『護る』なんて傲慢なことは言わないから
だからせめて傍に居させて?
〜護る者護られる者〜
「護られるのは嫌だ」
「知ってるよ」
「だったら何であんな事したんだよ!」
阿笠邸のベットの上で、先程目を覚ましたばかりの快斗に容赦なく新一から文句が浴びせられる。
それに苦笑しながら快斗は新一の頭を優しく撫で、その赤く潤んだ目元をそっと唇で拭ってやる。
「護ったんじゃないよ」
新一が怪我をするのが嫌だったから俺が怪我をした。それだけ。
さらっと言えば更に新一の口調は強いものになる。
「同じだろうが!」
護ったことに…俺を庇った事に代わりはねえじゃねえか!
怒った様に言われた言葉も新一が心配しているからこそだという事を知っているから。
快斗はにっこりと微笑む。
「違うよ。俺は新一を『護る』なんて傲慢な事するつもりはないんだ」
新一の事を護れるなんてそんな思い上がりはしていない。
だから俺は護ったんじゃなく、勝手に自分が怪我をしただけ。
「…結果は同じだ…」
お前が怪我をした事に…俺の代わりに撃たれた事に変わりはない。
言いながらその時の事を思い出したのか、俯きぎゅっと自分の手を握りこんだ新一を快斗はそっと抱き締めてやる。
「違うよ。俺は新一の代わりになったつもりはない。避け切れなかったのは唯単に俺のミス」
新一を置いて死ぬつもりなんてさらさらないし。
「…俺は新一を護った訳じゃないよ。俺が護りたかったのは俺自身の心」
新一が傷ついて、それによって自分が傷つきたくなかっただけ。
自分が辛くて苦しくて悲しい思いをしたくなかったから、それを放棄して君に背負わせた。
「でも…」
「だから新一には俺を責める権利があるんだ。俺は新一にその役目を押し付けたんだから」
俺が怪我をして新一が傷つくのを知っていたのに俺はそれを選んだんだからさ。
「責められる訳ねえだろうが…」
そこまで言われて責めるなんて出来ない、と快斗の腕の中で小さく呟いた新一を快斗は強く抱き締めた。
「ねえ新一…『護る』なんて言わないからさ。これからも傍に居させて?」
君を護れるなんてそんな事は思ってないから、だから傍に居させてくれない?
じっと顔を覗き込んで、優しい瞳でそう尋ねてくる快斗に新一は決心して口を開いた。
「…だったら…」
「ん?」
「俺も勝手に怪我するからな!」
お前に何かあったら俺はお前と同じ事をするからな!
快斗の腕の中でそう高らかに宣言した新一に快斗は苦笑する。
それが彼なりの傍に居てもいい事に対する条件なのだから。
「まあ新一にはその権利がありますけどね」
俺がやった事をやるなとは言えないしね。
「…よし」
快斗の言った事に満足したのか新一はぎゅっと快斗を抱き締めた。
「今度は俺が勝手に怪我してやる…」
「こらこら新一。意図的には止めてよ?」
俺はあくまで無意識に身体が動いただけなんだから。
「わあってるよ…」
ぶすっと言われた言葉に更に快斗は苦笑して、そんな快斗の表情に新一も笑みを浮かべる。
「喉渇いただろ?」
水でも飲むか?
「じゃあ貰おうかな…」
ずっと寝たままだったみたいだから喉カラカラだし。
「解った、待ってろ。」
快斗の素直な言葉に頷いて、新一はキッチンへと水を取りに行くために部屋を後にした。
だから知らない…新一が出て行った部屋の中で快斗が一人呟いた言葉を。
「だったら…俺は新一より一歩早く動かなきゃいけないね」
―――――君に俺を護らせない為に……
END.
快斗にあの台詞を言わせたかっただけだな…
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