【注;これは『false charge』の後日談ですが…余りに崩れているのでイメージを崩したくない方は避けて下さい(爆)】
追う者と追われる者
この数日でその立場が逆転した
けれどその事実を知るのは当の二人だけ
〜名探偵の口説き方(取り敢えずお家まで編)〜
「新一、新一ってば〜!」
「…………」
「待ってよ新一〜」
「嫌だ」
「嫌だって…新一〜!!」
ここ数日間繰り返される光景。
この追いかけっこは帝丹高校の正門から始まるのだが、この数日間で見慣れてしまったのか他の生徒は止めようともしない。
むしろ、女子生徒などは大多数がこの追いかけっこを放課後の楽しみにしているのだった。
「恥ずかしいから大声上げんじゃねぇ!」
「新一痛い…」
綺麗に黄金の右足が決まる。
その瞬間、周りから黄色い歓声が上がる。
その歓声で我に返った新一は逃げるようにそこから立ち去る。
それを追って快斗も蹴られた脇腹を押さえながら走る。
「ねぇ〜新一待ってってば〜!!」
「付いてくるな」
なおも追ってくる快斗に新一の歩調も自然に早くなる。
「新一〜」
「…………」
「新一く〜ん」
「……………」
「新ちゃ〜ん♪」
「…………それはやめろ…」
流石に最後の呼び方は放っておけなかったらしく新一は歩を止めて快斗の方に向き直る。
「やっと反応してくれたねv」
「ちっ…」
「新一君、何も思いっきり舌打ちしなくてもいいじゃん…」
「てめえがさせてんだろ!」
頭が痛い…とこめかみを押さえながら新一は快斗を睨み付けながら考える。
何故こんなことになってしまったのか。
新一は痛む頭を抱えながら数日前の事を思い出していた。
数日前に浮上した怪盗KIDの殺人犯疑惑。
奴に限ってそんな事はないと確信していたから、時間は掛かってしまったけれど疑いは晴らす事が出来た。
その帰り道、KIDが公園で濡れていたのを発見して。
何故か本名まで明かされて…オマケに言われたこの台詞…。
『今日から新一の事全力で口説くからよろしくねVv』
ついでに見事なまでの早業で俺のファーストキスまで奪って行きやがった。
その辺は流石怪盗。
手が早い…(違)
(しっかし、何処の世界に探偵口説く怪盗が居るっていうんだよ…)
そして、有言実行とばかりに次の日から下校時の快斗の襲撃に遭う事になった。
最初は口説き落として利用する気か?なんて疑って掛かったりもしたのだが。
それを言った奴の瞳が真剣なのだと真摯に語っていて…。
「新一〜? どうしたの考え事??」
そこまで考えて、当の本人からの邪魔が入る。
(この馬鹿が怪盗KIDの正体だって知れたら、世のファンは卒倒するな…)
「新一〜?」
「うるせえ。これからのお前の処遇について考えてただけだ」
「そりゃもちろん、恋人になって、ご両親に紹介してもらって、結婚式上げて…」
「もういい…。やめろ」
「新一のウエディングドレス姿…綺麗だろうな〜Vv」
「やめろって言ってんだろ!!!」
見事なまでの黄金の右足が炸裂するが、その辺は腐っても怪盗。
見事にそれを避け、ご通行中の皆様の喝采に優雅に一礼する。
「…この詐欺師」
「何でそこで詐欺師になるかなあ?」
「俺に対する態度と、周りに対する態度が違い過ぎんだよ」
不覚にも、そんな快斗の様子に見入ってしまっていた自分を誤魔化す様に不機嫌に呟く。
「そりゃ新一は特別だもん♪」
「特別じゃなくていい…」
「なんで〜!? 俺は新一の事こんなに好きなのに〜!」
「てめぇ…往来でんなこと叫んでんじゃねえ!!」
てか、ついてくんじゃねえよ!!
