「貸せ!」
「駄目!」
「いいからそれをよこせ!!」
「駄目ったら駄目!!」
工藤邸のリビングでは今日も熱いバトルが繰り広げられていた。
〜設定温度〜
「何でだよ! 俺が暑いの苦手なの知ってんだろ!」
暑さで不機嫌なのも手伝って、新一は何時になく苛立った様子で快斗に突っ掛っていた。
「駄目って言ったら駄目! 身体壊すでしょ!」
一方、いつもはベタベタに新一に甘い筈の快斗の方も今日は新一に対して強気である。
さて二人は何を争っているのでしょうか?
感の良いお嬢さん方ならもう解りますよね?
うだるような暑さの続く日本の8月。
問題になるのが部屋の冷房の温度。
工藤邸も例に漏れず、その設定温度で揉めに揉めていたのだった。
「何で28°なんだよ!」
現在工藤邸の冷房設定温度28°
もちろん設定したのは他ならぬ快斗である。
「テレビでお姉さんが言ってるでしょ! 『節電の為にエアコンの設定温度は28°でお願いします。』って!」
「てめえは○電の回し者か! 大体あれは東○の不祥事のせいで、やむなく原子力発電所を止めなきゃならなくなったせいだろうが!」
それを何で俺が暑い思いしてまで節電に協力しなきゃなんねーんだ!!
「うっ…それは…」
新一に捲し立てられ快斗君ちょっと怯み気味です。
ここでちょっと注意を…。
(いらっしゃらないとは思いますが、東○関係者の方々すみません…《平伏》)
さて、それでは続きを覗いて見ましょう(爆)
少し怯み気味の快斗だったが、彼にも言い分があるらしい。
「そうは言うけど、皆が皆そう言って電気使ってたら、足りなくなって停電になるのは目に見えてるでしょ?」
「そ、それは確かに…」
おっと今度は新一さんが快斗君の正論に押され気味です。
「だから、28°ね?」
返す言葉もなく俯き黙ってしまった新一に、快斗は駄目押しの如く笑顔で再確認する。
………暫しの沈黙………。
「なあ…快斗…」
「ん? 何かな新一君?」
少し俯き加減だった新一がやっと顔を上げた。
その目元には…。
「し、新一!?」
「お前は俺の言う事よりテレビのお姉さんの言う事を聞くんだな…」
悲しげに紡がれる言葉と共に新一の目元からは一筋の透明な雫が零れ落ちる。
「…新一…ごめん。俺が悪かった」
新一の頬を涙が伝った瞬間、快斗は新一を抱き締めると直ぐに白旗を上げた。
「…じゃあ23°にしてもいい?」
快斗の腕の中、涙に潤んだ目で更に上目使いで尋ねてくる新一に快斗が否と言える筈がなく…。
「うん。新一のしたい様にしていいから」
と、新一にリモコンを渡すともう一度新一を抱き締めなおした。
――――ぴっ…ぴっ…ぴっ…ぴっ…ぴっ……。
現在工藤邸の冷房設定温度23°
………………ニヤリ。
(ふっ…俺をなめるなよ)
快斗の腕の中で静かに新一の口の端が上がる。
暑さに極端に弱い工藤新一。
それを回避する為なら方法は厭わない。
つまりさっきのは『工藤新一的泣き落とし大作戦!(そのまんま)』だったのだ。
流石はかつて伝説の女優と謳われた藤峰有希子の一人息子。
泣きの演技もお上手です…(爆)
なんだかんだ言いつつ、新一にはとことん弱い快斗とそれを知り尽くしている新一。
戦う前から結果は見えていた筈…なのだが…。
「快斗?」
先ほどから何も言わずに新一を抱き締めている快斗の様子がおかしい事に気付いた新一は、取り敢えず快斗の名前を呼んでみる。
「…………」
が、快斗からの返事はなくその代わりとばかりに抱き締められている腕の力が強められた。
「…快斗?」
そんな快斗の様子に途端に心配になった新一はもう一度快斗の名前を呼んでみた。
「………ん…ね…」
「快斗?」
小さく囁かれた言葉が全ては聞き取れず、新一は聞き返すように快斗の名前を呼ぶ。
「ごめんね…」
改めてそう言って新一の顔を覗き込んできた快斗の瞳は若干の涙で潤んでいて…。
「なっ…何泣いてんだよ…」
