ふんわりと触れる温もり

 何時彼が瞳を開くかと思うと怖くて怖くて

 ずっとこのまま眠ってくれている事を願った










 眠りの底で触れる小さな秘密(side K)










「新一?」
「………」


 自分の横で、ソファーの背凭れに頭を預け、眠っているらしい自分の親友に問う。

 ねえ、君は今本当に寝てしまっている?

 彼の名を呼んでも彼は答える事無く唯ゆっくりと息を吐き出す。

 下りたままの瞼。
 ゆっくりと上下する身体。

 きっとちゃんと眠っている筈だ。


「しんいち?」
「………」


 もう一度ゆっくりと呼びかける。
 けれど彼はそれにも答える事無く、唯ゆっくりと呼吸を続ける。


「寝ちゃったのかな?」
「………」


 確める為にそっと顔を覗き込む。
 けれどやはり反応はなく彼は唯静かに呼吸を繰り返すだけ。

 本当に寝ているらしい。
 微かに震える睫毛すら愛しいと言ったら君はどんな顔をするのだろう。


「新一…」
「………」


 彼は眠っている。
 それならばきっと問題はない筈だ。
 そう、きっと問題ない。

 そう勝手に自分の中で結論付けて眠る彼の肩をそっと抱き寄せた。

 白く透き通る様な肌。
 伏せられたままの長い長い睫毛。
 紅を引かなくても真っ赤に色付いた唇。

 そう、彼は眠っている。
 ずっとずっと触れたかった彼が今自分の腕の中に居る。


「………」


 彼を起こさない様にそっと抱き締める。
 温かい彼の温もりが伝わってくる。

 抑える事など出来なかった。
 ずっとずっと触れたかった。

 少しずつ、少しずつ彼の顔に近付いていく。


 吐息が唇に触れた。
 ついで唇に感じたのは柔らかく温かな温もり。



 それはずっと…俺が望んでいた筈のモノ。





「………」


 どれぐらいそうしていたのだろう。
 一瞬が本当に長く長く幸せな時に感じられた。

 離したくない。
 欲しいのは彼だけなのに。

 そう思っても、俺達にそんな関係が成り立たない事はきっと俺達が一番良く解っている。

 俺達は『友達』で。
 俺達は『何も知らない親友』で。

 俺が彼女を裏切る事も、彼が彼女を裏切る事も出来ないとお互いに解っているから。










 ――だけど……















 ――叶うならこの一瞬だけは、互いの温もりを分け合う事を許して下さい。















END.

今回はちょっと切な系で…。


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