眠い時の新一君はある意味とても凶悪である
〜おねむ〜
お風呂上りの新一が素足で出てきたのに気付いた快斗は、すかさず何時もの様にスリッパを履かせにかかった。
が、無理矢理履かせたスリッパは何時もの様に直ぐにフローリングに蹴り飛ばされる。
「いらない」
「いらないじゃないの。それ履いてなさい」
「やだ」
「やだって新一…ι」
「やだったらやだ」
既にお風呂に入っておねむモード突入中の新一のはっきり言って普段からは大よそ予想も出来ない(口調だけは)可愛らしい様子に、ついつい口元に笑みは浮かんでしまうがそれでも快斗もこれは譲れない。
「だ〜め。風邪ひくでしょ?」
「もう布団入るから平気だ」
「………新一。あのねえ布団に入る時は良いとしてもそれまでが寒いでしょ?」
廊下冷たいんだから!
リビングから寝室までなんてほんの僅かな距離しかないのに、そんな所までご丁寧に心配してくれる恋人にそれでも新一は意義を唱える。
「めんどい」
「………解った。俺が寝室まで着いてって布団入る時に脱がすからι」
だからそれまではそれ履いててて?
「…ん」
このままでは眠れないと判断した為、睡眠を優先する事にしたらしい新一は快斗の言葉に渋々ながらに頷いた。
その言葉に快斗はにっこりと微笑んでスリッパを拾い、再び新一に履かせてやる。
そして、ぎゅーと新一を抱きしめて額にキスを落としつつ優しく言い聞かせるように囁く。
「じゃあ、連れてってあげるねv」
「それはいらない」
「いらないって新一その言い方はないでしょ!」
「…いらないものはいらない」
「………解ったから寝ようね新一君…ι」
「ん」
はっきり言ってかなりおねむモードの新一君。
口調はもうかなり凶悪なぐらいに可愛らしいのだが、何故かその内容は普段より簡潔で容赦ない(爆)
ある意味一番新一が強い時間帯なのかもしれないが…。
「ほら、じゃあ二階行こ?」
「コーヒー」
「………新一君…今から寝るんだよね?」
「ん、寝る」
「なのにコーヒー?」
「コーヒー」
「喉渇いてるならホットミルクでも作ってあげるから」
寝る前にコーヒーは止めようね?
「………コーヒー」
――既に駄々っ子(爆)
もう普段の名探偵っぷりは欠片も感じられない。
「しんいちぃ…お願いだからホットミルクにして…?」
「やだ」
「どうしてもコーヒーなの?」
「コーヒー」
譲る気は一欠片もないらしい新一に溜息を吐きながら、快斗は渋々妥協案を提示してみる。
「じゃあカフェオレは?」
「…やだ」
「解りました…ι」
おねむモードの新一は通常よりも更に手強い。
何故なら、駄々っ子状態なのでどんなに説得を試みても聞く耳を持たないから。
だから通常の新一であれば渋々ながら了承してくれる様な事も、自分が嫌ならばさっぱり聞いてくれなくなる。
「じゃあ今淹れてあげるから、ソファーに座ってて?」
「ん」
快斗は名残惜しくも新一を放してキッチンへとコーヒーを淹れにキッチンへと移動した後、少しだけ顔を出して新一がちゃんとソファーに座っているかどうかを確認する。
ちょこんとソファーに座って、手持ち無沙汰なのかクッションを抱えている姿はそれはそれは凶悪に可愛らしいもので。
今すぐにでも襲い掛かりたいのを我慢して、快斗は何とかコーヒーを淹れ終えた。
もちろん寝る前なので多少のミルクと砂糖は加えさせてもらったが。
「新一こーひ………それは犯罪だってば…」
コーヒーを新一の元へと持っていけばそこには、こてんとソファーに横になってクッションを抱えたまま穏やかな寝息をたてている新一の姿があって。
快斗はコーヒーをテーブルに置くと、新一を起こさないようにそっと新一の隣に腰を下ろした。
「まったく、こんな無防備に寝てくれちゃって」
さらさらの黒髪を撫でてやれば、それが気に入ったのか眠っている新一の口元に少しだけ笑みが浮かぶ。
そんな可愛らしい新一に快斗の頬は緩む一方で。
「もう…そんなに可愛い顔して寝てると襲っちゃうよ?」
「か…いと……」
本音を口にすれば舌っ足らずな寝言で可愛らしく自分の名前を呼ばれて。
まったくこの人には敵わないな、と苦笑して。
そっと瞼にキスを落とすだけに留める。
そして彼を起こさないようにそっと腕に抱き上げるとそっとクッションを外してやる。
そうすればその代わりを求めるかのように新一は快斗に抱きついてきて。
その理性の限界を試すかの様な行動に快斗は更に苦笑した。
「まったく…おねむな新一君はほんと罪作りだよねえ…」
END.
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