「赤い糸が一本だけしかないなんて誰も言ってないのにね」


 そう言って、くすっと笑った白い影が何だか酷くムカついた。










赤い糸











「どういう意味だよ」


 深夜の屋上。

 何をどう経由してこの話題になったのかは分からないけれど。
 『運命論』なんてくだらない物に意味付けられた『赤い糸』なんてくだらない物。

 くだらない。
 くだらない。

 そう思うのに、どうして口を突いて出た言葉はこんなにも不機嫌なものになってしまったのだろう。


「そのままだよ。運命の赤い糸が一本だ何て誰が決めたと思う?」
「一本じゃなきゃ『運命』なんてご大層な事いえないだろうが」


 十本も。
 二十本も。

 それこそ何百本もあるとしたら、そんなもの運命でもなんでもなくなってしまう。


「でも、もし本当に一本だとしたら、運命の人に出逢える確率は約六十五億分の一だよ?」
「幾ら国際化の世の中になったって言っても、まだまだ国際結婚は少ねえぞ?」
「もう…名探偵ってば我が侭だなぁ。じゃあ、しょうがないから日本国内だけで考えて約一億三千万分の一の確率でいい?」
「……そう思うと途方もない数字だよな」
「そうでしょ?」


 それだけの人数の中で。
 まあ、男女で考えると本当はもっと減るのかもしれないけれど。
 俺達みたいな例もあるから一概に約半分とは言えないし。


「だから、もしも運命の赤い糸が一本なんだとしたら、運命の人に出逢える人はどの位いるんだろうね?」


 途方もない人の群れから運命の人の見つけ出すなんて途方もない話し。


「さぁな」


 信用していない運命論。
 信用していない赤い糸。

 そんなものに確率の話しなんてされても――――。



「まあでも俺は、出逢えたからいいんだけどv」



 そう言って笑った怪盗は何だか酷く嬉しそうだった。
















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