深夜の静寂の中に悠然と佇み、まるで淡い光さえ放っているかのように輝いている純白。

 けれどその輝きは彼の守護星同様自ら放っているものではなく、他からの光に照らされる事で輝く白。

 その純白が月明かりに世界で最も硬質の輝きを翳す。


 そしてその輝きが目的の物ではなかった事は夜の静寂を漂う彼の気配から新一にも伝わった。

 その事に自分には関係ないにも関わらず勝手に落胆し、そして彼の邪魔をする決意を固めそっと屋上へと足を踏み入れた。










代償
The lost thing and the obtained thing










「これはこれは名探偵。何時の間に元の姿にお戻りに?」


 屋上に一歩足を踏み入れれば新一の気配に気付いたKIDはゆっくりとこちらを振り返った。
 その彼らしい言い方に新一は口元を歪めつつ、彼の仕掛けてきた遊戯に乗ってやる。


「どっかの誰かさんのお陰でつい先日な」

 ったく、白々しいんだよてめえは。










 一週間程前にコナンの元へと届いた一通のメール。

 暗号になっていたそれを読み解けば、近くの郵便局を指し示していて。
 急いで近くの郵便局へ行ってみれば、危険を避ける為わざわざ局留めにされていた一通の手紙。



 そしてその中には……










「それは何処かの誰かさんに私もお礼を言わなければなりませんね」


 何処までもそしらぬ振りでそう宣ってくれるKIDに苦笑しつつ、新一は今日ここに来た目的を早々に果たす事にする。


「そうだな。だから礼を言いに来たんだよ」


 ―――助かった



 一言そう告げれば、驚いたようにほんの僅かだがKIDの瞳が見開かれる。

 けれど、それも本当に一瞬の出来事で次の瞬間には何時ものポーカーフェイスに戻ってしまう。


「私は貴方にお礼を言われる筋合いはありませんが?」
「わあったよ。そういう事にしといてやる」


 あくまでも知らないという命の恩人と、それならばとそれに乗る救われた者。
 どちらもそれを解っているからそれ以上の言葉も、行動も必要ない。

 新一がそれ以上言及するつもりがない事を悟ったのかKIDはほんの少しだけ自身の持っていた気配を和げた。

 それは新一に対する優しさか、それとも元に戻ったばかりの新一にただ気を使っただけなのか。
 それは現段階では新一には解らない事。


「それにしてもお元気そうで何よりですよ」

 後遺症が出るかと心配したんですが、それも無さそうですしね。

「まあな」

 至って快調だぜ?まあ後処理だ何だって大変だけどな。


 ふんわりと笑ってやればKIDもまた微笑んで、ほんの少しだけ距離が縮まる。


「それで、今日はいったい何の御用で?」
「これ」


 無造作に空中へと放られる一枚のROM。
 それを軽々と受け止めてKIDは首を捻る。


「これは?」
「ああ、どっかの誰かさんに渡しといてくれねえか?」

 助けてもらった礼だ。

「…解りました」


 それだけで中身の予測がついたのか、KIDはそれだけ言うと何時ものように一瞬にしてそれを消して見せる。


「相変らず見事だな」
「お褒め頂き恐悦至極」


 わざわざ優雅に一礼してみせるKIDに新一は笑みを深め、そして踵を返した。


「用事は済んだから俺は帰るぞ」


 言葉通り背を向けて、ひらひらと手を振ってさっさと帰ろうとすれば新一はKIDに後ろから抱留められる。

 予想していた事とはいえその事態に新一の中にほんの少しの焦りが生まれる。
 しかしそれを表に出すような事はしない。

 気付かれてはいけないから…。


「相変らずつれない方ですね」

 もう少し私にお付き合い頂けないのですか?

「…今度じっくり遊んでやるから今日は我慢しろ」

 ったく…お前は遊び相手に恵まれないガキか?


