを聞いた瞬間新一は真っ赤になって固まってしまった。


(ちょっと待て…嫉妬してる相手って…もしかして俺か!?)


 頭の中で一つずつキーワードが繋がっていく。


 黄色いバラは嫉妬。
 自分にキスをしたとするならおそらくは(1)の理由。

 それならばこの間の殺したい相手とは―――自分。

 そして予告状の「答えを頂きにまいります。」の答えとは…。




「名探偵?」


 腕の中で全く動かなくなってしまった新一に不安になったのか、KIDは新一の顔を覗きこんでくる。


「うるせぇ…」


 腕の中には先程よりもより一層真っ赤になった新一。
 それはきっと自分が言おうとした答えに気付いたという証拠なのだろう。


「どうやら答えは解って頂けたようですね。」


 そう言ってKIDは嬉しそうに微笑む。
 好きな人に気持ちを知ってもらえるのはやはり嬉しい。

 けれどこれでもう二度と彼に会う事は出来ないだろうと思うと胸が痛んだ。


「それで、お前は俺を殺すのか?」


 先程までの雰囲気とはうって変わって新一の声色と自分を見つめてくる瞳は真剣そのもので。


「いえ…けれど貴方が他の人の物になるのを見るのは耐えられないでしょうね」


 新一の真摯なまでの目線に耐えきれずKIDは顔をそむける。


「だったら、お前のものにすれば良いだろ?」


 紡がれたのは決して有り得ないと思っていた、けれど一番望んでいた言葉。


「名探偵…ご自分の仰った意味が分かってらっしゃいますか?」


 だから思わずこんな風に聞き返さずにはいられなかった。


「わぁってるよ。無自覚でそれを言えるほど俺は駆け引き上手じゃないぜ?」


 そう言って新一はKIDの手に自分のそれを重ねた。


「俺だってずっと…お前の事が気になってたんだよ。」
「名探偵…」
「ったく、一生言うつもりなんか無かったのにな」


 真っ赤になりながらも視線は決して逸らさずにそう言ってくれる。


「名探偵。ありがとうございます。」


 一生叶う事のないと思っていた自分の望み。
 それをこの人は叶えてくれたから。

 だから精一杯の気持ちを込めて彼の耳元で囁いた。







「愛していますよ、私の名探偵v」







 そうKIDが言った途端新一はこれ以上ないというぐらい真っ赤になった。
 そして、KIDの腕に顔を埋めて呟いた。





「俺もだよ…」





 その日から工藤家に新しい住人が増えた。
 そして、その住人によって隣人が心配していた新一の生活態度と食生活が大幅に改善されることになるのだが…。

 それはまた別の話…。






最初は『青い薔薇』で書く予定が何故か『黄色い薔薇』に…(苦笑)
そして何故か異常に素直な新一さん(笑)
何故?何故にそんなに素直なんですか?
書きたいのは天邪鬼な新一さんだったのに…(爆)
かっこいい新一さんが好きな方申し訳ないです(><)






back