目の前に居る人物の前に置かれた物体に


 新一は思いっきり気持ちが悪くなるのを感じていた








食後のお楽しみ♪








「新一〜♪」
「なんだよ」
「ご飯食べに行こう♪」


 ある日曜の午前11時半。
 読書中の新一に突然快斗からの外食のお誘い。

 これが普通の恋人同士ならたいして珍しいことではないのだが…。


「何でだよ。お前が作ればいいだろ?」

 てか、何でわざわざ俺が事件でも新刊の発売日でもない日に昼食の為だけに出かけなきゃなんねーんだよ。


 その辺は流石新一さん。
 俺様発言が板についてます(爆)


「たまには外に食べに行くのもいいでしょ?」

 そりゃ、新一が俺の料理食べたいって言ってくれるのは嬉しいけどさ♪


 満面の笑みでそう言われれば、天邪鬼の新一が素直に頷くはずがなく。


「ちげーよ。外に出るのが面倒なだけだ」

 別にお前の料理が食いたい訳じゃねえ!


 そう、快斗を睨み付けると直ぐに本へと視線を戻してしまう。


「…そっか。新一は俺の料理食べたい訳じゃないんだ」


 と、新一の言葉にさっきまで満面の笑みで語っていた快斗が珍しく傷ついたような顔をして…。
 その顔に、自分の言った発言の棘に気づいてしまった新一は彼を傷つけてしまったこを激しく後悔して…。


「…悪かったよ。お前の料理…嫌いじゃねえから…」


 新一は途端にしょぼんとしてしまう。

 こんなつもりじゃなかったのに、と内心泣きたくなる思いで新一にとっては最大限の詫びの言葉を口にする。
 決して彼を傷つけたい訳ではないから。

 口が悪いのは自分でも自覚しているし、天邪鬼であるが為に快斗の様に素直に気持ちを言葉にする事が出来なくて。
 彼がそれをわかってくれているのを知っていても、言って良い事と悪い事はあるから。


「ありがとう新一♪」


 その新一のほんの少しの素直さに先ほどまで陰りを見せていた彼の表情が途端に明るくなる。
 快斗としても、新一の『嫌いじゃない』は『好き』それも『結構好き』だという意味だと知っているから。


「別に礼を言われる事はしてねえよ。俺が悪かったんだし…」


 そんな快斗にバツが悪そうな顔をしてそう呟く新一に対し、


「じゃあ、お昼一緒に食べに行ってくれる?」


 と、確信犯的な発言がされたのであった…。








「で、何でここなんだよ?」


 そこは近くにある普通のファミレスだった。
 和洋中なんでもござれのこの手の店に、わざわざ何故食べに来なければならないのか?


「ここに来たかったのVv」
「は? 何でここなんだ?」

 何か食いたいものがあるならその専門店にいきゃあいいだろうが。


 新一のご尤もなご意見に、快斗は右手の人差し指を立てるとちっ、ちっ、ちっと横に振った。


「甘いね新一君。ここでしか食べられない物があるんだよ♪」
「ここでしか食べられない物?」
「そう♪」


 やけにご機嫌な様子で店内に入って行く快斗に新一は首を傾げつつも素直について行く。


「で、なに食いたいんだよ」
「その前に、普通にご飯何食べるか決めなきゃね♪」


 そう言ってはい、とメニューを渡される。


「その前に…?」


 快斗の発言に少々引っかかりを覚えつつも、早く早くと急かしてくる快斗に言われるがままに昼食のメニューを決める。

 ちなみに新一が頼んだのはあっさりしていそうなキノコのパスタとアイスコーヒー。
 快斗はというと、煮込みハンバーグセット(ライスとドリンク付き)と海老ドリア。


「すいませ〜ん♪」


 快斗が語尾に音符付きで店員を呼びとめると、若いアルバイトの様な女の子が顔を赤らめながらやってくる。


(そりゃこいつ黙ってればかっこいいもんな…。)


 そんな様子を見守っていた新一は、自分も赤くなられている対象だとは全く気付いていなかった(爆)
 その間にも快斗はてきぱきと注文を済ませていく。


「ご注文はお決まりですか?」
「えっと…キノコのパスタとアイスコーヒーと煮込みハンバーグセットと海老ドリア」


 どうやら快斗は魚は駄目だが海老は平気らしい(笑)


「セットのお飲み物は何に致しますか?」
「えっと…オレンジジュースで」
「お飲み物は何時お持ちしましょうか?」
「あ、先にお願いします」
「かしこまりました」

「あ、後この『ジャンボチョコレートパフェ』一つお願いします」


 その注文に彼女の顔が少し引き攣ったのは気のせいだろうか?


「……か、かしこまりました。以上でご注文は宜しいでしょうか?」
「はい」
「それではご注文を繰り返させて頂きます。……(長いので以下略・爆)以上で宜しいですか?」
「はい」
「それではメニューの方お下げしますね」
「あ、お願いします」


 注文を終え、新一の方に向き直った快斗はご機嫌そのものだった。


「お前は最後のが食いたかった訳か」
「そう、ここのパフェ凄いおっきいらしくてさ〜♪」
「お前ホント甘いもの好きだよな…」

 なんだよ『ジャンボチョコレートパフェ』って…。
 俺なんか名前聞いただけで気持ち悪くなりそうだぞ?

「いいじゃん♪ クラスの奴が食いに来て全部食いきれなかったらしくてさ〜♪」


 そうにこにこと話す快斗に、ほんとこいつは子供だよなとつくづく新一は思う。


「あ、新一君。その顔は呆れてるね?」
「当たり前だろ」
「酷いわ新ちゃんたら…」

 それとも甘いものが好きな男は嫌いなの〜?


