真っ暗な闇の中
ただ一つ淡く優しく輝く光
寒々しい程に白々とした小さな丸
神々しい程に白々と輝く円
小さくて
それでいて言い様のないぐらい
圧倒的な存在感を持つソレは
何だかやけに彼に似ている気がした
白い月
「一人ぼっちで泣いてるみたいだ…」
一人思わず呟いた次の瞬間、我に返り苦笑する。
何とも自分らしくない事を呟いたものだ。
それでも、そんな自分を悪くないとすら思ってしまう事にまた苦笑が漏れる。
恋をすれば人は皆詩人になるというのは本当らしい。
昔はそんな事自分にはある筈がないと、そんな言葉を馬鹿にして生きてきていたのだけれど、どうやらあの時の自分の方がよっぽど馬鹿だったらしい。
今の自分はきっと、過去の自分が嫌悪するであろう程、感傷的で、詩人だ。
そんな事を考えながら、飽きもせずに闇に小さく浮かび続ける月を見上げる。
都会の空に星は少ない。
曇っていればそれはもう、本当は星なんてものは存在しないのではないかと思わせる程、それらは姿を見せなくなる。
けれど、そんな日でも月だけはその姿を闇にぽっかりと浮かべ続ける。
淡く冷たい光を纏いながら、一人だけで周りの闇に対抗するかの様に輝き続ける。
その白々とした光が痛々しいと感じてしまう。
それは一人孤独に戦い続けるあの孤高の魔術師と月を重ねてしまうからか。
一人白い衣装を纏い続け、家族も、友人も、大切な人も、そして自分すら騙し続け、苦しみながらも戦う奇術師。
昔の自分なら唯の犯罪者だと位置付けて何も思わなかっただろう。
けれど、あの時、彼に会ってしまった瞬間、どうしようもなく胸が締め付けられるのを感じた。
恋とか愛とか多分そんなモノじゃない。
酷く悲しげに儚く揺れた彼の瞳は今でも鮮明に思い出せる。
それでも、そんな瞳をしてでも、彼の言葉を突いて出たのはいつもの様な憎まれ口。
そんな言葉は無意味だと、もうそろそろ気付いても良さそうなものなのに、それでも虚勢を張るように、強くあろうとするアイツ。
悪くないと思う。
強くなくても、どれだけ苦しくて辛くても、強くあろうと強く見せようとする奴は嫌いじゃない。
一人で戦い続ける為には、どれも虚勢だとしても必要不可欠なモノだという事は俺が一番良く知っている。
小さくて無力だったあの頃の俺にはそれが最後の砦だったのだから。
けれど、いつか気付く時が来るだろう。
それがどれだけ、馬鹿馬鹿しく、小さな事かを。
一人では決して越えられないモノがある事を。
「泣かないといいな…」
その時に彼が泣かないと良いと思う。
もしも泣くことがあるのなら、その時誰かが彼を支えてくれれば良いと思う。
自分はきっと、彼を泣かす方の側だろうから。
「願わくば…彼が一人で泣きませんように…」
月に祈る。
宿敵とも言える彼が、幸せに暮らせる日が来る事を。