イベントに疎い新一

 それでもそれは非常に解り易くて


 それに気付いた新一は意地の悪い笑みを浮かべた








連休中の最大の弱点








「しーんいちvもうお昼だよ♪」
「ん…」


 布団の中猫の様に丸まっていた新一に笑みを零しつつ、快斗はちゅっとその頬にキスを落とす。
 それに身動ぎした新一はゆっくりと瞼を開け、少し焦点の合っていない瞳で快斗を見詰め返した。


「おはよv」
「……はよ…」


 昨日は新一の誕生日、という事でしっかり可愛がられてしまった(…)新一。
 そりゃもう朝までずっと離して貰えずに、寝たのは今朝の4時過ぎ。

 未だ眠い目を擦りながらゆっくりとベットから起き上がろうとしたのだが…。


「っ…!」


 身体に走った鈍い痛みに顔を顰めて、再度ベットへと逆戻りしてしまった。


「新一。ダメだよ急に起きようとしちゃ」

 身体まだ辛いでしょ?

「誰のせいだよ…」
「もちろん俺のせいv」
「………」


 何だかにこやかにそんな風に言われてしまっては文句を言う気も削がれてしまって。
 新一は一人内心で小さく溜息を吐いた。

 確かに新一だとて、快斗とそういう事をするのが嫌な訳ではない。
 寧ろ一番近くに快斗を感じられるのが嬉しかったりもするのだが…如何せん快斗とでは体力の差があり過ぎる。


(俺も鍛えようかな…)


 そんな事を考えてみたりしている自分も末期だと思うのだが。



「しんいち?」


 少しだけトリップ(…)していた新一に快斗が心配そうに声をかけてくる。
 その瞳が真剣に自分の事を心配しているのだと語っていて、新一は何だか酷くくすぐったい気持ちになる。


「大丈夫だよ。だからそんな顔するなって」


 クスッと笑って、自分の顔を覗き込んでいた藍を見詰める。

 綺麗な綺麗な藍。


「ほんと?」


 その瞳が不安げに揺れるのにほんの少しだけれど新一は優越を覚える。
 鉄壁のポーカーフェイスが剥がれるのは自分の前だけだから。


「ほんとだって。だから起こせよ」


 な?とほんの少し意図的に可愛らしく首を傾ければ、途端にぎゅーっと快斗は新一に抱きついて。
 そのまま、新一を抱えあげてしまう。


「俺は起こせって言っただけなんだけど?」
「いいでしょ? この方が楽だし、誰も見てないんだから♪」
「ったく…」


 不機嫌な顔を作りながらも、そっと自分の腕を快斗の首へ絡ませる。
 それは無言の肯定。


「ではお姫様をお連れ致しましょう♪」


 それに更にご機嫌になった快斗にお姫様抱っこをされたまま、2階の寝室から1階のリビングへと向かう。
 それは工藤邸では決して珍しくない光景。


「はい、着きましたよ。お姫様v」
「姫は余計だ。姫は」


 ソファーに下ろされ、優しくちゅっと額にキスを落とされて。
 「ちょっと待っててね?」と言って名残惜しそうに離れていった快斗を見送る。

 まったく…次の日にこんなに優しく労わる位ならここまでなるまでになんとか留めろと思うのだが、快斗曰く、


『可愛くて魅力的な新一がいけない!』


 らしい。

 思いっきり、自分のせいじゃないと叫びたいのだけれど、最終的に許してしまっているのだから自分のせいかもしれないと思いつつ。
 それでも何かしら仕返し(…)をしてやりたいのは事実で…。


「ん?」


 そんな快斗が聞いたら「新一のいけず!」と叫びそうな事を考えていた新一の目にひらひらと青空に舞う物体が窓越しに飛び込んできた。
それは色取り取りの…。


「ああ。そうか…」

 今日は5月5日だったなぁ…。


 ぼそっと呟いた新一の口元には酷く意地の悪い笑みが浮かんでいた。








「はい、しんいちv」
「さんきゅ」


 戻ってきた快斗に渡されたコーヒーカップを落とさないように両手で受け取って。
 ふーっと息を吹きかけて、少し冷ましてからそれを飲む。

 その光景も快斗から見れば、


『犯罪級に可愛いvvv』


 らしいがそんな事は新一の与り知らぬ事。


「しんいちぃ…」
「ん?」
「ぎゅってしていい?」
「………」


 じーっと見詰められて、そんな事を言われて。
 内心では「ほんとにこいつは17歳か?」と突っ込みたくなるのを必死で堪えて。

 新一はコーヒーの入ったマグカップをテーブルへと置いた。


「好きにしろよ」
「やったvv」


 新一のお許しを得て、快斗は新一の横たわっていたソファーの隙間へと腰を下ろすと満面の笑みでぎゅーっとその身体を抱きしめた。
 その快斗の腕の中で新一がこっそり人の悪い笑みを浮かべているとは知らずに。


「そうそう、快斗」
「なあに?」
「窓、少し曇ってるぞ?」
「ほんと?」


 そう言って快斗が窓の外を見た瞬間…



「〜〜〜〜〜!?」



 声にならない叫びを上げて快斗はパタッとソファーへと倒れこんだ。
 それでも新一を潰さないように倒れたのは流石というか何と言うか…。


「ま、これぐらいの報復はいいよな」


 クスッと笑った新一の視線の先では鯉幟が優雅に空を泳いでいた。








END.


最近微糖続き(?)だったのでちょっとギャグめで。
やっぱり快斗にとってこの時期は恐怖極まりないかと(笑)

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