凍てつく寒さの中で独り歩き続けていた
それはあてもない旅路の途中
〜最後の願い〜
「やっぱ寒いな…」
白い息を自分の手に吹きかけながら歩く自分が嘗て住んでいた場所よりも遥か北の町の田舎道。
深夜という時間帯のお陰で見えるのは微かに道を照らす明かりだけ。
その分だけ都会では見る事の出来なかった星々が遥か頭上に輝いているのが良く見える。
それはかの彼の守護星である月も同じで、青白く輝くその星は今宵も彼と同じく凛とした冷涼な気配を放っている。
「元気に…してるのかな…」
その星を見上げかの彼を想いながら、視線を元へと戻し再び静かな道を歩く。
一番の宿敵で、一番の理解者で……そして恋人でもあった彼。
その彼の最後の顔が瞼の裏に焼きついて離れない。
『今までありがとう…』
にこやかに感謝を籠めて言われた彼からの最後の言葉。
けれどその表情とは裏腹に彼の瞳は泣き出しそうなもので。
自分が彼を傷つけてそんな瞳をさせた事に酷く胸を抉られる思いがした。
本当は違うのだと…本当は好きで好きで仕方がないのだと告げてしまいたかった。
告げてしまえば楽になれた。
けれどそれは同時に彼を巻き込む事になるから、その想いをそっと自分の中に仕舞い込んで鍵をかけた。
もう二度と彼への想いが表に出る事のないようにとしっかりと錠をおろした。
そして独り誰にも悟られない様にしてこの地へと移り住んだ。
それは後どれだけ続くのか解らない戦いのための準備。
誰も通らない静かな夜道を歩き続けていれば、頬に僅かな冷たさを感じた。
その冷たさに首を傾げ、再び空を見上げればひらひらと後から後から降って来る小さな白。
「雪か…」
呟きながらそれを確認するかのように静かに降って来る白を掌へと導く。
小さな小さな白は静かに掌に落ちて、そしてすぐに溶けて消えてしまった。
それはまるで自分達の幸せだった時間のように儚く、微かな物で。
コナンの口元には自嘲気味な笑みが浮かぶ。
「消えてなくなればいいのにな…」
覚えているのは彼の温もりだけでいいから。
その思い出さえあれば自分は生きて行けるから。
だから祈るように、そうなる様にとそっと呟く。
「あいつの中の俺が消えてくれればいい…」
あいつが何時も笑っていられるように。
あいつが他の誰かを愛せるように。
あいつが幸せに生きていけるように…。
「雪の様に溶けてしまえばいい…」
一緒に過ごした時間も。
一緒に過ごした想い出も。
一緒に過ごした温もりも。
自分には必要だけど、彼にはもう必要のないものだから。
だから…切に切に願う…。
「全て溶けてくれればいい…」
―――どうか…全てを溶かして幸せに…
それは旅の途中で願う、祈りにも似た最後の願い。
END.
夜中の三時にこんなブツを思いつくっていうのも…ι
(まあ子守唄代わりに聞いてた某曲のせいだけど)
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