新一の叫びの方が往来の方々の目を引いていることに当の本人は気づいていない。
「だって本当の事だもん」
「『だもん』ってお前は本当に17か…」
「もちろん。ぴっちぴちの17歳よん♪」
「………帰る」
「ちょっと新一!!」
いい加減この手の掛け合いに疲れたのか、新一はすたすたと家路を急ぐ。
「新一〜!」
「…………」
「新一く〜ん」
「…………」
「新ちゃ〜ん♪」
「…………」
(ちっ…同じ手に二回は引っかからないか)
流石に1回目と同じ様に反応を返してはくれない新一に、快斗は少し肩を落とす。
が…こんなことでめげては『東の名探偵』と誉れ高い『工藤新一』を口説き落とす事など無理な訳で。
「新一〜」
「…………」
「新一く〜ん」
「…………」
「新ちゃ…」
――――――ドカッ!
快斗が言い掛けた絶妙なタイミングで黄金の右足が決まった。
「…新一…愛が痛い…」
「愛じゃねえこの馬鹿」
だいたいこのパターンを何回繰り返す気だお前は…。
「だって〜これ3、4回繰り返すと新一のお家のまでつくんだもん♪」
ほらね?
そう言われて気付いてみれば、そこは既に自分の家の前で…。
(しまった…。今日もやっちまった…)
これもまたここ数日繰り返されている光景だった。
「取り敢えず、お家までは成功Vv」
「なんだよ、その『取り敢えず』ってのは…」
「そりゃもちろん、次回はお家に入れてもらって、新一に料理なんか作ってあげて、そのお礼に…」
「いい! もうやめろ!」
さすがにそのお礼の内容を聞くのが怖かったのか、新一は暴走する快斗を慌てて止めに掛かる。
が、その静止の為の手を取られ逆に抱きしめられる。
「っ…離せよ!」
「いやVv」
「嫌じゃねえ!」
「ん〜離してあげてもいいんだけど、その代わり一個お願いきいて♪」
満面の笑みでそう言ってくる快斗に新一は背筋に悪寒が走るのを感じた。
が、ここは聞いてやらない事には離してくれなそうなので。
(聞くだけはただ…聞くだけはただ…)
と、まるで念仏を唱えるように心の中で繰り返しながら取り敢えず聞いてみることにした。
「な、なんだよ…」
「新一が俺にキスしてくれたら離してあげるVv」
(…聞かなきゃ良かった;)
やるか、やらないかの問題でなく聞いたことに対する後悔の方が強いのは何故だろう…。
「で、してくれる?」
腕の中ですっかり大人しくなった(暴れる気も失せた)新一に満面の笑みのまま最後の決断を諭すには余りにも優し過ぎる声で快斗は尋ねた。
(…やるは一瞬の恥…やらぬは一生の恥…)
もしも〜し?新一さん?余りの出来事に思考回路壊れてませんか?(笑)
やった方が恥だと思うんですけど…。
「新一?」
そんな快斗にしてみれば『恥じゃなくて愛の証』なんて事を考え込んでいた為、何の反応も返ってこない新一に違和感を抱いたのか快斗は新一の顔を覗きこんだ。
「…快斗」
「ん?」
――――ちゅ。
「……へっ?」
一瞬の出来事に、固まってしまった快斗の隙をついて新一は腕の中から何とか抜け出す。
「ば、場所指定はなかったんだからそれで我慢しろ!!」
真っ赤な顔で快斗にそれだけ告げると新一はさっさと家の中に入ってしまった。
一方そこに残された快斗は、というと…。
(いや…ホントにしてくれるとは思わなかったんですけど…)
右の頬を手で押さえながら、こちらも新一に負けず劣らず真っ赤になりながらも顔は緩みまくっていた。
「ん〜Vv新一ってばやっぱり可愛いVv」
(取り敢えず今日のお家までは成功かな♪)
次回は何処まで頑張ろうかと楽しげに各策しながら快斗は家へと帰って行くのだった。
END?