ふんわりと触れる温もり

 目を開くのが怖くて怖くて

 ずっとこのままで居たかった










 眠りの底で触れる小さな秘密(side S)










「新一?」
「………」


 呼びかけられた事には気付いていた。
 けれどそれに答える事無く唯ゆっくりと息を吐き出す。

 下りたままの瞼。
 ゆっくりと上下する身体。

 きっとちゃんと眠っている様に見える筈だ。


「しんいち?」
「………」


 もう一度ゆっくりと呼びかけられる。
 けれどそれにも答える事無く、唯ゆっくりと呼吸を続ける。

 上がる脈。
 震える腕。

 ばれそうになるもの達を必死でかき集めて、堪え続ける。


「寝ちゃったのかな?」
「………」


 確める様に顔を覗き込まれる。

 見えている訳ではない。
 気配でそう感じるだけ。


「新一…」
「………」


 確認して、俺が本当に眠っていると思ったのか快斗はそっと俺の肩を抱き寄せた。

 鼓動が煩い。
 思わず瞳を開けたくなる。

 でも、これではまだ…まだ足りないんだ。


「………」


 そっとそっと抱き込まれる。
 温かい温もりに包まれる。

 瞼の裏に広がっていた黒に混じる白い光が、少しずつ少しずつ彼の影に遮られていく。


 吐息が唇に触れた。
 ついで唇に感じたのは柔らかく温かな温もり。



 それはずっと…俺が望んでいた筈のモノ。





「………」


 温もりが離れたのと、さっきよりも少しだけ強く抱きこまれたのは同時だった。


 なあ、お前も…俺と同じ気持ちでいてくれたのか?


 今すぐに瞳を開いてそう尋ねたくなる。
 けれど、そんな事は出来ない。

 俺達は『友達』で。
 俺達は『何も知らない親友』で。

 俺が彼女を裏切る事も、彼が彼女を裏切る事も出来ないとお互いに解っているから。










 ――だけど……















 ――叶うならこの一瞬だけは、互いの温もりを分け合う事を許して下さい。















END.

実は確信犯です(苦笑)


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