天国とか地獄とか

 きっとそういうモノは生きている者の為にあるんじゃないだろうか








 天国







「親父ちゃんと天国に行けてるといいな」


 父親の墓前で手を合わせ終わった快斗が開口一番言ったのはそんな言葉。


「天国?」
「そう、天国」
「信じてたのか?そういうの」
「ううん。全然」


 そう言って笑った快斗に新一は首を傾げる。


「信じてもいないものに親父さんが居たらいいと思うのか?」
「うん。だって、『天国』って幸せな場所なんでしょ?」
「うーん…一般的にはそうなんだろうけど…」
「だったらそれでいいんだ。親父が今幸せで居てくれればいいと俺は思ってるから」


 一番大切だった人。
 嘗ては自分の世界の全てだった人。


 あの部屋に入って、親父がしていた事を知った時は言葉では表す事が出来ない程ショックだった。

 尊敬していた父親が怪盗であった事。
 組織に命を狙われ死んだ事。

 何も知らなくて。
 何も出来なくて。

 ショックで、苦しくて、悔しくて――俺と母さんに何も言わずに逝った親父を少しも恨まなかったと言ったら嘘になるだろう。


 けれど、今なら解る。

 俺と母さんを守る為、何も語らず、何も悟らせず、一人戦い続けて逝った孤高の魔術師。

 きっと生きている間は心休まる暇なんてなかっただろうから。
 せめて死んだ後ぐらいは幸せに幸せに暮らしていて欲しいから。


「快斗…」
「俺は、親父が天国で幸せに暮らしていてくれればそれでいいんだ」


 天国とか地獄とか、そんな物まったく信じてはいないけれど、それでももしそんな物が存在するというのなら親父はきっと天国に居る。
 天国で、毎日幸せに暮らしている筈だ。

 そう思いたい。
 そう信じたい。


「そうだな。きっと…親父さんは天国に居るさ」
「うん」


 そう言って新一は快斗の手を取る。
 快斗もその手をそっと握り返した。








 ―――ねえ、父さん。貴方は今心から笑えていますか?





















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