小さく
本当に小さく
それでも、確実に
胸に刺さり続けている棘
抜こうと思えば抜けるのかもしれない
敢えて自分でそれを抜いていないのだと言われればそれまで
確かにそうだ
その余りにも慣れ親しんだ甘い痛みをまだ離す気にはなれない
小さく疼くその傷も
小さく刺さったその棘も
全てが愛おしいなんて言ったら
お前はきっと怒るんだろうな
古傷
そっと、机の一番上の引き出しの鍵を開ける。
この鍵の隠し場所は彼も知らない。
知ったら、そしてこの引き出しを見たらきっと彼は怒るだろうから。
そんな些細な罪悪感すら楽しみながら、久しぶりに引き出しを開ける。
そこには昔から親しんだモノ達が居る。
小さく畳まれた手紙。
いつ貰ったかは忘れたけれど、昔々に貰った蒼い綺麗なビー玉。
昔自分が買って渡したペアのネックレスの片割れ。
恥ずかしくてする事はなかったけれど、いつもこっそりポケットにしまわれていたペアリング。
どれもこれも、全てどんな状況でやり取りされたか分かっているモノ。
余りにも慣れ親しんだそのモノ達を見ていると、何だかこっちの方が今の現実の様な気がしてくるから不思議だ。
モノに力が宿るなんて言葉もあながち外れてはいないのかもしれないなんて、非現実な事すら信じてしまいそうだ。
その中の一つである、シルバーのペアリングをそっと指で摘み上げる。
思い出した様に取り出しては磨かれているそれは、白々と冷たい光を投げかける蛍光灯の光を受けて、鮮やかに光る。
その光を見詰めていれば、甘くそして切なくなる様な記憶が蘇る。
あの時の自分は酷く子供で。
あの時の自分は酷く我侭で。
きっと彼女を沢山傷付けたのだろう。
有り得ない可能性ではあるけれど、もしも万が一あの時に戻れるのなら、きっともっと上手くやれるのに…と思う。
それもきっと、今が余りにも落ち着いているからそう考えられるのだろうとは思うのだけれど。
余りにも酷い別れ方をした自覚はある。
彼女を余りにも傷付ける別れ方をしたと。
それでも、自分は彼を選んだ。
それはどうにも言い訳出来ない事だと分かっている。
それを悔やむつもりも、もう一度どうにかしたいとも、思うつもりは毛頭ない。
けれど、時々こうして引き出しを開けては昔を思い出してしまう。
余りにも若過ぎた甘酸っぱい頃の思い出を。
何があっても捨て去れないと思う。
自分の初恋で、初めての恋人で、きっともっとも純粋に誰かを想えた時だと思うから。
そっと、指輪を元の位置に戻して苦笑する。
こんな事、彼にもましてや彼女にも言えない、と。
それでいい。
それがいい。
自分の一人遊びなぐらいが丁度いい。
そう一人納得して、引き出しを閉める。
もう当分開かなくても良い様に、そっと錠をかける。
再びその引き出しが開かれるのは、そう遠くない日だと確信して。