(おかしい…)


 新一は朝からその理由をずっと考え続けていた。








隠し事








「快斗」
「ん? 何新一?」
「ちょっと来い」


 キッチンから顔だけ出した状態で用件を尋ねてくる快斗を、新一は更に手招きで近くまで呼び寄せる。


「どうしたの?」


 そんな新一に呼ばれるままに快斗は新一の前までやってきて首を傾げる。


「屈め」
「……は?」

 何でまたいきなり?

「いいから屈め」
「……はい」


 快斗は訳が解らず首を傾げたままながらも、素直に椅子に座っている新一と目線を合わせるように屈んだ。


 …………ぴとっ。


「し、新一!?」


 新一の意外な行動に快斗は素っ頓狂な声を上げた。
 が、新一の方は冷静そのもので。


「ん〜熱はないみたいだな」
「…え?」
「いや、朝から様子がおかしかったから熱でもあるのかとおも…」

 でも、顔はさっきより赤くなってないか?


 熱を測るためにくっつけられた額をそのままに首を傾げる新一に、快斗はますます頬の熱が上がるのを感じていた。


「そりゃあ…ねえ…?」


 快斗の苦笑いで原因に思い当たったらしい新一は慌てて額を離した。


「た、ただ熱があるか確認しただけだからな!!」
「解ってるって。心配してくれただけなんだよね〜Vv」

 ん〜新ちゃんてば可愛いVv

「うるさい!」

 抱きつくんじゃねえ!!


 顔を真っ赤にしてしまった新一に、調子に乗って抱き付こうとしてきた快斗に容赦なく足が出る。
 が、座っていたために思うように当たらなかった。

「い〜じゃん♪」

 俺に抱き締められるの嫌い?

「別に嫌いじゃないけど…」

 お前その聞き方卑怯…。


 さっきより真っ赤になってしまった顔をぷいっと横に背ける新一を、快斗は今度こそぎゅーと抱き締めた。


「可愛過ぎだよ新一vv」


 と、ここでいつもならキスの一つもされるところなのだが…。


「あ、パン焦げちゃう。もうちょっと待っててね〜♪」


 抱き締めただけで満足とばかりに、快斗はさっさとキッチンに戻ってしまう。
 確かに昼食のパンを焼いていた最中に呼んだのだからその反応は一般的にはおかしくはないのだが…。

 相手はあの黒羽快斗である。
 これが彼の場合おかしくないとは言えない訳で…。


(やっぱりおかしい…)


 いつもの彼ならさっきのタイミングでキスの一つも掠め取って行く筈なのだ。
 それに思い返してみれば今日されたキスはおはようのキスだけで。
 そのおはようのキスも、何時もと比べたらほんの軽い……………///

 どうやら新一さん、ここにきて自分が結構恥ずかしいことを考えていたのに気付いたようです(爆)


「あれ? どうしたの新一」


 ちょうど新一が真っ赤になった良い(悪い?)タイミングで快斗が声をかけてきた。
 その手に持っているお皿には美味しそうに焼けたオムライスが乗っている。
 どうやら昼食が出来たらしい。


「な、何でもない! それより早く朝食にしようぜ!」
「あっ…うん…」


 いつも自分から進んで食事をすることのない新一が、今日に限って快斗を急かす。



((おかしい…))



 二人の心の声がシンクロするのにそう時間はからなかった。








「ねえ、新一?」
「ん?」


 昼食も済み今日は日曜ということでのんびりと読書に勤しんでいた新一に、後片付けが終ったらしい快斗が何やら意を決した様子で尋ねてきた。


「新一俺に隠し事してない?」
「(どきっ)な、何で突然そんな事言うんだよ!」


 図星を指され狼狽する新一に、快斗の推測は確信へと変わった。


「だって一人で難しい顔して考えてたり、そうかと思えば一人で赤くなったりしてたし…」

 何よりも、新一が食事を急かすなんて絶対変!


思いっきり強調されて言われた言葉に新一はうっ…、と喉を詰まらせた。


「で、一体何を隠してるのかな?」


 すっかり確信を得た快斗は新一の座っているソファーに腰掛けると満面の笑みでそう尋ねてきた。
 けれど、顔は笑っているが目は笑っていない。
 こういう時の快斗に逆らえば後が怖いのは解っているのだけれど…。


(キスしてこないからおかしいと思ってたなんて言える訳ないだろ!!)


 と言うのが新一の本音な訳で…。


「別に……何でもない…」
「ふぅん……何なら身体に聞いても良いんだよ新一君?」
「なっ…何言いやがる!!」
「言っとくけど本気だからね」


 笑顔のままさらっと怖い事を言ってくれる快斗に、流石の新一も顔を引き攣らせた。


「…………わぁったよ…」

 言えばいいんだろ言えば。

「ん〜言ってくれるのも確かに嬉しいんだけど、ちょっと残念かも」

 このままベットまで運ぼうかと思ってたのに。

「快斗…外に叩き出されたいか…?」

 いや、むしろ蹴り出されたいか?


