「殺して…くれ……」
苦しげに紡がれた願い
それに俺は何も言えずに
ただ彼を抱き締めた
幻夢
「殺してくれよ…俺をこのまま……」
抱き締めた腕の中で、彼はただ呟き続ける。
『殺してくれ』と。
「嫌だ、と言ったら?」
「……そんな事言わせねえ…」
ぱっと、腕の中から逃れたと思えば、ぎゆっと彼は私のネクタイを引っ張った。
喉が絞まる。
「苦しいですよ」
「だから…どーした……」
「殺したいんですか?」
「ちげーよ。殺せって言ってるだろ?」
ああ、そうして欲しいのか、と。
どこか夢現の状態で思った。
「そんなに死にたいんですか?」
「違う。消えたいんだ」
「何が違うんですか?」
「そんなの…てめーが考えろ」
余計に力を入れられて。
苦しさに眉を寄せる。
それでもその力が緩む事はない。
「流石に…そのまま、だと…私、が……死に、ますよ?」
「なら、抵抗しろよ。それから俺を殺してくれ」
「嫌、です」
「お前が…先に死んでどーすんだよ」
「…で、、も……」
苦しさに声も声も出なくなった頃、やっと手が離された。
途端に口から流れ込んで来た酸素にごほごほと咳が溢れる。
それも彼は冷静な眼で私を見つめる。
「つまんねー男」
「…貴方を殺してくれるのが、いい男なんですか?」
「そうだよ。俺は殺して欲しいんだから」
それなら…。
「一緒に死にましょうか?」
微笑んで告げた言葉は、彼に鼻で笑われて終わった。
「やだね。犯罪者と心中なんてご免だ」
「殺されるのはいいんですか?」
「ああ」
ニヤリと笑って彼は私に向かって言う。
残酷な一言を。
「名誉の戦死、って気、しねえ?」
「まったく…戦っている最中じゃないですよ?」
「知るか。心中よりマシだ」
クスッと楽しげに笑った彼のネクタイを気紛れに引っ張ってみた。
あくまで軽く。
「……お前、殺す気あんのか?」
「貴方につまらない男と言われたくないですからね」
「それなら、早く力入れろよ」
「全く…残酷な方だ」
チュっと口付けて。
思いっきりそれを引っ張った。
「で、きんじゃねー…か……」
「ええ。だって……」
――――貴方が死ねば、貴方は私だけのモノでしょう?
「快斗!」
「んっ……あ、新一……?」
呼ばれて目が覚めたのだと気付く。
まだ起きて来ない頭であたりを見渡せば、見慣れた工藤邸のリビング。
そして、自分が寝ていたらしい場所はソファー。
「お前、大丈夫か?」
「えっ…?」
心配そうに、立ったまま俺の顔を覗きこんでくる新一に首を傾げる。
「顔色、悪い」
「ああ。大丈夫だよ…ほんと、大丈夫」
あはは、と軽く笑って。
まだ心配そうに自分を覗き込んできてくれる彼を安心させようと努める。
「でも…」
「大丈夫v あ、そうだ…! 新一がキスしてくれたら元気になるかもv」
「……ば、ばーろー! してやる筈ねえだろうが!」
真っ赤になってぷいっとそっぽを向いて逃げてしまった彼に安心して、快斗はもう一度目を閉じた。
それが、夢であるのを信じて――――。