『どうして私の気持ち解ってくれないの!』
泣きながら言われたその言葉に吐き気がした
〜他人という幸せ〜
「コナンどうしたの?」
顔色悪いけど一体何言われたの?
電話の邪魔にならない様にと離れて、電話が終わったのを察知してコナンの元に戻ってみれば酷く青い顔をしていて。
しかもその端正な顔は辛そうに歪められている。
「なあ、快斗」
「何?」
「蘭に『どうして私の気持ち解ってくれないの』って言われたんだ」
どう思う?
コナンの問いに快斗はあからさまに顔を顰めた。
「…嫌な台詞だね」
俺そういう事言う奴嫌いなんだけど。
「………」
「だって他人なんだから、気持ちなんて解らなくて当然じゃない?」
全部解ったら気持ち悪いと思うんだけど。
ムカついたまま素直な感情を吐き捨てる様に言葉を放ってしまった後で、快斗はしまったと口を押さえた。
「ごめん…」
「何で謝るんだよ?」
「だって蘭ちゃんの事悪く言っちゃったしさ」
コナンの大事な人でしょ?……ごめんね。
途端に頭を垂れる犬みたいにしょぼんとしてしまった快斗の手をコナンはそっと握った。
その意外な行動に快斗が瞳を見開くと、コナンはにっこりと極上の笑みで微笑む。
「俺も同じ事思ってたから良いんだ」
「…え?」
「……お前が俺の代わりに言ってくれたから良いんだよ」
自分も同じ事を思ったから。
「コナン…」
「でも…俺のせいだからさ…」
俺にそれを言う資格はないから。
その綺麗な瞳を伏せ、ぎゅっと快斗の手を握り締めてくるコナンの頭を快斗はそっと撫でてやる。
「コナンのせいじゃないよ」
そうなりたくてなった訳じゃないだろ?
「……でも…」
「それに、そうなったからってあんな事言われなきゃいけない理由にはならないだろ?」
きっとコナンが新一のままでも彼女は何時か同じ台詞を君に言ってたよ。
人の本質なんてそうころころ変わるもんじゃないから。
「…快斗」
泣き出しそうなのを我慢するように奥歯を噛み締めるコナンに、快斗は苦笑しながらその小さな身体を抱き寄せた。
「コナン、泣きたい時は泣いて良いんだよ?」
俺の胸でなら何時でも泣いて良いから。
「…泣いてない」
「コナン」
「泣いて…ない…」
肩を震わせながら尚そう言うコナンに、彼の矜持の高さを今更ながらに見せ付けられた様な気がして。
快斗はコナンを抱く腕に少しだけ力を籠めた。
「うん。解ったから」
だからもう少しこうしてて。これは俺からのお願い。
「………ありがとう…」
ほんの少し掠れた声で小さく小さく紡がれたコナンの精一杯の言葉に、快斗は少し微笑んで。
彼が落ち着くまでずっとずっとその震える肩を抱きしめていた。
快斗の温かい腕の中で、零れる涙は止められなくて。
それでも泣くことで少しずつ心が軽くなっていく様な気がする。
(この差なんだろうな…)
快斗は決して自分に何か強要する様な事はしない。
自分の感情を押し付けるのではなく、俺の全てを受け入れた上で傍にいてくれる。
それは夜の顔を持つ彼にとって甘受出来るレベルを遥かに超えていると思うのに、それでも一言の文句も言わず自分を受け入れてくれた。
『江戸川コナン』という存在を認めてくれた。
蘭と決定的に違うのはきっとその差。
快斗となら『他人』のまま幸せになれる。
だからこいつの傍になら居られると思った。
こいつとなら一生一緒に居られると思った。
―――他人だからこそ幸せなんだろうな…。
END.
初めて書いた快コがこんなブツかよι
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