 攻撃体制(笑)を取ろうとする新一に、快斗はわたわたとそれを止める為に新一の肩を押さえる。


「新一〜! 待った! ごめん、俺が悪かったです!!」
「ん」


 快斗の様子に満足した新一は攻撃体制を取るのを止め、また深々とソファーに腰掛け直す。


「新一…確か脅してたの俺だったよね?」
「てめえが妙な事言うからだ」


 黒羽快斗の天下…僅か15秒(爆)


「で、新一君は何を隠してたの?」


 これ以上余計な事を口走る前に、取り敢えず理由を聞いてしまおうとばかりに快斗は話題を元へと戻す。


「…朝から……その……」


 すると先ほどまでの強気はどこへやら、新一は途端に真っ赤になって口調もしどろもどろになってしまう。


「朝から何?」
「……快斗が………」
「俺が?」
「………その………///」
「ん?」
「……だから………」
「だから?」
「…………キスしてこないから……」
「…………え?」


 自分の言った発言に真っ赤になって俯く新一と、その言葉を聞いて思わず固まってしまう快斗。

 少しの沈黙の後、先に動いたのは新一の方だった。


「な、なんだよ! 悪いかよ!」

 俺がそう思ってたら。

「…う、ううん。全然悪くはないんだけど…」

 いや…むしろすっごく嬉しいんだけど…。


(まさか新一からそんな言葉聞けるとは思ってなかったんだよね)


 普段淡白な新一は快斗がキスするのも軽くあしらってくれていたりする訳で…。


(うわぁ…自覚したら俺もなんか照れてきた……///)


 快斗の方も新一の言葉を自覚して真っ赤になってしまう。




 二人して真っ赤になってしまって、またしても沈黙が続く…。




「で、何でなんだよ!」


 そして、やっぱり沈黙を破るのは新一の方で…。

「え?」
「だから……キスしてこなかった理由だよ…」
「あっ……え、え〜と……」


 新一に理由を尋ねられても快斗は何やら言い辛そうに苦笑するばかりで。
 それに焦れた新一は取り敢えず聞きたかった事を言ってみる。


「……俺に飽きたか?」
「違う! 違うってば!! ただちょっと歯が痛いだけ……あっ……ι」
「ほぉ…」


 快斗君見事に仕掛けてもいない誘導尋問に引っかかりました(爆)


「あっちゃー…。言っちゃったよ…」

 もう、新一君てば自供させるのが上手いんだから…。

「てめえが勝手に言っただけだろうが!!」
「あれ? そうだっけ?」


 あはは、何て笑いながらとぼけてくる快斗に新一の怒りのゲージはふつふつと上がっていて…。


「で、てめえはそんな理由の為に俺にあんな恥ずかしい事を言わせたんだな…?」
「だ、だって〜」

 虫歯ってうつるって言うじゃん?
 俺だってキスできないのは辛いんだよ〜。

「うるせえ! 大体お前が甘いもの食べ過ぎるせいだろうが!!」

 痛いならさっさと歯医者に行ってきやがれ!!

「…嫌…」
「は?」
「歯医者さん行きたくない……」
「お前それマジで言って…」


 快斗の方を見れば本当に今にも泣き出しそうな顔をしている。


「お前そんなに歯医者嫌いなわけ?」
「………嫌い」
「何が嫌なんだよ。あんなん大した事ないだろ?」
「あの音が嫌いなんだよ〜!! 痛いし……」


 顔を顰めてそう言う快斗に新一は思いっきり溜め息をついた。


「お前は小学生か…?」

 いや…今どきの小学生のがしっかりしてるか…。
 だいたい痛いって、たいした事無いうちに行かないで酷くなって我慢できなくなってから行くタイプだからだろ?

「うっ……新ちゃんが虐める〜」


 どうやら図星だったらしい(爆)
 だって嫌いなんだよ〜、と盛大に泣き真似を始める快斗に怒る気も失せた新一は仕方なく一つ提案をしてやる。


「帰ってきたらしてやるから行って来い」
「え?」
「……帰ってきたら…キスしてやるから……///」
「…ほんと?」


 きょとん、として聞き返してくる快斗に新一は盛大に頬を赤く染める。


「………さっさと行って来いこの馬鹿!!」


 そんな新一の照れ隠しの怒鳴り声と共に快斗はさっさと玄関へと蹴り出された。
 が、快斗の方もきちんと確認してからでないと行けない訳で。


「ホントに帰ってきたらしてくれる?」
「………さっさと言って来い」
「約束してくれたら行ってくる♪」
「……解ったからさっさと行け」
「うん♪ じゃあ行ってくるね〜♪」


 ルンルンとスキップをしそうな程の勢いで楽しげに出て行く快斗の後ろ姿を見守って、新一は盛大に本日二回目の溜め息をついた。


「……何悩んでたんだろ…俺…」

 ったく、いらねえ心配させてんじゃねえよ。
 だいたいKIDの時の怪我に比べりゃあんなもん何でも無いじゃねえか…。
 それに何なんだよ…あの変わりようは………。


 新一さんどうやら相当文句たらたらのようです(爆)


「ムカツク…帰ってきたらぜってー仕返ししてやる…」


 快斗が視界から消え、今までの事を思い出して新一の怒りのゲージがMAXに到達してしまったらしい。
 さて…どうやって報復しようか…。


「…手始めにあいつが帰ってくる前に魚でも仕入れとくかな」

 あ、魚味のキスっていうのもいいよな♪
 それならあの約束も守った事になるし。


 楽しげに快斗が帰ってきた後の事を想像した新一は、早速その為の準備にとりかかるのだった。




 快斗が帰ってきてからのご褒美のキスが本当に魚味だったのは言うまでも無い…。










END.


え〜僕も歯医者嫌いです…(爆死)
痛くならないと行かないタイプです…あの音が嫌…。
比較的病院は好きな方(てか、好き)なんだけど、歯医者はどうも好きになれない…。



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