硬く冷たいコンクリートの床
 煩く響く警察のヘリの音

 あの日あの場所でロマンティックだった物といえば
 眩く輝く深夜のイルミネーションぐらいだった










 忘れられぬ場所と少しの秘密










「ああ、また…」


 また今年も此処に来てしまったと苦笑を零す。

 あの日あの時、嘘が許される日に偽りの姿で彼に出逢った。
 あの日あの時、嘘が許される日に偽りの姿で対峙した。


 あの日、『江戸川コナンと』呼ばれていた俺は彼に『探偵』だと名乗った。
 あの日、『怪盗キッド』と呼ばれていた彼は俺に『芸術家』だと名乗った。

 どちらの言葉も真実であり、どちらの言葉も偽りだった。










 ――あの日あの場所での邂逅は、全て嘘という真実に彩られた奇跡だった。




















「名探偵v」


 ふわりと、柔らかく後ろから抱き締められる。
 気配すら感じさせず現れた彼に更に苦笑が零れた。


「快斗、お前も覚えてたのかよ」
「当たり前でしょ? 俺と新一が初めて対峙した記念日だよ?」


 それはきっと二人にとって何年経っても忘れる事の出来ない大切な日。


「それより俺は新一が覚えててくれてた事の方が不思議なんだけど」
「ばーろ。俺だってそれぐらい覚えてるよ」


 彼は知らない。

 俺が毎年この扉の向こうに居た事に。
 そして、この扉の此方側に彼が居た事を知っている事も。


「俺だって…」


 毎年来ていたのだと。
 何度その扉を開きたいと思ったかと。

 言葉は思わず溢れそうになったけれど、寸前のところでそれを押し留めた。


「ん?」
「……何でもねえよ」


 言える筈がない。
 恥ずかしくて、本当の事なんて言えない。

 彼は知らない。
 俺がずっとずっと彼を好きだった事を。
 彼が手を伸ばしてくるずっとずっと前から、俺がその手に触れたかった事を。


 だから秘密。
 悔しいから、ずっとずっと彼を想っていた事は秘密。


「なーに?」


 クスッと小さく笑って彼は俺に尋ねる。
 その笑みに何だか全て知られている様な気がしたけれど、気にしない事にした。


「何でもねえって言ってるだろ」
「はいはい」
「それより、寒いからさっさと帰るぞ」
「分かりましたよ、お姫様v」


 身体を包み込んでくれていた彼の腕を振り解いて、夜の街に背を向けて、思い出の場所を後にする。

 確かにここは大切な場所だけれど、今は此処以外にも彼との思い出が詰まった場所は沢山あるから。
 だから、過去ではなく今を、未来を見て生きていける。


 スタスタと歩みを進め、扉の前まで来たところで今まで後ろについて歩いて来た彼の気配が止まった事に気付く。
 その事を不思議に思いながら扉のノブに手を掛けた瞬間、信じられない言葉が聞こえた。















「やっとこっち側に来てくれたね。名探偵」















 その言葉が聞こえなかった振りをして俺は彼に背を向けたままドアノブを回した。
 だって、赤くなった頬を彼に見られたくは無かったから。















end.


実はばればれなのでしたv




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