──深夜2時半…丑三つ時。
静まり返った工藤邸に、一匹の白い鳥が舞い降りる…
───罪 と 罰。【side K】
「…ここだったのか」
ベランダに降り立った彼──黒羽 快斗は、何の手間もかけずにとある部屋の鍵を開け…そう呟いた。
一身上の都合により、ある目的の為この純白の戦闘服に身を包み……怪盗 KIDなる名前を名乗っている人物。
以前、この部屋の主の姿を真似る際、1度だけ訪れた事のある部屋は…前回よりも湿気っぽく、埃っぽい…
「…こんな処でなぁに寝てンだよ、コナン?」
溜息混じりに苦笑し、ベッドの上で小さな寝息を立てているコナンに歩み寄る。
本来なら彼の立場上、決して近寄りはしないだろうこの家。
彼の身代わりを買って出た際に、今の彼がどんな状況下にいるのか…ある程度は察している。
そんな彼が──恐らくは1人になる為に──ここに居るのは…
「やっぱ…オレのせい、だよな…」
手袋をしたままの手で優しくコナンの髪に触れる。
彼が、自分の正体に気付いている事は…何となく解っていた。
それだけではなく、己の目的までも知っている事も…
しかしKID──快斗は何も語らず、日常と言う名の光りの中で彼と接してきた。
…それが…快斗にとって唯一の安らぎだったから…
普段は闇に被われた心を灯してくれる…ただ一つの光り──
だが同時に、その光りを影らしているのが自分である事も理解していた。
だけど、快斗は彼の傍を離れる事が出来なかった…。
ずっと焦がれていた蒼い宝石…
この手に入れるには、余りにも自分の手は汚れすぎている。
それでもせめて…自分の事を知って貰いたくて…
……その瞳に、自分の姿を見て貰いたくて…近づいた。
本来なら、彼と合間見えるのはこの白い服を着ている時だけ。
それ以外で逢う事は…決して侵してはならないタブーだった。
彼の瞳は慧眼の瞳。
全ての偽りは彼の前で白日の下へと晒される。
彼自身が白日──太陽であるように…
「ごめん、な…?」
何も言えない自分を許して欲しい。
中途半端に手を伸ばした自分を…許して欲しい。
…これから先も、決して口にする事はないだろうけれど…今だけは許して欲しい…。
「好き…だよ、新一…」
この身が朽ち果てるのが先か…
それとも己を弁えず、太陽に手を伸ばし焼け焦げるのが先か…
願うなら、この凍て付いた心を溶かしてくれた『太陽』を救い出してからが良い。
…救った後で燦然と輝くであろう、彼の光りを浴びて朽ち果てたい。
そんな事を言ったなら、きっと彼は酷く怒るだろう…
それでも…白に身を包み闇へと堕ちていった自分には相応しい。
最後に、声には出さずゆっくりと口を動かす。
空気だけを震わせて…今は眠りについている光りに向けて言葉を発する──
「 」
──深夜2時半。丑三つ時…
誰にも聞かれる事のなかったその告白は…KIDの守護星だけが聞いていた…──
愛してるから言わない。好きだから聞かない。
好きだから聞けない。愛してるから言えない。
押さえ込んだ2人の気持ちは…これから先も口には出さない、月だけが知る秘密。
知っているのに、知らない振り。
解っているのに、解らない振り。
それが───罪 と 罰。