「だって………」
予定外の快斗の状態におろおろとする新一。
その間にも快斗の瞳にはじわじわと涙が溢れてくる。
「か、快斗…。泣くなよ…」
どうして良いか解らず、新一は取り敢えず快斗の頭を撫でてやる。
「しんいちぃ〜」
それが余計に快斗の涙を溢れされてしまって、新一はまたわたわたとしてしまう。
しかし、快斗的にはこれは新一に優しくしてもらった為の嬉し涙である(爆)
「な、泣くなって言ってるだろ…?」
ぽろぽろと涙を零し続ける快斗に、新一の声は自然と何時もでは考えられない程の優しいものになっていた。
「うん。俺はテレビのお姉さんなんかより新一の言う事聞くからね〜!!」
そんな新一の様子にしっかり復活(?)した快斗は力いっぱいにそう言うと新一を思いっきり抱き締めた。
「大好きだよ新一Vv」
「…………///」
すっかり調子の戻った快斗は申し訳なさそうにしながら、けれど新一の瞳を真っ直ぐに見詰める。
「本当は節電なんてどうでも良かったんだ。新一の身体が心配だから設定温度高めにしてたんだけど…」
誤解させたならごめんね?
真っ直ぐに瞳を見詰められて言われた言葉に新一の頬は真っ赤に染まる。
「…………知ってる///」
だからこそ、さっきあんな手を使って設定温度を下げさせたのだから。
「じゃあ、もうちょっとだけ設定温度上げてもいい?」
顔を除き込まれ、首を傾げて可愛く(?)お強請りされれば新一が逆らえる筈もなく…。
「ちょっとだけなら…」
「じゃあ、25°にしようね?」
そのままの状態でそう言われ新一は素直に25°まで設定温度を上げる。
――――ぴっ…ぴっ……。
現在工藤邸の冷房設定温度25°
「か、快斗…暑いから離れろよ……///」
相変わらず抱き締められたままなのに気付き、恥ずかしくなった新一は理由をつけて快斗から離れようとする。
「あ、そっか。俺が新一を温めてあげればいいのか♪」
が、どうやらそれが快斗の思い付きを助長させてしまったらしい(爆)
「新一〜♪好きなだけ温度下げていいよ♪」
その代わり俺が新一を温めてあげる〜Vv
と、余計にぎゅうぎゅうと抱き着いてくる。
「………じゃあ、取り敢えず23°な……///」
――――ぴっ…ぴっ……。
現在工藤邸の冷房設定温度23°
どうやら新一さんも快斗の意見に異論はないようです(笑)
「暑くなったら下げてもいいからねVv」
「……///」
――――ぴっ…ぴっ…ぴっ……。
何時の間にか新一の握っているリモコンに写されている設定温度は『20°』を示していた。
現在工藤邸の冷房設定温度20°
「温かいよね〜Vv」
やっぱり涼しい方が遠慮無く抱きつけていいや♪
なんて満面の笑顔で言われれば、苦労して温度を下げようとしていた新一としては皮肉の一つも言いたくなる訳で…。
「節電はどうしたんだよ?」
皆が皆使ったら停電になるんだろ?
と、思いっきり嫌味を込めて言ってやれば…。
「いざとなったら自家発電装置作るよ♪」
と爽やかに返されてしまった。
(…俺何の為に苦労したんだろ……)
快斗の発言にがっくりと肩を落としてしまった新一ではあるが、その結論には異論は無くて。
「明日にでも作れよ…」
「了解Vv」
所詮ただのバカップルになるだけなのだった…。
後日、快斗が作った自家発電装置が取り付けられここぞとばかりに設定温度を下げまくる新一と、やはりここぞとばかりに新一をぎゅうぎゅうと抱き締める快斗がお隣の科学者に目撃される事になる。
END.
うわっ…なんだこれは…。なんだこの甘さは…。
何気に出だしは『ある日〜』にしようと思ってたんですが…。
いつになくラブラブになってしまったので断念(爆)
設定温度だけでどうしてこうもラプラプっぷりを発揮するんだこいつらは…。←お前のせいだろ!
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