ふわりと降り立った彼の家に

明かりが点いていないのが不思議だった








マジでキスする5秒前








仕事帰りに彼の姿を一目拝見しようと思い立って、ハングライダーの軌道を工藤邸宅へと向けた。

数分と経たない内に彼の住む家の洋館を視界に捕らえて、けれど明かりが一つも点いて事に気付く。


「おかしい…」


今日は名探偵に要請が行くような事件は起こっていなかった筈。

それは警察無線を先程まで傍受していたから間違いない。

何処かに出かけているのか…夜中の1時に一体何処に?

そのまま考えていても埒が明かない、そう判断してふわりと彼の部屋のベランダへと降り立つ。

やはり明かりは点いていない。

そのまま彼の部屋へと続く窓の鍵を難なく開けて、すっと彼の部屋に入り込む。

部屋の中を見渡して、あっ…っとKIDは小さく声を発した。

何故なら彼がベットに横になっている事に気付いたから。


(これはこれは…)


珍しい事もあったものだと足音も立てずにベットへと一歩一歩近付いていく。


(まさかこの時間で貴方が眠っていらっしゃるとは思いませんでしたよ。)


内心でくすくすと笑ってしまう。

彼が日頃幼馴染や、お隣の科学者に睡眠をしっかり取れと口を酸っぱくして言われているのを知っているから。


数歩歩いたところで彼の眠るベットへと行き着いて。

彼を起こさない様静かにベットサイドへと腰を下ろした。


規則正しい寝息が聞こえる。

それで彼が眠っている事を確認して、そっと彼の顔を覗き込んだ。


眠っている為に伏せられている長い睫毛。

陶磁器のように白く滑らかな肌。

赤く色付いている唇。

そして普段からは考えられない程の、幼くあどけない寝顔。


その魅力に耐え切れず、そっとその滑らかな頬に触れる。

けれど触れたことに対する彼からの反応はない。

すやすやと気持ち良さそうに眠り続けているだけ。


「名探偵…?」


近くで彼の名前を呼んでみても何の反応もない。

その事に何処かでほっとしている自分が居る。


「名探偵」


もう一度彼の名を呼んでみる。

先程よりも少し大きな声で。

けれど何の反応もない。


もう少しだけ彼の顔を近くで見てみたくて。

顔を少しずつ近づける。

まるでその真っ赤な唇に引き寄せられるように。


彼との距離が少しずつ、少しずつ縮まっていく。

30cm…20cm…10cm……。





そこで我に返った。





「(な…何を……)」


彼からばっと身を引いて。

必要以上に鼓動を打っている胸を押さえた。


自分は何をしようとしていたと言うのか。

眠って無防備だったままの彼に…。


ばくばくと落ち着かない動機を何とか落ち着かせようと深く深呼吸をする。

が、そこで、


「何?そこまでしといて止めんの?」


と眠っていた筈の彼の声が部屋に響いた。


「!?め、名探偵!起きてらしたんですか!?」

「ん?まあな」


くすりという笑い声と共に新一の瞼が開かれて、極上の夜叉菊の蒼が二つKIDの瞳を捕らえた。


「お人が悪いですよ」

「人の寝込み襲おうとしてた奴に言われたくねえな」

「名探偵!!」


くすくすと声を立てて笑う新一に柄にもなくKIDは真っ赤になってしまう。

そんなKIDの様子を新一は心底楽しそうに眺める。


「否定は出来ねえだろ?」

「別に私は襲おうとしていた訳じゃ…」

「ふーん。じゃあキスでもしようとしてた、ってとこか?」

「…そ、それは……」


たじたじになっているKIDを尻目に新一はゆっくりと上半身だけを起こしてKIDの方へ身体を向けると、にっこりと天使の笑顔でKIDに微笑みかけた。


「別に俺はされても良かったんだがな」

「!?」

「ま、起きてる時は御免だけど」


それだけ言うと再びベットへと身体を埋めて、掛け布団を首元までしっかりとかけるとKIDに背を向ける形で反対側を向いてしまう。


「もう寝るからさっさと帰れよ」

「名探偵…先程のは…」

「さあな」


それ以上何かを聞く事は許さないとばかりに返された言葉にKIDは複雑な表情を浮かべる。

が、この状態の彼に何を聞いてもこれ以上の答えは出てこない事は今までの経験上解っている。

ここは素直に彼の言う事に従っておいた方がいいだろう。


「解りました。貴方の安眠を妨害したくはありませんしね」

「いい心がけだ」


背を向けた状態でも彼が少しだけ微笑んだ事は気配で解る。

それにKIDも少しだけ微笑む事で答え、


「それでは今宵はこれで。良い夢を」


とだけ言い残して彼の部屋を後にした。






KIDの気配が無くなったのを確認して、新一は身体をベランダの方へと向ける。


「ったく…意気地無しが…」

折角俺が狸寝入りまでしてやったっていうのに…。


ぶすっと不機嫌な声でそう言って、けれどその表情は穏やかで優しい物。


「ま、それがアイツらしいって言えばアイツらしいんだけどな」


くすりと笑って自分の指でそっと唇をなぞる。

そして内心で届かない彼への言葉を呟いた。



――次はしっかり心の準備をして来いよ?






END.


誘い受け風味(笑)


んでもって、関係ないけど…黒にピンクってちょっとドキドキな誘い受けって感じしません?(爆)←お前だけだ! (だから今回はこの色合いらしい・笑)


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