「新一! 俺家買うから!!」
「………は?」
帰って来ていきなりの快斗の宣言に
新一は思いっきり首を傾げたのだった。
〜理想の旦那様の条件〜
「……何で突然家?」
さっぱり解らなくて首を傾げつつ尋ねれば、よくぞ聞いてくれました!とばかりに語り出した。
「今日クラスの女子が休み時間に話してたんだよ!!」
「………何を?」
「『理想の旦那様の条件』!!」
「………」
何だかとっても微妙な単語が聞こえた気がする。
………聞かなかった事にしよう(爆)
「快斗」
「なに?」
「コーヒー」
「はいはい♪ ………って新一!!」
そのままさらっと流そうとしたのだが、やっぱりそうは行かなくて。
新一はちっ、っと舌打ちをした。
「何で話し逸らすかなあ…」
「お前が馬鹿な事言うからだ」
「馬鹿じゃないもん!! 俺IQ400あるもん!!」
「だったらもう少しマシな事にそのIQを使え!!」
新一はふぅ…と溜め息を吐く。
まったくどうしてコイツは何時もこうなのか。
頭は悪くない。
寧ろ非常に良過ぎるぐらいだ。
じゃあ一体何が悪いのか…。
やっぱり馬鹿と天才は紙一重という事か…(酷)
「だいたい何でいきなり家なんだよ」
「だってさぁ…『やっぱり旦那様は庭付き一戸建てぐらい建てられる甲斐性がないとね』なんて言ってたんだもん!」
「………庭付き一戸建て…」
何だか高校生の会話にしては些か現実的過ぎるのは気のせいだろうか?
それとも最近の女子高生はそんなもんなのか…。
「だから…」
「いいじゃねえか。うちに住んでんだし」
「良くないの!! やっぱり奥さんの実家にマスオさん状態じゃ良くない!!」
「………」
何が良くないのかは敢えて聞きたくないと思ってしまう。
てか、はっきり言って絶対聞きたくない。
けれどそんな新一の切実な願いは旦那様(笑)には届かなかったようで。
「ちゃんと自分で庭付き一戸建て建てて、俺は甲斐性のある立派な旦那様になるの!!!」
「………」
声高らかに宣言した快斗に新一は頭を抱える。
こういう時の快斗はやると言ったら意地でもやる。
下手に頭も、資金源もあるから始末が悪い。
何とか諦めさせる手がないか新一は一人密かに考えを巡らせて、一つの解決方法を見出した。
「なあ、快斗」
「なになに?」
「俺、うち以下の蔵書のとこに住む気ねえから」
「!? そ…揃えるもん!!」
寧ろそれ以上買ってあげるもん!と反論する快斗も新一の予想内で。
もう一つ条件を付け足してやる。
「それでも無理だな」
「な、何で!?」
「宮野と離れなきゃならねえだろ?」
「それは…ι」
「解ったら諦めろ」
快斗もこの条件には、うっ…と喉を詰まらせてしまう。
流石に解毒剤の副作用が何時出るか解らない自分と志保を引き離す訳にはいかないと納得したのだろう。
これで諦めるだろうと安心しかけた刹那、うーん…と唸っていた快斗の表情が一変して明るいものへと変わった。
「新一! 良い解決策があるよ!」
「………何だよ…」
「志保ちゃんも一緒に住むの♪」
「………」
「あ、そしたら博士も一緒じゃないと駄目だよね〜♪」
「…………」
どうしてコイツはこうもいらん所に気が付くのだろう。
はっきり言ってそんな所に気が付いて欲しくないι
「だ・か・ら、今度一緒に新居探しに行こうねv」
あ、もちろん俺が候補は粗方絞っておくから新一は最後に何軒か見てくれるだけでいいから♪
「………」
ルンルンとそう語る快斗に対し、新一は何とか逃げ道はないかと考えてみる。
資金……快斗の場合はマジシャンでも株(裏の顔の資金源)でも稼いでいるから充分過ぎる程ある。
学校……コイツなら転校しても上手くやっていけそうι
家族……今俺と暮らしてるんだから結局同じ。