 抱留められた腕の中で不機嫌そうに身動ぎすれば、それを封じる為にKIDの腕にはより力が込められる。
 流石にその腕に苦しさを覚えた新一は眉を寄せる。


「…苦しい。離せ」
「なら帰らないで頂けますか?」

「今日は帰らせろ」


 何時も以上に離される気配のない腕に新一の心の中では密かに焦りが膨らんで。
 無理矢理にでも帰ろうと腕を振り払おうとすれば、KIDの方も意地になったのか余計に腕に力を籠められて新一は身動きが取れなくなる。

「何故今日は駄目なのです?」
「俺にも色々事情があんだよ」
「誰かとお約束でも?」
「ンなんじゃねえよ…」


 中々離してくれないKIDに焦れた新一は身動きが取れないと解っていても無理矢理にKIDの腕の中から抜け出そうと足掻く。
 その新一の様子に余程の事があるのだと判断してくれたらしいKIDは渋々ながらに新一の身体に回していた腕を解いた。


「ったく、最初から素直に離せよな」
「貴方が余りにもつれない事を仰るものですから」
「まあいい。じゃあ俺は帰るから…またな」


 ようやくKIDの腕から解放された新一は、そう言ってゆっくりとKIDから離れていく。

 が、しかしそこでKIDはある違和感に気付いた。
 新一の歩き方が少しではあるがぎこちなく、よく見れば右足をほんの少しだけ引き摺っている事に。

 それに気付いたKIDは咄嗟に新一の肩を掴んでいた。


「名探偵…その足…」
「ちっ…やっぱり見抜きやがったか…」


 じっと自分の右足を見詰め続けているKIDに新一は舌打ちして苦々しげに呟く。
 IQ400といわれるKIDの頭脳は直ぐに原因にも思い当たってしまうから。


「あの靴の代償…ですか……」
「ああ、そうだよ」


 阿笠博士の発明した『キック力増強シューズ』

 人間は普段本来持っている筋力の五分の一程度しか使用していないと言われている。
 それを電気と磁力によって足のツボを刺激して、履いている人間の足の筋力を極限まで高めてくれる正に夢の様な靴。

 しかし、一回一回の時間は短いとは言えそれを幾度も利用すれば最後には…。


「お前に見抜かれる前に帰りたかったんだがな…」

 灰原に作ってもらった義足にまだ慣れてなかったし…。

「それで…」


 途端に曇ったKIDの表情に新一は苦笑する。


「そんな顔すんなよ。俺は今生きてる。それだけで充分だ」
「充分って…」


 新一の言い分にKIDが何かを言いかければ、新一のはっきりとした言葉が突き刺さる。




「俺はあの日…本当はトロピカルランドで死ぬ筈だったんだ」




 あの頃の俺は自分の力量も解らずに、ただ世間でちやほやされるのに乗せられていて。
 余りに軽率な行動を取った罰として俺はあの日あの場所で本当は死ぬはずだった…。

 それが万に一つの確率で助かって、コナンとして過ごして。
 そして、コナンになった後も何度も死にそうになったのをあの靴のお陰でここまで生き延びてくる事が出来た。


「それを考えれば安いもんだろ? コナンだった俺が足一本分で何度命を救われたか解んねえぐらいなんだからさ」
「ですが…」

「後悔はしてねえよ」


 新一の強い言葉にKIDはその先に用意していた筈の言葉を飲み込む。


「例え足を失う事が最初から解っていたとしても俺は同じ事をした」


 それが『江戸川コナン』が『探偵』として生きて行く為に必要不可欠な事だったのだから。

 けれど、そこまで語った新一の表情にも一瞬翳りが過ぎる。


「ただ…博士には悪い事しちまったけどな」


 新一が元の姿に戻ったのをまるで自分の事の様に喜んでくれた博士はその後の哀の検査でこの事を知った時、新一の前から姿を消そうとした。

 全ては自分が招いた事だと…そう言って。


「でもそれは…」
「そう、博士が悪いんじゃない。薄々解ってはいたが俺は使う事を止めなかった」


 時折感じる痛みに見てみぬ振りをして使い続けてきた。

 そして元の身体に戻った時、急激にそのツケは跳ね返ってきた。




「―――全ては俺自身が選んだ事だ」




 自分の足よりも『探偵』として生きる事を選んだ。
 それが新一が新一として生きていくという事だったから。


「名探偵…」
「俺は何よりも『探偵』としての自分を優先した。」

 これはその結果。それだけだ。

「………」


 片足を…しかも自分の自慢の武器でもあった右足を失ってから数日しか経っていないとは思えない程、しっかりと何もかも受け入れている新一にKIDはそれ以上何も言えなかった。

