付き合うとか別れるとか
恋人とか愛人とか
正直なところそんな関係にはなりたくないと思う
友達以上恋人未満
「正直なところ、俺は快斗と付き合いたくは無いんだよ」
そう言われて哀は思わず頭を抱えた。
常々新一の事を自己中だとは思っていたけれど、流石に此処までだとは思っていなかった。
が、今日でその意識も改革しなくてはならないだろう。
「だからアイツが彼女と別れてくれる必要なんて無いし、俺と蘭が別れた事も言う気は無い」
真顔でしれっとそんな事を宣ってくれた新一に哀は心の中で思わず何処ぞの怪盗に同情をした。
ここまで来たら彼は一生振り回される。
この天使の皮を被った悪魔に。
「そう言う訳だから、お前も快斗に余計な事言うなよ?」
「分かってるわよ…」
哀が呆れ顔でそう言っても新一にとっては何処吹く風。
暴君には何を言っても何をしても無駄らしい。
「さんきゅ。じゃ、俺これから快斗とデートだから」
ひらひらと手を振って地下室を出て行った新一の姿が見えなくなるまで哀は唯静かに新一の背中を見送っていた。
あの気障な怪盗の冥福(…)を祈って。
駅の改札前。
分かり易い待ち合わせ場所。
待ち合わせの時間には10分遅刻。
それも全て予定通りだけれど。
「よ。待たせたな」
「ううん。別に待ってないから大丈夫だよ」
にっこりと微笑む快斗に新一もにっこりと微笑んでやる。
途端に色付いた頬に心の中で小さく笑う。
(ほんと…馬鹿なぐらい単純で可愛い奴)
きっと口に出したら盛大にむくれるだろうから言わないけれど、事実そう思う。
俺の為に彼女を捨て様なんてしている馬鹿で可愛い奴だから。
「それならいいけど。で、今日は何処行くんだ?」
「新一は何処行きたい?」
「別に何処でもいい」
「しんいちぃ……もうちょっと考えてくれるとかないの?」
「俺にそんな無駄な労力を使わせる気か?」
「無駄って…;」
涙目になって、むぅっと拗ねる快斗に新一は再度にっこりと微笑んでやる。
「俺はお前が連れてってくれるなら何処でもいいんだよ」
「し、しんいちぃ〜vv」
ぎゅーっと抱きつこうとしてきた快斗をおもいっきり蹴り捨てる。
こんな公衆の面前で抱きつかれて堪るか。
一応こちらは有名人。
要らん噂の種は作らないに限る。
「ひどぃ…新一が虐める…」
「虐めじゃなくて躾だ」
「それはそれで余計に嫌なんですけど…ι」
がくりと肩を落とした快斗に新一は容赦なくもう一発蹴りを入れてやる。
「っ…!」
「早く行かないんなら帰るぞ?」
「えっ!?い、行く!行きます!!」
「じゃあさっさと連れてけ」
ん、と手を差し出して、その手が快斗の手に絡め取られたのに満足する。
なあ、知ってるか?
俺と手を繋いでる間のお前の心拍数が上がりまくりなのを。
まあ、教えてやるつもりなんか無いからお前はきっと一生知らないままなんだろうけど。
取り合えず駅から続くショッピングモールを抜け、近くのデパートに入る。
男二人でショッピング…なんて微妙に様にならないけれど、それでも唯単純に時間は潰せるから。
洋服を見て、お互いに相手に似合いそうな物を選んで、その中から気に入った物を買う。
当然快斗は俺が選んだのは全部買ってたけど。
当然の様に快斗に荷物を持たせて、当然の様にエスコートされて、何軒目かの専門店を出たところで快斗がふと立ち止まった。
「ねえ、しんいち」
「ん?」
「お昼ご飯は?食べた?」
「いや、起きたら出かける三十分前だったし」
「じゃあ一緒に食べよ♪」
にこにことよく笑う奴だと思う。
黙って普通にしてれば『格好いい』なのに、こうしてにこにこ微笑んでいる顔を見ていると『可愛い』という印象を受ける。
(ほんと…第一印象とここまで違うなんてある意味詐欺だよな…)
凛とした冷涼な気配。
綺麗だけど触れればその冷たく鋭い切っ先に切り裂かれそうな気さえしたのに――。
「何がいいかなぁ?パスタがいい?それともご飯物がいい?あ、でも寒いからうどんとかも…」
「お前の好きな物でいい」
何だかこうやっていると、その第一印象すら幻だった気がしてくる。
「しんいちぃ…お願いだからもう少し自己主張してくれないかなぁ…ι」
「だって別に何でもいいし」
「………;」
ったく、いい加減気付けよ。
俺はお前が食いたいものが食いたいし、お前がしたい事をしたいって言ってるのに。
あ、でも此処でからかってやるのも悪くねえかも。
考えた事を実行に移そうと、にやっと口の端を上げた新一に、快斗はびくっと身体を強張らせた。
「し、しんいちくん…?」
「俺が食いたい物なら何でもいいのか?」
「う、うん…」
快斗は冷や汗を流しながらビクビクと、でもきちんと首を縦に振る。
「じゃあ、俺上手い刺身が食いてえな」
「!?」
「あ、別に鮨でもいいぜ?」
「っ――――!?」