隣の科学者……連れて行く気満々ι
はっきり言って逃げ道がない。
今更ながらに先程の自分の発言も墓穴を掘ったと後悔してしまう。
最後の切り札を切ってしまった訳だから新一にもうカードは残されていないのだから。
「んー…やっぱりお庭は広い方がガーデンパーティーとか出来るからいいし、お風呂も広い方が一緒に入れるからいいよね♪
台所も広い方が便利だし、やっぱり対面式だな♪そしたら新一の顔見ながら料理も出来るしぃ〜vv
後は、新一の希望通りの広い書斎がいるし、志保ちゃんと博士の実験室もいるし、それから……」
新一が一人悩んでいる間にも快斗の方は着々と計画が進んでいるようで。
メモ帳に必要な物をリストアップしている始末。
新一にとってこれは非常に拙い…。
どうにか回避できないかと考えて。
そして自分の中で最終的に思い付いた解決策が余りにも微妙なもので。
けれど今はそれに構っている余裕などないから、仕方なく新一は考えを実行へと移す事にした。
「なあ、快斗」
「ん?」
「お前志保と博士一緒に住んでいいのか?」
「え? いけないの?」
だって一緒じゃなきゃ駄目でしょ?
きょとんと新一の顔を見る快斗に、新一は持ち前の演技力で少し寂しそうな表情を作ってみせる。
「俺は…」
「?」
「お前と二人だけで居たいんだけどな…」
「!?」
「俺は今のままお前と二人で住みたいんだよ…」
「新一…」
新一の言葉に快斗は驚きの余り目を見開いて固まってしまう。
そして、漸く我に返ると先程まで書いていたメモを放り出し新一へと飛び付いた。
「ごめんね。そうだよね、二人っきりがいいよね」
ぎゅうぎゅうと自分を抱き締めて、頷きながら噛み締める様に快斗はそう呟く。
其の快斗の腕の中で新一は、
「(勝った…)」
と、快斗の計画を阻止できた事に心から安堵していた(笑)
「そうだよ。志保ちゃんや博士が一緒じゃ、あんな事やこんな事なんて出来ないし…」
けれど快斗の言葉は徐々に不穏な響きを纏い始める。
「やっぱり昼も夜も奥さんを楽しませてあげるのが良い旦那様だし」
「快斗…?」
何やら嫌な予感を感じた新一は快斗を呼んでみるが快斗の暴走(…)がそれで止まる筈がない。
「ここは、素直で可愛い奥さんを可愛がってあげるのが旦那様の務めだよねv」
「………可愛がる…?」
「そう、たーっぷり可愛がってあげるからvv」
今朝ちゃんと新しいシーツにしといたからきっと気持ち良いよv
「!?」
幾ら鈍感な新一と言えどもそこまで直接的な事を言われて気付かない筈がなく。
「ちょ、ちょっと待て!!まだ夕方…」
一応反論を試みてはみたのだが…。
「いいの♪ だって折角新一が可愛い事言ってくれたんだもんvv」
ここでしっかりサービスしなきゃそれこそ甲斐性なしだし♪
相手は(暴走・笑)快斗。
敵う筈がない(爆)
「いや、しなくていいから」
「遠慮しないの♪ 今夜は寝かせてあげないから覚悟してね♪」
「嫌だ!!」
「だーめvv あんな可愛い事言う新一が悪いのvv」
すっかりルンルンで満面の笑みになっている快斗に抗う間もなく抱き上げられて。
そのままリビングから連れ去られてしまう。
「か、快斗!」
「ん? なあに?♪」
「家は…?」
「ああ。新一と居られるなら何処でもいいよvv」
何処に住んでたって俺は新一の理想の旦那様だし♪
「………」
無言でがっくりと疲れた様子で肩を落とした新一を快斗はいそいそと寝室へと運んで。
そのまま朝までしっかり有言実行したらしい。
快斗が本当に理想の旦那様かなのかどうかは奥様の新一しか知らない。
END.
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