聖夜にも関わらず罪を犯した自分をわざわざ追いかけて来てくれた貴方に
せめてものお詫びとしてささやかなクリスマスプレゼントを贈らせて下さい
〜聖夜の贈り物〜
こんな記念日の夜なのに自分を待つ為にこんな廃ビルの屋上で自分を待っていてくれた彼に心の中が温まるような気がした。
そしてふわりと彼の眼前に降り立って、にっこりと微笑んでみせる。
「今宵は誰かとお約束でもあるのかと思っていたのですが…」
お一人だとは意外ですよ。
「お前こそ一緒に過ごす相手は居ないのかよ」
生憎と独り身なんでな。
自分の言葉に同じような言葉を返してくれた探偵に怪盗は苦笑を返す。
「私も独り身なんですよ」
奇遇ですね名探偵。
「…まあそういう事にしといてやるよ」
嫌な奇遇だけどな。
そう言って笑う新一にキッドも笑い返して、自分を此処で待っていてくれたが為に冷え切ってしまった華奢な身体をふわりとマントで包み込んだ。
「寒かったでしょう?」
「いや。最近寒さにも慣れたから」
誰かさんのお陰でな、と続けた新一にキッドは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「すみません」
そう、自分さえ彼を呼ばなければ…彼に逢いたいが為に暗号を難解な物に等しなければ彼をこんな寒空の下で待たせずとも済むのに。
そう考えると自分は紛れもなく彼に負担をかけているのだから。
「ばーろ。お前が謝ることなんてねえだろ」
そんなキッドの考えなど全てお見通しらしい新一はそう言って、眩しいほどの笑みをキッドへと向けた。
「俺が勝手にお前に逢いに来てるだけなんだからお前が気にする必要なんかねえんだよ」
「ですが…」
「……俺が逢いたいだけだ。気にするな」
「名探偵…」
新一から簡潔ではあるが何だかとても嬉しい事を言われて。
キッドの顔にも優しい笑みが浮かぶ。
「…クリスマスプレゼントを頂いてしまいましたね」
「は? 俺は何もやってないぞ?」
何のことだか解らないと首を捻る新一にキッドはにっこりと微笑む。
無自覚で言ってくれたという事が余計に嬉しい。
だってそれは彼の本音だということだから。
「いえ、頂きましたよ。とびっきのプレゼントを」
彼とほんの僅かでも過ごせたこの一時と、そして先程の一言と。
これ以上はない極上のプレゼントを貰ってしまった。
「…?」
相変わらずキッドの言葉の意味が解らずに首を傾げたままの新一を包み込んでいたマントと自分の腕を外す。
もうこれ以上彼の時間を割く事は出来ないと思ったから。
そして、彼が薄着で来る事は解っていたから代わりに予め用意していた厚手の白いコートを着せてやる。
「おいキッドこれ…」
「それは私からの貴方へのクリスマスプレゼントですよ」
そのままでは風邪をひいてしまうでしょ?と言えば渋々ながらに納得した新一をキッドはふわりと再び後ろから抱きしめる。
最後の約束を取り付ける為に。
「名探偵…来年もまたお付き合い頂けますか?」
「…暗号が面白かったらな」
やっぱり彼らしい一言にくすくすと笑って、
「頑張りますよ。貴方にお出で頂けるように」
と、宣言する。
来年も貴方に逢いたいからと。
「楽しみにしててやるよ」
口の端を上げ、探偵としては些か不謹慎な発言をした新一は自分から外されかけていたキッドの腕を自分に引き寄せる様に手を添える。 そして新一の行動に驚いたキッドを振り返り肩越しに見詰めて、
「だからもう少しだけこうしてろ」
とだけ告げると、ほんの少し色付いた頬を隠すかのように直ぐに顔を真っ直ぐに戻してしまう。
「えっ…」
「別にいいだろ。それともこの後用事でもあんのかよ」
「いえ、特に何もありませんが…」
「だったらもう少しこうしてろ」
ぎゅっと添えた手に力を籠めればそれに答えるように自分に回された腕の力も少しだけ強くなって。
その腕が自分に伝えてくる暖かさに新一はほくそ笑んだ。
キッドの言葉の意味はさっぱり解らないけれど、自分の方こそクリスマスプレゼントを貰ってしまったと思う。
先程貰ったコートと、来年も暗号をくれるという約束と、そして今包み込んでくれているこの腕の優しさと。
自分だけこんなに貰ってしまって何だか申し訳なくて、来年は自分もこいつにプレゼントを用意してやるかと密かに思う。
決して口になんか出してやらないけど。
「名探偵」
「何だよ」
「もう少しだけ私にお付き合い頂けるなら…」
「?」
「貴方だけに聖夜の奇跡を御贈りしますよ」
「聖夜の…奇跡?」
「ええ」
キッドの言葉を鸚鵡返しに言った新一の耳元で、キッドはそっと囁く。
「貴方に今宵最後のクリスマスプレゼントを…」
ワン…ツー…スリー!
キッドのカウントと共に真っ白な煙幕に遮られた視界。
そしてそれが晴れた時、目の前に広がっていたのは…。
「…お前これ……」
「お気に召して頂けましたか?」
ひらひらと自分の下へ舞い落ちてくる白。
それはこんな都会では見る事が珍しいモノ。
暫く見蕩れていた新一は数回瞬きをした後、キッドの腕を掴んでいた右手だけを外してそっと手を伸ばしてその白を捕まえる。
けれどそれは予想していた冷たさを新一に伝えてくることはなく、溶けることもせずに新一の手の中に留まった。
よく見ればそれは真っ白な薔薇の…。
「…花弁…?」
「ええ。本当は本物を用意したかったのですが…」
それでは貴方が寒い思いをなさるでしょ?
用意出来なかったのではなく、意図的に用意しなかったのだと語る魔術師に新一は笑う。
確かに彼ならその気になれば雪でも何でも降らすことが出来るのだろうと。
「ですからこれは貴方だけの為の…」
ホワイトクリスマスなんですよ。
「………気障」
相変わらずな怪盗の言い回しに口ではそう嫌そうに言って。
けれどその花弁を大切そうにそっとその手で包み込んだ。
降りしきる真っ白な花弁に包まれて、二人きりの聖夜は静かに過ぎていく。
―――聖夜の贈り物を貰ったのはどっち?
END.
ぎりぎりで書いた為に粗が目立ちまくり…ι
と言う訳で、メリークリスマスv
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