神様、教えて下さい
愛しい相手が居るのに
運命の人と出会ってしまったら
それは罪と呼ばれるのですか?
罪と罰
「もう快斗ってばまた遅刻!?」
「わりぃ…出かけにちょっと手間取って…」
「じゃあ今日は全部快斗の奢りね♪」
「はい…;」
キッドの仕事の下見があった。
彼女との約束もあった。
それでも仕事を優先した俺は人として、恋人としてどうなのだろう。
そんな考えが頭を過ぎったが、そんな事などおくびにも出さず彼女にニッコリと笑いかける。
それが全て。
それが理想。
全てを覆い隠す事こそが優しさだと思っていた。
夜の帳が下りる。
街がネオンに彩られる。
闇に浮かび上がる都会のビル街は異様なほど輝く。
それは現実を忘れさせ、この逢瀬を可能にする。
「こんばんは。名探偵」
細い肩を抱き寄せる。
夜風に晒されていた身体はスーツ越しでもその冷たさを伝えてきた。
「おせぇよ」
「すみません」
約束の時間にはもう三十分近く遅刻だ。
それでもこうして待っていてくれる彼に嬉しくなる。
帰る事など単純で簡単な事なのに。
「別に、解ってるからいい…」
彼は知っている。
『私』の目的を。
彼は知っている。
『私』の全てを。
「名探偵…」
俯いた彼が愛しくて。
その言葉が苦しくて。
全てを包み込みたくて、けれどそれは叶わなくて、唯ぎゅっと抱き締める事しか出来ない。
「俺は…俺だけは解ってるから」
背に回される腕。
震える肩も、小さく呟かれた言葉も、全てが愛しくて切なくなる。
どうして『私』は彼を苦しめ続ける事を選んでしまったのだろう。
「新一」
如何する事も出来なくて、助けを求める様に彼の名を呼ぶ。
顔を上げた彼は、柔らかく微笑んでくれた。
「そんな顔するな。俺はお前の為に居るんだから」
「新一…」
眩暈がしそうだった。
目頭が熱くなった。
どうしてこうもこの人は自分に優しいのだろう。
どうしてこうもこの人は自分を愛してくれるのだろう。
「俺はお前が生きていてくれさえすればいい」
真っ直ぐに向けられる蒼。
吸い込まれそうになる。
飲み込まれそうになる。
いっその事溶け込んでしまえたらいいと思うのに。
「お前はお前の行きたい道を行けばいい」
溶け込んでしまえたら。
溶け合ってしまえたら。
何も悩まずに済むのに。
「俺はお前が何をしようと、何処に居ようと、お前の事を想ってる」
全てを消してしまえたら。
全てを捨ててしまえたら。
俺は君と愛し合えるの?
「新一…でも俺は…」
「解ってる。俺はお前にこれ以上を望む気はない」
彼は全て知っている。
『俺』が誰と居るのか。
彼は全て知っている。
『俺』が誰を抱くのか。
「俺はお前が生きていてくれればそれでいいと言っただろ?」
無償の愛と呼べばいいのか。
まるで聖母マリアの様なそれに涙が零れそうになる。
けれど自分には泣く権利すらない。
全てを手放す事が出来ない俺の不甲斐無さが全ての始まり。
それは心が切り裂かれても消す事の出来ない俺の罪。
「お前はそのままでいい。俺もこのままがいい」
今を壊す気はないと。
このままがいいのだと。
傷つくのすら厭わないと。
自分を見詰める彼の蒼をそれ以上見ていられなくて、もう一度彼を腕の中に閉じ込めた。
「ごめん」
「謝るな」
「でも…ごめん」
謝る事しか出来なくて。
それでも全てを壊す勇気すらなくて。
愛しい人が居る。
愛している人が居る。
けれどそれでも…それ以上の運命の人に出会ってしまった自分はどうしたらいいのだろう。
「キッ…」
「新一、愛してる」
自分を呼ぶ彼を封じ込める様に言葉を紡ぐ。
それが一番の罪の言葉だと知っていても、そうする事しか出来なかった
神様、これは罪ですか?
神様、彼を傷付けるのはその罰ですか?
それでも俺は、私は…どちらも放す事が出来ないのです。
END.
どっちも大切だから放す事が出来ない。
そういう想いもあると想うんです。
傍から見れば唯の二股だけど、本人にとってはどっちも本当の愛。
どっちかを選ぶのは中々困難だと…。
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