 彼が全てを冷静に判断して、最善の方法を選び取った結果だという事はKIDも解っていたから。


「だからさ…そんな顔するなよ」


 苦笑交じりに言われた言葉さえKIDを気遣うもので。
 辛いのは彼の方なのに、慰められている自分に情けなさを覚えながら彼の強さを再認識する。

 何時でも周りに弱音一つ吐く事無く、強くあり続ける事を自分に課している名探偵。
 それは『江戸川コナン』であった時も…そして片足を失った今も変わることは無い。

 だからかもしれない…KIDの口からそんな言葉が出たのは。


「名探偵。私になら言っても良いんですよ?」
「…何をだ?」

「私になら一言ぐらい弱音を吐いても良いんですよ?」


 確かに彼が最善の選択をしたのに間違いは無い。
 それはKIDも解りすぎるぐらい解っている。

 けれど、それでも…一言ぐらい弱音を吐いても良いのではないだろうか。

 一言ぐらい…『辛い』と言っても良いのではないだろうか。


「ばーろ。別に俺は…」
「誰にも言えなかったのでしょう?」

「っ…」


 唇を噛み締めた新一にKIDは自分の予想が外れていなかった事を確信した。

 お隣の科学者は靴を使わなければいけない薬を作ってしまった当事者で。
 親代わりでもある隣の博士は原因でもある靴を作ってしまった当事者で。

 彼の事だから他の周りの人間…幼馴染や友人達にはひた隠しにしているに決まっている。

 だとすれば誰にも言えなかった筈…。


「だから、私になら言っても良いんですよ?」


 誰にも吐き出せないのならせめて自分には言って欲しかったから。
 一人で何もかも抱え込んで苦しんで欲しくはなかったから。

 KIDがそこまで言えば、新一は俯いて小さく呟く。


「…だから嫌だったんだよ……」
「何がですか?」


 新一の呟きの意味が解らずにKIDは首を捻った。

 お節介だとでも思われてしまったのだろうか…。

 しかし、新一が更に紡いだ言葉はKIDの予想外のものだった。


「お前は…全て見抜いてくるから…」

 だから帰りたかったんだ…全て見抜かれてしまう前に…。

「名探偵…」

「全て見抜かれて、俺が弱くなる前に帰りたかったんだ。」

 お前の前では好敵手の『名探偵』のままでいたかったから。


 そう言った新一の目元がほんの僅かだが潤んでいる事に気付いて。
 KIDはそっと新一の身体を抱きしめた。

 そして優しく言い聞かせるように華奢な身体を抱き締めながらその言葉を新一の心に落としていく。


「名探偵。今日ぐらいは『探偵』を休んだら如何ですか?」

 『探偵』としての工藤新一ではなく、普通の高校生としての工藤新一に戻って少しは誰かに寄りかかったらどうです?
 今この時だけは…。


 けれど、KIDの言葉に新一は緩く首を振る。


「俺は…『探偵』だ」
「解っていますよ。私は『探偵』の貴方を一番近くで見てきましたから」

 貴方が誰よりも『探偵』である事はきっと私が一番良く理解していますよ。

「けれど一時ぐらい『探偵』である事を休んでも良いのではないですか?」

 確かに貴方は強く優しい心の持ち主ですがその実余りにも儚い。
 このままでは壊れてしまいますよ…内側から、ね。

「…でも…」
「犯罪者である私には頼れませんか?」

「違う!」


 KIDが自嘲気味に笑んで見せればすかさず新一から強い否定が返って来て。
 その余りにはっきりとした否定にはKIDの方が戸惑ってしまった程。


「違う…犯罪者だから頼れないなんて思ってない…」
「なら他に何があるんですか?」
「………」
「名探偵」


 ぐっと何かを堪えるように黙りこくってしまった新一に、その先を促すようにKIDは彼の名前を出来る限り優しく呼んだ。
 そうすればKIDの優しい眼差しに見守られて、新一はぽつりぽつりと本音を吐露し出す。


