いつか『月見』じゃなくて『星見』をしようと言った


 あいつと月の晩でなくても出会える日が来るように…










 ――星見酒――










 あいつと最初に出会った場所。
 あいつと最初に出会った時間。

 違うのは彼が本来の姿で会いに来たという事。


「今宵は綺麗な星空ですね名探偵」
「いい加減その喋り方やめろよな」

 もうKIDの名は必要なくなったんだろう?

「そうだったね」


 くす、と小さな笑みと共に暗闇から光の下へ現れたのは自分と同じ歳程の屈託のない笑顔が似合う男。
 その雰囲気が余りにもKIDのそれとはかけ離れて居て思わず戸惑ってしまったほどに。


「あれ、どうしたの?」

 俺の素顔ってそんなにビックリする程いい男だった?


 そんな笑顔のまま語りかけられてようやく新一は自分を取り戻す。


「ばーろー。まだお前の名前聞いてなかったと思っただけだ」
「あ、自己紹介してなかったもんね」


 もっとも、あの頃はこんな風に普通の友人の様に会える様になるなんて思いもしなかったけど。


「俺は黒羽快斗、名探偵と同じ17歳。将来の夢はマジシャンになる事♪」


 そんな自己紹介と共に、「お近づきの印に」なんて真っ赤な薔薇の花を差し出される。


「お前って素でも気障なのな」

 いや、いちお貰っとくけど男に薔薇なんか出すなって。

「そりゃ、マジシャン志望ですから」

 夢を見せるためには話術も必要でしょ?
 それにその薔薇は名探偵にだからあげたいものだし。

「お前それやめろ」


 ふいに顰められた新一の表情に快斗は首を傾げる。


「そんなに嫌だった?」

 それ結構気に入ってる種類の薔薇だったんだけど…。

「…名探偵って呼ぶんじゃねえよ」


 その新一の言葉に、快斗はああと小さな笑みを零す。


「それが気に入らなかったんだ」

 じゃあ、何て呼べば良いのかな?
 工藤?それとも新一?

「好きなように呼べば良いだろ」


 ぷいっと横を向く彼の仕草が可愛くて、ほんの少しの悪戯心が沸いた。


「じゃあ俺の事なんて呼びたい?」

 黒羽?それとも快斗?
 俺はそれに合わせるからさ。

「…………新一でいい」


 それはプライドの高い彼ならではの答え。
 決して自分が呼びたいなんて言えない意地っ張りな彼ならではの。


「じゃあ、俺のことは快斗で良いからねVv」


 笑顔で告げるそいつの顔はやっぱり昔のあいつとは重ならなくて…。


「お前ほんとにKIDだったんだよな…」


 ぼそっと漏れた新一のその言葉に快斗は苦笑する。


「そんなに意外?」

 俺の素顔がこんな奴だったっていうのが。
 がっかりした?

「いや…ただ余りにも違いすぎるから」


 そうKIDは言ってみれば……『月』だった。
 ただ静かに凛とした冷涼な気配を纏い、一人佇む月。

 けれど目の前の快斗は…それとは正反対の…言うなれば『太陽』
 存在するだけで周りを明るくするような、そんな雰囲気を持った者。

 どちらも彼なのだけれど、雰囲気が…纏う気配が余りにも違い過ぎて戸惑いは隠せない。


「どちらがお好みで?」


 途端にKIDの時のあの凛とした冷涼な気配を纏いそう尋ねてくる快斗に、今度は新一が苦笑する。


「どっちもお前だろ?」
「けれど貴方は全く違うとおっしゃいましたが?」
「ああ、でも根本は変わらない」

 それに…もうお前にKIDは必要無いんだろ?
 その為の今日の宴…星見の宴なのだから。

「そうでしたね…」
「解ったら、さっさと戻れ」


 その気配はもう纏う必要の無いものなのだから。


「まったく、新一君たら我が侭なんだから」


 冗談めかして言う快斗に新一の口からも笑みが零れる。


「うるせえ。お前に言われたくねえよ」
「いつ俺が我が侭言ったのかな〜?」
「いつもだ」
「新一ってば酷い〜!!」


 こうしているとまるで昔からの友人のような錯覚に陥る。
 まるでずっとこうしてきたかのような錯覚に…。


「ほら、飲むんだろ。準備しろよ」

 どうせお前のことだから準備万端なんだろ?

