いつからこんなモノに頼るようになったのか…。
手を出したのは己の弱さ…。
〜禁断症状〜
「ふぅ…ったく、警部達の前じゃ流石に吸えねえもんな。」
そう呟きながら新一の右手に持たれているのは一本の煙草。
『煙草は二十歳になってから』なんて法律のせいで、まるで犯罪でも犯しているかのようにビルの屋上でこそこそと吸う羽目になる。
まあ実際法は犯しているのだけど…。
未成年者喫煙禁止法第1条
【満二十年ニ至ラサル者ハ煙草ヲ喫スルコトヲ得ス】
と満二十歳未満の喫煙は法律で禁止されている。
ただこの行為違反に対する罰則がないため、見つかっても直接的な処罰はなくせいぜい厳重注意がいいところだが。
だからって吸うのが悪い事に変わりは無いんだけど…。
「まあ、ばれなきゃいいんだよ。要は」
道端や公園で制服のまま煙草をふかしている奴らを見ると、思わず苦笑が漏れる。
(そういうのは見えないとこでやるもんだぜ?)
そう思ってしまう俺は彼らよりよっぽど性質が悪いのかもしれないが。
「おやおや、『警察の救世主』がこんなところで一服…ですか?」
「悪いかよ」
見知った気配に、新一は煙草の火を消すこともなくその整った唇から煙を吐き出す。
「まあ、ここは『良いことではない』程度にしておきましょうか」
『怪盗』なんてものをやっている私が貴方にどうこう言える立場ではありませんしね。
「…わかってんじゃねえか」
そう、お前は捕まるが俺は捕まらないぜ?
シニカルな笑みを浮かべ二本目の煙草に火をつけた新一にKIDは苦笑する。
「真面目な高校生探偵の『工藤新一』がこんな事をしているとは誰もご存知ないのでしょうね」
「ああ、ばれるようなヘマはしないさ」
良い子ちゃんの仮面も慣れれば便利なもんだしな。
「いったい何時から?」
「…あんまり昔過ぎて忘れちまったな」
「まったく…丈夫とは言えない身体でしょうに」
「いいんだよ。それにもうやめられないさ」
とっくのとうに俺は『ニコチン中毒者』なんだよ。
そう暗く笑う彼に、KIDはかける言葉を見つけられないでいた。
余りにも強く、そして余りにも儚いこの彼がこんなモノに手を出したのにはそれ相応の理由があった筈だから。
中途半端に『身体に良くないからやめろ』なんて事は言えない。
「お前はやらないのか?」
深くは聞かないがお前俺と歳近そうだしな。
「…私はやりませんよ。匂いから足が着くなんて無様な真似はしたくないですしね」
「そうか。それもそうだな」
その点からいったら俺もやめなきゃいけないんだろうけど…。
「やめたいんですか?」
「…さあな」
KIDの問いに、決して強がりではなく本音でそう答えた。
やめたいのか、やめたくないのかすら解らない。
ただもう、これがないと駄目な気がしたから…。
だからこそあの日からずっと手放せないでいるから…。
「やめたくなったら呼んで下さいね」
一人少しの思考時間を取っていたら、突然KIDからそんな言葉を告げられて。
「なんでだよ?」
ニコチンパッチでも持ってくるのか?
そう冗談交じりに言おうとした言葉はKIDの真剣な眼差しの前に飲みこまれて。
「話し相手ぐらいにはなりますから」
ストレスからでしょう? 貴方のそれは。
いえ…『ストレス』の一言では片付けられないような深いものなのでしょうけれど。
「ほぅ…怪盗KIDが俺の煙草代わりになってくれるとは破格の待遇だな」
だったら毎日でも呼ばなきゃならなくなるぜ?
お前はそれでも来るって言うのかよ?
その言葉は「中途半端な慰めならいらない。」そう暗に告げていて。
「ええ。貴方が望むなら毎日でも、それこそ二十四時間いつでも参りますよ」
そうしなければきっと貴方の心は癒せないから。
「…ならうちにくるか?」
二十四時間居るんだろ?
「ええ、何時でも貴方の御側に」
「奇特な奴だよなお前って」
『探偵』の煙草代わりになる『怪盗』なんて聞いた事ねえぞ。
そう笑う彼の顔が少し明るくなった気がして、KIDは新一にそっと囁いた。
「貴方だけですよ。こんなに…壊れて欲しくないと思う人は」
貴方がソレから抜け出せないのなら私が代わりになるから
そんなものよりももっともっと…それこそ私に禁断症状が出るぐらいに…
だから手を出したくなったら呼んでください
何処にいようと必ず貴方の元へ参りますから…
END.
これは敢えてノーコメントで…(何)
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