それは甘い甘い誘惑

 一度は夢に見る

 渇望する望み


 けれどそれが実現されない事は

 きっと自分が一番良く解っている








愛と命と鋭利な刃物(side K)








「…赤っ…」


 嫌そうに言う快斗の手に握りこまれているのは己の血で赤く染まった鋭利な刃物。
 刃渡り20cm程のそれは普通に持って歩いていれば銃刀法違反の代物。

 けれど今は家の中だから関係ない。


「何だかな…」


 左手の掌を伝いシンクへと零れ落ちる生温い血を右手で拭って、後から後から溢れてくるそれをじっと眺める。

 どんなに壊れた行動をしても理性だけはあるらしくて。
 敢えて左手を切った事が笑いを誘う。


 ――右手を切ったら生活にも仕事にも支障が出るから


「…俺って結構冷静だよな」


 痛みにではなく、行動にでもなく、何時でも何をしていても冷静な自分に嫌気が差す。

 何時だって何をしたって人並み以上の出来で。
 だからこそ何かに熱中するなんてことはなかった。

 それは夜の仕事でも同じ。

 命のやり取りをしているスリルで多少の高揚はあってもそれで終わり。
 弾が腕を掠っても、ハングライダーの骨が折れても、どこか冷静な自分が居る。

 それは何物にも捕らわれる事はないと言われている様で。
 一生自分には何も大切なものは持てないのだとそう宣告されているようで。

 吐き気にも似た絶望が時たま自分に襲い掛かる。


「………早く帰ってこないかな」


 けれどそんな中で見付けたのは二つの光り輝く蒼。
 それを見た瞬間冷静だった筈の自分が冷静で居られなくなった。

 今までにない感情。

 何かへの執着と、ありえなかった筈の独占欲。
 そして持てないと思っていた『愛情』

 それは今までも、そしてこれからも彼にしか抱く事のないモノ。


「………早く帰ってこないと俺拗ねてやる」


 くすっと小さく笑って、不要になった手の中の刃物をシンクへと放り出して。
 彼を汚さないように手近にあったタオルを左手に巻き付けて
 走って行って、感じた気配へと思いっきり抱きついた。


「お帰り新一♪」
「ただいま」





 自分の中から零れ出す赤は異常な程赤く見えて

 君に逢うまではそれだけが自分が生きている証だと思っていたのだけれど

 君と居れば生きているという事が

 自分が感情ある人間だと感じることが出来るから


 だからこれからも傍に居させて?








END.


どうして元旦更新がこんなブツなんでしょ(泣)
何だか今年もこのまま突っ走りそうです(爆)
こんな管理人に今年もお付き合い頂ければ幸いですv

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