どんなにお菓子が大好きで

 どんなにお菓子を作るのが上手い恋人でも


 手を出せないお菓子がある








手出し出来ないお菓子








「ん〜…」


 何時もの様にソファーに深々と腰をかけて昨日出たばかりの新刊を読んでいれば、隣で何やら眉間に皺寄せて唸っている恋人が居て。
 しかもその手には恋人の大好きなお菓子の本があって。

 その表情とその本が一致しなくて新一は首を傾げた。

 何時もは見ているこっちが嬉しくなるような、それはそれは楽しそうな顔で見ているのに…。


「どうかしたのか?」


 結局納得いく理由が解らずに素直に本人に聞いてみれば、途端に本を放り出し泣きそうな顔で抱きついてきた。


「しんいちぃ〜」
「な、何だよ」
「あのね…あのね…」


 うるうると瞳に涙すら浮かべて自分を見詰めてくる恋人はなんとも可愛らしいのだが…。


「快斗…重い…」
「あ、ごめん」


 思いっきり快斗に乗られる形になっていた新一は重さに耐えられず根を上げた。
 その苦しそうな声に我に返った快斗はぱっと手を離し自分の方に新一を引き寄せると改めて抱きしめた。

 が、その表情には相変らず元気が無い。


「で…どうしたんだよ」
「あのね………作りたいんだけど作れないお菓子があるんだ…」
「お前が作れないお菓子?」
「うん…」


 器用過ぎる程器用なこの恋人に作れないお菓子があるのかと新一は首を捻る。

 そりゃ本業じゃないから仕方が無いと言ってしまえばそれまでなのだが、快斗に作れない物なんてないと本当に思っていた新一にとってはかなりの驚愕だったのだ。
 内心では『こいつに作れない程手の込んだもんなんか誰が作れんだよ。』と思っているのだから、本当にらぶらぶバカップルである。


「何なんだよお前の作れないのって…?」
「あのね…」
「ん?」
「飴…」
「飴?」
「そう…飴細工…」
「ああ…」


 快斗の答えに新一は成る程、と納得した。
 手が命であるマジシャンにとって飴細工なんて手を酷使する物体を作ることは出来ないだろう。


「新一に薔薇の飴細工作ってあげたかったのにぃ〜」


 相変らずうるうるとした瞳のまま嘆く恋人の頭を新一は慰める為に優しく撫でてやる。


「まあ、お前はマジシャンなんだからしょうがねえだろ?」
「それはそうなんだけど…」
「それに…」
「ん?」
「そんな甘ったるそうな物体より、お前の作ってくれるレモンパイの方がいい」
「しんいち〜vvv」


 新一の嬉しい一言にさっきまでのうるうる加減はどこへやら、すっかり満面の笑みに戻った恋人に新一も満足そうに微笑んだ。


「お前はマジシャンなんだからさ…飴細工の薔薇じゃなくて本物出してりゃいいんだよ」








END.




ぱらぱらとお菓子の本を見てて快斗でもこれは作れないだろうと…。
ちなみに僕が昔パティシエを諦めた理由はこれ(爆)←熱い物体触るの駄目だからι


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