「黒羽君」
「なあに?哀ちゃん」
「貴方の細胞を提供してくれないかしら?」
二人と二人の不思議な(?)生活
(まずは一人と一人の出逢い編)
「……ナニニツカウカウカガッテモヨロシイデスカ?」
おやつに作ったレモンパイをお隣にお裾分けにくればいきなりこの発言。
流石の快斗も顔を引き攣らせずにはいられない。
「科学の発展の為よ。貢献なさい」
その顔は何かしら?まるで私が貴方を怯えさせてるみたいじゃないの。
正にその通りです、と心の中で思いつつもそれは自殺行為なのでとりあえずやめておいて。
「……貢献させて頂きます…ι」
科学者の視線の怖さに、快斗は明日の科学の為に生贄になる事を選んだのだった。
「ただいま…」
「随分遅かったじゃねえか」
帰って来た快斗に対し、隣に行ってただけだろ?と首を傾げる新一に快斗は「うん…」と消えそうな声でそれを肯定した。
「何かあったのか?」
やけに元気ねえじゃねえか。人体実験でもされたか?
幾分茶化し気味に言った新一の言葉に、快斗は更にしょぼんとなってしまう。
「近いかもしれない…」
「……………」
「……………」
何だかそれ以上お互いに聞くのも言うのも怖くなって。
気まずい沈黙がリビングを支配する。
「ま、まあ…流石に灰原もお前が死ぬような事はしないだろ」
「うん…」
居た堪れなくなった新一が慰めなのか何なのか微妙な言葉を掛けてやれば、快斗もそれに素直に頷く。
「身体に異変でもあんのか?」
流石に快斗の元気のなさに危機感を覚えた新一がそう問えば、快斗は緩く首を横に振った。
「今日は(…)投薬じゃなくて…」
「……?」
「細胞持ってかれた…」
「…………」
――――何する気だよ灰原!!
きっと誰もが思うであろう突込みを例に洩れず新一も内心で思いっきり入れて。
はぁ…、と一つ溜め息を吐くとどよーんとしたオーラを背中に背負ったままの快斗を仕方なく自分の方へと手招きする。
「慰めてやるからこっちこい」
「し…しんいちぃ〜!!」
ほぼ半泣きに近い状態で快斗に抱きつかれそのまま押し倒された新一は、内心で「投薬とどっちが良かったんだろうな…」と一人悶々と悩むのだった。
そんな事件(?)から3週間ほど過ぎ、あの日の出来事など忘れかけていた頃の土曜日の夜中…。
―――ピーンポーン
「………こんな時間に誰だ?」
時計を見て、首を傾げる。
何時もならこういう時に出てくれる筈の恋人は只今お仕事の真っ最中な為に留守。
仕方なく読みかけの本をテーブルに置くと、新一はソファーから立ち上がり玄関へと向かった。
「………灰原?」
「こんばんは」
ドアを開けた所で予想外の人物と対面して。
新一は困惑した表情を浮かべた。
「どうして今日に限って…」
お前はうちにはフリーパスの筈だろ?
「今日は貴方に渡す物……じゃなかったわ。渡す人がいるだけだから」
わざわざ中まで入る用事じゃなかったのよ、と語る哀に新一は更に困惑する。
「渡す……人……?」
物じゃなくて人なのか?
「ええ。これ」
中に入ってるから後は好きにして頂戴。
「中に……入ってる………??」
哀から渡されたバスケットと、哀の顔を交互に見詰めて新一はぱちぱちと瞳を瞬かせた。
「ええ。まあ餌は別に何を与えても大丈夫よ」
「餌…?」
「まあ何か解らない事があったら電話なり直接来るなりして聞いて頂戴」
「あ、ああ…」
困惑気味ながらも新一は哀の言葉に頷く。
頭の中では『人…?餌…?』とさっぱり解っていないのだが。
「じゃあ私はそろそろお暇するわ」
「………」
にっこりと微笑んで去っていく哀を呆然と新一は見送って。
哀の姿が見えなくなった所で、やっと自分を取り戻す。
「……………何が入ってるんだ?」
そこで漸く、一番聞くべきだった事に気付いたのだった。
「うーん……」
仕方なくリビングへ戻り、一先ずバスケットを机に置いて。
それと睨めっこをしながら新一は腕を組んで考えていた。
「餌がいるって事は生き物なんだよなぁ…」
でもそうすると渡したい人っていうのは何のことなんだ?
考えれば考える程解らずに新一の眉は寄っていくばかり。
「………とりあえず快斗が帰って来るまで待つか」
視線を点けているだけで見ていなかったテレビに向ければ快斗はまだ警察との鬼ごっこを楽しんでいた。
恐らく帰ってくるのに後30分以上はかかるだろう。
そう一人結論付けて、再び本に手を伸ばしかけたところで、
――――ガタガタ!ガタガタ!
「!?」
突然バスケットが音を立てて揺れ始めた。
―――ガタガタ!!ガタガタ!!
「………」
―――ガタガタ!!ガタガタ!!
「………」
何度も何度も揺れるそれを見詰めつつ、新一はどうする事も出来ずに固まっていた。
中身が生き物ならば当然出してやった方がいいのだろうが、いかんせん中身が何なのか解っていないのだ。
迂闊に手は出せない。
―――ガタガタ!!ガタガタ!!ガタガタ!!
新一が固まっている間もバスケットは揺れ続け。
そして数十秒間揺れた後、ぴたりとその揺れは収まった。
「………?」
寝たのか?諦めたのか?と新一が内心思ったその時…。
『あーいーちゃん!出してよぉ〜!!!』
「!?」
ものすごーく聞きなれた声がバスケットから聞こえてきた。
「快斗!」
次の瞬間、新一は即行でバスケットを開けていた。
そして…そこに居たのは―――。
『――――あ、しんいちだぁ〜vvv』
にぱっと微笑むリ○ちゃんサイズの快斗だった。
to be continue….
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