 と、ご丁寧に泣き真似まで付けてくれる快斗に新一は苦笑する。


「そんなんだったら、お前と飯なんか食えないだろうが」

 今更だ今更。

「新一…それ余計酷い…」


 テーブルに突っ伏して嘆く快斗の頭を新一は軽く叩く。


「ほら邪魔だ」
「あ、すいません」
「い、いえ……///」


 そこには先程とは違う女の子が飲み物を持ってきてくれていた。


「アイスコーヒーとオレンジジュースになります」
「あ、どうも♪」


 にっこりと営業スマイルで快斗がお礼を言えば、女の子はすっかり真っ赤になってしまって逃げるように下がって行ってしまった。


「この詐欺師」
「酷い新ちゃん!」
「事実だろうが。」

 ったく、あんな営業用の顔しやがって。

「あれ〜? 新一君もしかして焼きもち〜?」


 さも楽しそうに聞いてくる快斗の言葉に新一はぷいっと快斗から視線を外す。


「そ、そんなんじゃねえよ」
「ふ〜ん。ま、そう言う事にしといてあげましょう」
「なんだよそれ!」
「だってあんまりからかうと新一拗ねちゃうんだもん」
「俺が何時拗ねたよ」
「何時も♪」
「………」


 快斗の言葉に新一は二の句が告げなくなり、反撃する事を諦めた。
 ここで何か言い返したら墓穴を掘りかねない。

 そんなやり取りをしている間に、やはり先程とは違う女の子が料理を持ってきてくれた。

 どうやら目の保養は全員で回すつもりらしい(気付いたのは俺だけだけどね。by快斗)

 アイスコーヒーを「まずい」の一言で片付け、少々ご機嫌斜めになってしまった新一を「後で家で淹れてあげるから」と宥めつつお互いの料理を片付けていく。


「俺もういい」
「新一にしては結構食べたじゃん♪」


 見れば新一の食べ終えたパスタは残り三分の一程度になっている。
 小食の彼にしてはよく食べた方だ。


「ここのパスタはまあまあだった」

 まあ、お前のには程遠いけどな。


 どうやら出掛ける前の一件があったために少しは素直になることにしたらしい新一から、そんな嬉しい一言を貰って快斗は上機嫌になる。


「ありがとう♪」
「別にお礼言われる程の事じゃないし…」

 ほら、残りはてめえが食え!


 照れ隠し代わりに差し出されたお皿を苦笑しながらも快斗は素直に受け取ると、あっという間にそれを片付ける。


「しっかしよく食うよなお前…」

 煮込みハンバーグに、ライスに、海老ドリアに、俺が食べ残したパスタまで…。

「高校生の男子ならこれぐらい食べるって。新一が食べなさ過ぎなの」
「うるせえ」


 どうやら自覚はあるらしく、やっぱり可愛らしく拗ねてしまう新一に快斗は笑みを深くする。
 と、そこに…。


「お待たせ致しました。ジャ…ジャンボチョコレートパフェになります」


 と少々戸惑い気味に運ばれてきたデザートもとい快斗にとっては本日のメインディッシュ(笑)


「あ、それ俺ね♪」


 どちらに置こうか戸惑っていたウエイトレスに笑顔で快斗は答える。
 その快斗に少し見惚れてしまった後、慌ててパフェを置いて、「以上でご注文の品はおそろいでしょうか?」とお決まりの台詞と共に伝票が置かれて行った。


「…………快斗お前それ全部食う気か?」
「…俺も流石にここまででかいと思わなかったんだけど」


 快斗の目の前に置かれた『ジャンボチョコレートパフェ』
 高さがおそらく30cmほどあるそれには、アイスや生クリームやバナナ等がこれでもかという程乗せられていて並々とチョコレートシロップがかけられている。

 間にはアイスとコーンフレークとばななが層になって重なっていて、下のほうにはやはりチョコレートシロップがこれでもかというぐらい溜まっていた。

 ちなみに、下の方までちゃんとすくえるようにスプーンの柄の長さも異常に長かった(笑)


「…見てるだけで気持ち悪くなりそ」


 本当に嫌そうに、そしてまるで口直しするかのように「まずい」とまで言いきっていたコーヒーを新一は口へと運ぶ。
 まだこちらの方がましだと判断されたらしい(爆)


「取り敢えず、いっただきま〜す♪」


 そんな新一の様子を見ながらも、早くしないとアイス溶けちゃうなんて言いながら快斗は早速それに手をつけ始める。


「ん〜♪ おいし♪」


 アイスを一口、口に含んで本当に美味しそうにそう言う快斗に新一は思いっきり溜め息をついた。


「新一も一口食べない?」


 と、なるべくシロップの掛かっていないところのアイスをすくって差し出されるが。


「いらない」


 新一の答えは当然決まっていた。
 もう、見ているだけで胸焼けしそうなのだ。

 それを食べるなんてとんでもない。


(こいつとはここだけは絶対に分かり合えない…)


 新一が心の中でそう思ったのはここだけの秘密である。


「んじゃ、俺一人で食べちゃうよ?」
「いや…勝手に食ってくれ」


 心底嫌そうに呟く新一に、おいしいのになぁ…なんて言葉と共に次々に快斗の口へとパフェは飲み込まれていく。

 10分後…。


「ごちそうさま♪」


 満面の笑みで両手を胸の前でしっかり合わせそう言う快斗。
 その前には非常に機嫌の悪い…もとい気分の悪そうな新一が出来上がっていた。




 快斗の食後のお楽しみに新一が今度は何時付き合ってくれるか…。
 それは当分先の話になりそうである…。










END.


食いました『ジャンボチョコレートパフェ』(笑)
ネタの為に←それかよ!
で、柄の長さがほんと長くてびっくりした(笑)




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