大切で大切で堪らない人

 遂げなければならない目的
 護りたい人達

 大切なモノなんて挙げればキリが無い
 大切な人なんて挙げてしまえばキリが無い

 だけど、その中で何を切り、何を残すのか
 それは酷く難しい問題に思えた










貴方の一番大切なモノは何ですか?











「貴方の一番大切なモノは何?」


 会って開口一番にそう言われた。
 自己紹介も、言い訳の言葉も、用意していた全ての選択肢を一瞬で消された。


「それは勿論新一だよ」


 それでも次の瞬間、本当に彼女が言葉を放った次の瞬間には口を開いていた。

 嘘じゃない。
 これは事実であり、真実。


「そう。なら貴方は他にどれだけ大切なモノがあるかしら?」
「え…?」


 投げられた問い。
 一番最初の質問の様に咄嗟に答える事の出来ない問い。


「答えられないの?」
「どれだけって言われても…」
「なら別の聞き方をするわ。貴方、『彼さえ居れば他に何も要らない』なんて陳腐な台詞本気で言えるのかしら?」
「勿論!」


 それは勿論言えるに決まっている。
 彼だけが俺の中で一番大切な人。


「なら、貴方は工藤君を護る為なら自分は勿論、貴方の家族だろうと友人だろうとそれを躊躇い無く切り捨てる覚悟があるのね?」
「それは…」


 甘い言葉を遮るように投げられた辛辣な言葉。

 家族。
 友人。
 親友。
 幼馴染。

 今まで自分が大切にしてきたモノ。


「無いの? 貴方にはその覚悟がないって言うの?」
「………」


 想像した。
 母さんが倒れる姿を。

 想像した。
 幼馴染の彼女が血に濡れる姿を。


 勿論新一は大切。
 これ以上無い程に、自分の全てを捨ててもいいという程に愛せる人。


 けれど―――。





「俺は……切捨てられない」





 想像した後に発した言葉は、思いはソレだった。
 自分の甘さを、先程の言葉の浅はかさを悟らされた気がした。


「そう…」


 苦しげに吐き出された快斗の言葉に哀は一つ溜息を吐いた。
 それできっと終わりだと思った。

 けれど彼女はもう一度口を開いた。










「護るモノが多い者程、足枷は重いわ」










 事実その通りだった。

 キッド。
 パンドラ。
 母さん。
 幼馴染。
 友達。

 事実、自分が護るモノは、護りたいモノは多過ぎて、重過ぎる。
 きっと彼を護り切る為には。










「護るモノが多ければ多い程、人はいざという時に身動きが取れなくなる」










 きっとソレは事実だ。
 彼女が感じた事実。










「でも―――」










 ああきっと、彼女は次の瞬間言うのだろう。
 『貴方は彼に相応しくない』と。















「それが無ければ、『彼』だけが一番だと言う様な男には………きっと彼は付いては行かないでしょうね」















「え…?」


 聞き返してしまった。思わず。
 余りにも予想外の答えに。


「そのままよ。『彼さえ居れば…』なんて今時何処のドラマでも流行らないわ」
「でも…」
「彼は自分だけ助かればいいなんて思う人じゃない。
 寧ろ彼は自分を犠牲にしてでも人を助けてしまう様な人。
 もし、貴方が彼を助ける為に家族や友人を何の躊躇いもなく見捨てたのを知ったら――彼はきっと自分を呪うでしょうから」


 言われてやっと気付いた。
 彼女は最初からそれを言うつもりだったのかと。










 ―――人は人を選別し、何の躊躇いもなく切り捨てる事なんて本当は出来ないのだと。















「貴方になら工藤君を任せられそうね。優し過ぎる怪盗さん」
「お褒めに預かり光栄ですよ。親切なお隣のお嬢さん」


 それは怪盗が科学者に認められた瞬間だった。















 人は大切なモノが多ければ多い程身動きが取れなくなるけれど

 大切なモノが多過ぎるぐらい、それだけ周りを大切にしてしまう優しい人だから


 ―――だからこそ、彼は貴方に惹かれたんでしょうね

















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