──とある病院の一室。
僅かな機械音が聞こえるその部屋で、1人の男が眠っていた…
Kiss me all night long -一晩中キスをして-
「お帰りなさい、工藤君」
「ああ…ただいま」
ここ暫く、日本警察の救世主と呼ばれる工藤 新一が帰宅する場所は、あの立派な洋館ではなく…ある病院の一室だった…。
「アイツは?」
「…相変わらず。何か飲む?」
「……じゃ、紅茶」
「解ったわ」
新一がいない間、ずっと此処で『彼』の世話をしていた志保。
本当なら片時もこの場から離れたくないだろう、新一が唯一『彼』を任せられる存在…
志保がリクエスト通りの紅茶を用意している間、新一はそっと…いつもの定位置である『彼』の枕元に立つ。
そんな新一を横目に、志保は内心で涙を流す。
少し前までは珈琲しか飲まなかった新一。
それがここ最近では紅茶に変わっていた。
──それは、『彼』が珈琲よりも紅茶が好きだったから。
「はい…、工藤君」
新一の父・優作が用意した病室。
此処での生活が出来るよう、不自由が無いようにと整えられた設備。
…工藤邸のリビングと、さして変わらない雰囲気を持つ…病室。
「さんきゅ」
「…私は帰るけど、何かあったらいつでも良いから連絡して」
「解ってる」
煎れたての紅茶を渡し、準備を既に済ませてあった志保はそう帰宅する旨を伝える。
それに新一も頷き、受け取った紅茶をサイドテーブルに置き、
「毎回悪ぃな…助かる」
と、礼を述べた。
「良いのよ。…頼りにされてるって自惚れられるから」
心とは裏腹に茶化したような口調。
そうでもしなければ、身体中を締め付けるこの熱は誤魔化せない。
声が震えていないか…それだけを考える。
「何言ってンだよ」
普段の志保からは想像出来ない言葉。
それに新一が苦笑を浮かべ、
「お前以外、コイツのことで頼りに出来るヤツはいねぇよ」
「っ!」
その言葉で目頭に込み上げてきた熱を誤魔化す。
「…あら。私も結構、捨てたモノじゃないのね」
くすっと笑い、鞄と上着を持ち病室を出る。
心の中でいくら泣いても…絶対に涙は見せない。
そんなことをしたら、『彼等』が哀しむのを知っているから…
「……ありがとな、宮野」
1人になり、響き渡る小さな機械音が再び聞き取れるようになった頃、新一は僅かに唇を動かした。
彼女が何を思い、何を考え『自分達』に接してくれているか解っているから。
『…なあ、キッド』
『なんでしょう』
『なんで毎回この体勢なんだ?』
『こうすれば、貴方の存在を確かめられるでしょう?』
『ンなの、別に抱き締めなくったって出来るだろ…』
『いいえ…抱き締めることに確認の意味があるのです』
『…意味?』
『触れれば貴方の体温を感じることが出来る。そうすれば…生きている事を感じられる』
『………』
『……それに』
『?』
『こうしていれば、いつでも貴方に口付ける事が出来るv』
『なっ…///』
『出来る事なら一晩中…、貴方をこの腕に捕らえ…』
『…………』
『──キスしたい…』
『キ…ッド……』
新一がまだ、キッドの腕の中にすっぽりと包まれていた頃に交わした言葉を思い出す。
あの時は解らなかった彼の言葉の真実。
『生きている事』を確かめていたのは……自分本人。
コナンだった新一の事ではなく、キッドとして夜空を駆け巡り、そして狙われている自分自信の事だったのだ…。
コナンの身体に触れることで、まだ自分が生きている事を確認する。
それがいつまで続くのかと…自問自答しながら…
「なあ…」
ベッドで今だ眠る人物へ呼びかけ…
「お前あの時…言ったよな」
…答えの返って来ない問いを投げかける。
穏やかに眠るその人物は、新一が傍に居るのが解っているのか…何処か微笑んでいるようにも見える。
そんな彼に、新一は苦笑を浮かべ言葉の続きを口にする。
「お前のおかげで、こうして元の姿に戻ったンだ……その礼、させてくれよ」
──目を閉じれば、今でも浮かぶ…
「…囚われてやるから…」
白い羽根が小さな身体を包み込む瞬間──
「一晩中、その腕の中に囚われてやる。一晩中……キス、して構わねぇから…」
──目 ヲ 覚 マ セ …
『15 English titles』 titles 13. Kiss me all night long -一晩中キスをして-
Author by 桜月 雪花
【桜月様後書き】
レッツ☆チャレンジ第2段(笑)
今回はシリアスネタです。
…きっとタイトルから甘々を想像していた事でしょう♪
それを裏切って見せよう! ってのが今回のチャレンジ項目(妖笑)
……まあ、上手くいってるかどうかはともかくとして(爆)←責任持てよ;
敢えて快斗の名前は出しませんでした。
そして、どうしてこういう状況になったのかも…
軽く書いてはあるけど、真相はご想像にお任せ…ってことでv
──これ。ハッピーエンドとアンハッピーエンド、どっちが良いでしょうねぇ?
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【薫月コメント】
もう最高です雪花姉!!!
思わず目頭熱くなったわ…ほんと…(半泣き)
タイトルから思いっきり甘々を予想していたのでかなり裏切られたわよ!!!
いい…雪花姉の書くシリアスわやっぱ良いわぁ…(余韻に浸りまくりらしい)
ハッピーエンド願わずにはいられませんわ…(結局は甘いの好き・爆)
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