「もっちろん♪ちょっと待ってね〜♪」


 そう言われて、一瞬視界が煙幕によって真っ白に遮られた。
 次の瞬間、地面には充分な広さのレジャーシートがひかれていてその上には…。


「お前…よくこれだけ準備してきたな…」

 てか、何処にこれ隠してあったんだ?

「快斗君がんばっちゃってみました♪」

 タネは企業秘密♪ちなみに料理は俺の手作り♪


 ウインク付きで言われ新一は苦笑する。

 レジャーシートの上には二人分とはとても思えない量の豪華な料理と…。
 ワイン、シャンパン…果ては日本酒まで置いてあった。


「それにしても、お前もうちょっと酒に統一性を持たせられなかったのかよ…」


 ピンクシャンパンに白ワインに泡盛って…何だこの組み合わせは…。

「だって新一がどんなお酒好きか知らなかったし〜」


 快斗君だって色々考えたんだから!!と駄々っ子の様に言ってくる快斗を見て、


(こいつ…ほんとに俺と同じ歳か?)


 と本気で新一が疑っていたことなど快斗は知る由もなかった。


「さぁさぁ、早く座って座って♪」


 半ば無理矢理快斗に座らされる形で、新一はシートの上に腰を下ろした。
 その隣に、ごく自然に快斗も腰を下ろす。


「新一何飲む?」
「ん〜…じゃあそれ」
「やっぱり新一君はお目が高いね〜♪」


 何も考えずに新一は目の前にあったワインのボトルを指差した。
 けれど、別に選んだ訳でもなくただ目の前のボトルを指差しただけの新一は、何故「お目が高い」などと言われなければならないのか解らず首を傾げる。


「あれ? もしかして気付いてない?」


 そんな新一の様子に、からかいを含んだ快斗の楽しそうな声が響く。


「うるせえ。貸しやがれ!」


 そんな快斗の言い方が面白くなくて新一は快斗からワインのボトルを奪い取った。
 そのラベルを良く見てみれば…


「…お前ってほんと気障な奴…」


 呆れ気味にそう言いながら新一は快斗へとワインのボトルを返す。


「今更でしょ♪」


 快斗が用意したワインのラベルの年号は………新一の生まれ年。
 気障な彼ならではの趣向だ。


「今時こんな事する奴お前ぐらいだろうなぁ…」
「新一…それ褒めてる?それとも貶してる?」


 いつの間にか手際良く新一のグラスに注ぎ終えた快斗は自分のグラスにもワインを注ぎつつ、解りきっている事を尋ねてみる。


「もちろん貶してるに決まってるだろ?」
「酷いわ〜、新ちゃんの為にせっかく用意したのに〜」

 今日は折角の記念日なんだからさ♪

「まあな…」
「あれ、否定しないんだ?」

 てっきり、「何が記念日だ!!」とか言われると思ってたんだけど…。

「いいじゃねえか、今日ぐらいは…」


 折角こうやってお互い素の姿でもう一度会う事が出来たのだから。
 今日ぐらいは…。


「新一…まさか今日だけで済ませる気じゃないよね?」
「あ?」
「だから、『今日会ってそれでおしまい』って訳じゃないよねって聞いてるの!!」


 必死になって尋ねてくる快斗に新一は首を傾げる。


「違うのか…?」
「………新一君。俺は今日だけで済ませる気ないんだけど?」

(むしろ毎日一緒に居たいぐらいなんだから)

「なら会いに来ればいいだろ?」
「…………」

「別に俺は嫌じゃないけど」


 その言葉に快斗は思いっきり脱力した。


(これ…自然にやってるから困るんだよなこの人……;)


 駆け引きでもなく、ごくごく自然に周りの人間を手玉に取ってくれる。
 それは数々の人間を手玉に取ってきた自分ですら例外ではなく。

 いともたやすく彼に引きこまれてしまう。


「そんな事言われた俺毎日でも会いに行っちゃうよ?」
「別に構わないぞ?」

 もっとも事件だなんだで居ない時も多いと思うけどな。

「………」

(無自覚は罪だよ…新一…)


 心の中で思いっきり肩を落としている快斗に新一は更に追い討ちをかける一言を落とす。


「何なら家にくるか?」
「え…?」
「いや、毎日会いに来るなら一緒に住んだほうが面倒がないだろ?」

 それにお前の料理上手そうだし。


 快斗のお手製料理の入った重箱を眺めつつ、とんでもない爆弾発言をかましてくれた新一の顔を快斗は思わず唖然として見つめてしまう。


「………新一…それ本気?」
「ん? ああ。本気だけど?」

「………是非一緒に住ませて下さい!!」


 こうなれば無自覚で言った新一が悪い!!
 勝手にそう結論付けて快斗はもう遠慮しない事にした。

 こうなれば住まわせてもらわなければ男が廃る(爆)