声無き声を上げ、顔を引き攣らせた快斗に新一は満足そうに微笑む。
「ま、妥協して煮魚でも……」
「ごめん!ごめんなさい!俺が店選ぶから!!」
「最初からそうすりゃいいんだよ」
にやりと笑って、心の中でふふ〜♪と音程の外れた鼻歌を歌って。
新一はくいっと快斗の腕を引っ張った。
「さっさと連れてけよ」
「……分かりました;」
軍配は結局暴君に上がったのだった。
RRR…RRR……
「快斗」
「ん?」
「携帯鳴ってるぞ」
漸く入った快斗お勧めのイタリアンレストランで料理を待っていると、机の上に置かれていた快斗の携帯が震えた。
どうしてお前の近くにあるのに気付かないのかと、少しだけ呆れる。
これで怪盗をやっていられるのだから世も末だと。
「ほんとだ。ありがと♪」
「別にいいからさっさと出ろよ」
「うん。あっ……」
何が嬉しいのかにこやかに礼を述べた快斗の顔が、携帯のディスプレイを見た瞬間に曇った。
「どうかしたのか?」
「…別に、何でもない……」
電話に出ようとせず、パタンと携帯を閉じた快斗に相手の予想が付いて新一はわざとらしく溜息を吐いた。
「彼女なんだろ?」
「うん…」
「俺は別に気にしないから電話に出てやれよ」
「………」
黙って俯いてしまった快斗に新一はもう一度わざとらしく溜息を吐く。
「あのなぁ…それじゃ彼女も可愛そうだろ?」
「でも…」
「俺は気にしない。それでもお前が俺に気を使って電話出来ないって言うなら、店から出て外で掛け直して来い」
「………わかった」
渋々携帯を片手に持って店を出て行った快斗を見送って、快斗の姿が自分から確認できなくなった所で新一は一人小さく笑みを浮かべる。
(ほんと…可愛い奴)
俺と会っているから、だから彼女の電話にも出ない。
それは俺を優先している証拠。
別に彼女から『恋人』の座を奪いたい訳じゃない。
アイツが誰と付き合っていようと関係ない。
唯…アイツにとっての俺が一番であれば何の問題も無い。
寧ろ『恋人』じゃ無い方が俺にとっては都合がいい。
『付き合う』事が無ければ『別れる』事もない。
付き合えばお互いに嫌な面を見つけてしまうかもしれない。
けれど、今のままならお互いにいい面を見せ合うだけで居られる。
だから、この『友達以上恋人未満』の関係が一番心地良くて、一番理想。
(わりぃな…)
心の中だけでひっそりと謝ってみる。
きっともう逃がしてはやれないから。
(まあ、幸せにはしてやるよ。お前が俺から離れ様なんて思わない限りはだけど…)
隣の科学者が聞いたら思いっきり眉を寄せそうな事を考えて、新一は運ばれて来た料理に手を付け始めた。
「今日はごめん…」
「ん?どうして謝るんだ?」
デートの帰り道、新一を家まで送ってくれた快斗が門の前で申し訳無さそうに俯いてそう言った。
「だって…俺今日新一に嫌な思いさせたし…」
「??」
何だか泣き出しそうな声で、何とか言葉を搾り出した快斗に新一は首を傾げる。
今日は駅で待ち合わせをして。
その後一緒に買い物をして。
ゆっくり二人で食事をして。
映画に行って。
自分としては何も嫌な事など無かったのだが…。
「別に俺は何も嫌な思いはしてないぞ?」
「嘘だ…」
「こんなとこで嘘ついて俺に何の得があるんだよ…」
呆れ気味にそう言えば、快斗は漸く顔を上げた。
その瞳が少し潤んでいる事に気付いて、新一はよしよしと快斗の頭を撫でてやる。
「俺は別に嫌な思いなんてしてない。だからお前は気にしなくていいんだよ」
「ん…」
「分かったら今日は帰ってゆっくり寝ろ。いいな?」
「うん…」
こくん、と頷いた快斗を慈しむ様に数度撫でて、手を離しにっこりと微笑む。
「帰ったら…」
「ん?」
「帰ったら電話してもいい?」
「ああ」
その言葉に安堵したのか、快斗の顔が少しだけ明るいものになる。
それでも、まだ何か言いたそうにしていたが、結局何も言えず、唯『じゃあまた後で…』なんて自信なさげに言って帰った快斗の後姿を見送って、新一は一人呟いた。
「ほんと…素直で単純で可愛いよな」
別に彼女からの電話ぐらい気にしなのに、勝手にあれだけ気にして泣きそうになって。
余りに素直過ぎて、帰したくないぐらいだ。
「あの分だと…」
そのうち本当に彼女と別れかねないと思う。
それはそれで面倒だとも思う。
でも―――。
「ま、それも悪くねえか…」
―――俺が一番だと証明してくれるなら、それがどんな形でもいいと思った。
END.
何で2005年一発目がこんな新快っぽいブツなんでしょう…;
でも、一応快新なんです。お願いですからそういう事にしといて下さい…ι
今年は強気に無敵な新一さん中心(?)で逝きたいと思ってますv←あくまで願望(爆)
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