彼を此処に繋ぎとめる為の

 彼を死なせない為の

 彼を何処にも逝かせない為の


 力を…力を俺に下さい…








愛と命と鋭利な刃物(side S)








 何時だって死に魅入られたような瞳をしている。

 それは何時死んでもいいと。
 それは何時居なくなってもいいのだと。

 無言でそう言われている様で酷く痛いもの。



「早く…帰らねえと…」


 今日も今日とて起こった殺人事件。

 動機自体は酷く単純な物で。
 恋人に振られた腹癒せに殺した、それだけの事。

 けれど下手に頭が切れる奴だったから始末が悪い。


 難解なトリック
 崩れないアリバイ

 巧妙に仕組まれたトラップ

 どれも自分を高揚させるには充分な物で。
 けれどその分何時も以上に時間が掛かったのも事実。


「早く……」


 気が付けばうわ言の様に呟いている。
 心配で心配で仕方がない。

 事件現場で死体を見る度思う。
 『明日には彼の死体を見るかもしれない』と。

 人間だから何時か死ぬのは当然で。
 けれど大切な彼をみすみす死なせたくはなくて。


「……頼むから…」


 頼むから早まったことはしてくれるなと、あらゆる嫌な可能性を考えながら急いで帰宅する。

 出て来る時は『いってらっしゃい♪』と、笑顔で送り出してくれた彼。
 帰ってきたら一緒に夕食を食べようとも言っていた。

 だから大丈夫…そう自分に言い聞かせながら玄関の扉を開ける。

 けれど目指す人物は、何時もそこで出迎えてくれる彼の姿はそこにはなくて。
 靴を脱ぎ捨てて、玄関を上がる。
 リビングまでの廊下の距離が以上に長く感じられて、焦れば焦る程それを嘲笑うかの様に歩が進まない。

 やっとリビングへ続くドアの前に辿り着いて、ドアを開ける。


「お帰り新一♪」


 ドアを開けた瞬間迎えてくれたのは抱き付いてきた笑顔の彼と、噎せ返る様な血の匂い。


「ただいま」


 けれど彼が今日も生きていてくれた事に安堵して、抱き締められた腕の中でそっと瞳を閉じる。

 死を渇望している瞳。
 自らを傷付ける自傷行為。

 それらは決して消えることはない…けれど…。


 ――今日も生きていてくれる…それだけで充分だ。








END.


実は密かにこの題名は気に入ってたりv(笑)
珍しく最初に題名から決めたしな…(何時もは題名が最後)


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