 そんな勝手な事を心の中で思いながら、快斗は自分の望みに素直になる事にしたのだった。


「じゃあ、今日この後行っても良い?」
「お前荷物はどうすんだよ?」
「そんなの明日取りに行けばいいし〜♪」

「…ま、いいか」


 さくさくと一緒に住む事が決定する。

 それで良いのか工藤新一!?(笑)


「やった♪じゃあ今日は『同棲記念』も兼ねてパーっと飲もうねvv」
「………『同棲』は頂けない。この場合は『同居』だろ?」
「え〜!新ちゃんてば同居だなんて他人行儀だわ〜!」


 同棲でいいじゃんvv


「………同居じゃなきゃ俺は一緒に住むの認めないぞ?」


 流石に無自覚な工藤新一さんでも『同居』と『同棲』の区別ぐらいはつくようです(爆)


「…取り敢えず同居でいいです………ι」
「何だその『取り敢えず』ってのは?」
「気にしない♪気にしない♪」
「…別にいいけど」


 快斗が内心『いつか絶対同棲だって認めさせてやる!!』と心の中で叫んでいたのは言わずもがな。


「じゃあ、どうせ…同居記念に乾杯でもしましょうか♪」
「…記念なのか?」
「そう、記念♪」
「ふ〜ん…」

「じゃあ、俺達の同居を祝ってかんぱ……」

「ん?どうしたんだ?」


 グラスを持ち上げ新一の顔を見詰めたまま固まってしまった快斗に新一は首を傾げる。

「綺麗…」
「は?」

「すげえ綺麗…」

「何が綺麗なんだよ。」
「新一の瞳にさネオンが写って…まるで…」
「まるで何だよ?」
「星空みたいだ」

 いや、本物の星空よりずっとずっと綺麗…。

「ばっ…/// お前何恥ずかしい事言って…」
「ん〜月並みだけど…ここはやっぱり…」
「…なんだよ」

「君の瞳に乾杯vv」


 その言葉と共に夜の静寂の中にピーンという、グラスとグラスの重なり合う音が響き渡る。


「………な、何言ってやがる///」


 快斗の言葉に新一は一瞬目を見開いた後、頬を真っ赤にを染めた。


「だってほんとにぴったりな言葉だなぁ、って思ったからさ」

 まるで新一の為にあるみたいだし。

「…お前ってほんと恥ずかしい奴…///」
「ねえ新一…」
「何だよ…」
「俺さ…ずっとその星空見て行きたいな」

 明日も明後日も一年後も十年後も…ずっとずっと。

「だから一緒に居させて?」


 真面目な面持ちで紡がれた告白。
 それは新一の頬の熱を一気に上げる。


「ばーろー。…俺だって一緒に居たいんだよ///」

 じゃなきゃ一緒に住むかなんて聞かねえし。

「う〜んvv やっぱり新一って可愛いよねvv」
「うるせえ」
「だったらさ、どっか綺麗な夜景の見える所にしようか?」
「え?」


 てっきり自分の家に来るのかと思っていた新一は、快斗の顔を不思議そうに見詰めた。


「だってどうせ見るなら星がいっぱい見える所がいいし♪」


 でも、新一の都合を考えて『地上の星』が沢山見える所だけど。


「お前と住めるなら俺は何処でもいいし…///」

 お前の好きにしろ。

「だったら明日一緒に探しに行こっか?」
「…お前が酔い潰れてなかったらな」
「快斗君お酒強いから大丈夫だもん♪」
「………やっぱお前って解んねえよな」

 さっきまで気障な事言ってたと思えば、次の瞬間には馬鹿だし…。

「いいじゃん。一緒に居て飽きないでしょ?」
「まあ、な」
「これからも飽きさせないから一緒に居てね?」
「ばーろー。…言われなくても居てやるよ。」


 その言葉に快斗はこれ以上ないという程幸せな笑みを浮かべた。








 天上の星が見える夜には君と二人で星を見上げよう

 天上の星の見えない夜には君と二人で地上の星を見下ろそう

 今日も明日も…十年後も二十年後もずっとずっと

 君と二人で星見を

 そして君の瞳に映る星空を見詰め続けよう…









END.


惨敗…(ぇ)
すいません…後半書いてる自分が一杯一杯です…ι
恥ずかしい………(逃)



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