手を洗う
それは人にとって極々自然な行為
けれど新一の場合は…
〜真っ赤〜
「んっ…新一?」
ベットの中で目覚めた快斗は傍らに何時もある筈の温もりがない事に気付くと軽く舌打ちをした。
通常新一は快斗より目覚めるのが遅い。
それは朝に弱いから、という単純な理由。
だからこそこうして自分より早い時には必ず…。
「新一」
「…かいと?」
「おはよう」
「おはよう」
優しく微笑みながらそう挨拶すれば、振り向いた新一ににっこりと同じ様に返される。
けれどその瞳は何処か遠くを見ている様で、快斗は後ろからそっと新一のその冷え切った手を包み込む。
「また洗ってたの?」
快斗のその問いに、新一は子供の様に素直に頷く。
「手、冷たくない?」
「大丈夫」
「でもこんなに冷え切ってるよ?」
もうどれぐらい洗っていたのか解らない程に新一の手は冷え切っていて、快斗の手に少しばかり力が篭る。
「でも、手…真っ赤だから…」
だから洗わなきゃいけない、と小さく呟かれて快斗は宥める様に新一の額にキスを落とす。
「大丈夫。新一の手は綺麗だよ?」
「違う、真っ赤なんだ」
どこか焦点の合わない瞳で、けれどそうはっきりと新一は快斗に告げる。
自分の手は真っ赤に染まっている、と。
「違わないよ。新一の手は真っ白で綺麗なんだよ?」
ちゃんと見てご覧?
「………本当に?」
「うん、本当。だからもう洗わなくて良いんだよ」
そう言いながら快斗はその冷え切ってしまった手を真っ白なタオルでそっと拭いてやる。
「ね? 真っ白でしょ?」
何処にも赤なんてないから大丈夫。
「…ほんとだ」
快斗に言われ、自分の手と真っ白なタオルとを見比べて安心したのか新一はにっこりと微笑む。
「大丈夫だよ。新一の手は綺麗なんだから」
そう言いながら快斗はそっとその真っ白な手を壊れ物を扱うかの様に、そっとそっと包み込んだ。
『俺の手は真っ赤なんだ…俺が殺してきた人間の血で…』
「大丈夫。新一の手は綺麗だから…」
『俺はもう探偵なんて続けられない』
「大丈夫。新一は綺麗なまんまだよ」
『洗っても洗っても落ちないんだ…』
「大丈夫。新一の罪は俺が全て洗い流してあげるから」
だからもう洗わなくていいから…。
END.
組織を潰して来た後の新一君かな?
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