「お前に頼ったら俺はきっと戻れなくなる…」

 きっとお前に頼るのが…俺と同じだけ、渡り合えるだけの力を持っているお前に頼れるのが心地良くなって。
 きっと元の強い自分には戻れなくなる。
 それが…怖いんだ。


 新一の言葉にKIDは内心で苦笑する。

 どうしてこの人はこうも強くあろうとするのかと。


「いいんですよ。人間なんですから弱い部分があっても」

 貴方は自分が強くある事を自分に課し過ぎなんです。
 それでは疲れてしまうでしょう?
 少しは寄りかかって、その疲れを癒しても良いんですよ。


 にっこりと微笑んでそう告げても、腕の中の名探偵は頑なに首を振り続ける。


「でも…戻れなくなる…」

 頼る心地良さを覚えてしまえばきっと何も知らない頃の自分には戻れなくなる。
 きっとまた頼りたくなる…今日この一時だけで済む筈が無い。


 そう言ってぎゅっと手を握り締めまた俯いてしまった新一にKIDは抱き締める腕に力を籠めて、そっとそっと囁く。


「戻れなくしてしまいましょうか?」

「え…?」


 KIDの言葉に新一は少しだけ顔を上げKIDの瞳を見詰めてその蒼い宝石を数回瞬かせた。
 その様子にKIDは微笑んで、新一の耳元に口を寄せ更に甘美に囁く。


「貴方が一人では立っていられない様にしてしまいましょうか」

 私以外に頼る事が出来ない様に。
 私なしでは生きていけない様に。

 貴方を弱くしてしまいましょうか。

「KID…」


 それは今の新一にはこれ以上ない極上の甘い甘い囁き。
 そしてその囁きはKID自身にも甘美な毒のように広がっていく。


「名探偵。私ではお嫌ですか?」

 貴方の隣に一生居るのが私ではご不満ですか?
 貴方を一生支え続けるのが私ではご不満ですか?


 そこまで囁いて、KIDは新一の瞳を覗き込む。
 そこに映し出されていたのは『嫌悪』でも『拒絶』でもなく…唯の『躊躇い』


「……嫌じゃない…けど…」
「けど…何ですか?」

「………お前にそこまでして貰う理由がない」


 『探偵』としての自分は、追っている筈の『怪盗』にそこまでしてもらう理由を持たない。
 躊躇いと共に告げられた言葉にKIDは一瞬呆けて、次の瞬間にはくすくすと笑い出していた。


「な…何だよ!」
「いえいえ…余りにも貴方らしい仰り方だったものですから」


 言いながらなおも笑い続けるKIDに、新一は居心地が悪くなったのかKIDの腕の中でその身を捩る。
 その様子にさらに笑みを誘われてKIDはその身を抱き締めながら更に笑ってしまう。


「名探偵…まだ気付いていらっしゃらなかったんですか?」

 あれだけの事を言ってもまだ貴方は気付いて下さらないのですか?

「何…?」


 KIDの言葉に思い当たるものがなく新一はただただ首を捻るしかない。
 そんな新一にKIDは更に笑みを深め、答えを導くためのヒントを出してやる。


「貴方は持ってらっしゃるんですよ。私がそこまでする…いえ、したいと思う理由を」

 貴方の為なら何でもしたいと思ってしまう理由が解りませんか?


 しかし、そこまで言っても新一は首を捻るばかりで。
 仕方なくKIDは最後のヒントを出してやる。


「好きな人の為なら出来る事は何でもしたいとは思いませんか?」

「えっ…? ………あっ……///」


 KIDの最後のヒントに新一は一瞬固まって、一瞬遅れて答えに行き着いたのか普段は白過ぎる程白い頬を真っ赤に染め上げた。


「どうやらお解かり頂けた様で」


 その新一の解り易過ぎる可愛らしい反応にKIDは満面の笑みを浮かべてそっと彼の薄紅色に染まった頬に手を添えて新一の蒼い宝石を覗き込む。
 そして告げるのは最後の告白。


「名探偵…貴方の御傍で貴方を支え続けさせては頂けませんか?」

 一生貴方を支え続けて生きて行かせては頂けませんか?


 真摯な瞳で尋ねれば新一から返って来たのは不思議な言葉。


「………支えて貰うだけじゃ足りない…」

「…足りない?」
「そう…足りない」


 自分に言い聞かせているかのように新一の口の中で呟かれる言葉にKIDは首を傾げる。


「他に何が必要ですか?」

 私に出来る事なら何でもするつもりなのですが…。
 それ以上に何が必要なんですか?

「…違う」


 それ以上の物を提示する事を望むKIDに対し、新一は首を振り否定の意を表す。


「俺は支えて貰うだけじゃ嫌なんだよ…」
「と仰いますと…?」

「…支えて貰うからには……支えたい…」

「名探偵…」


 支えて貰って甘えるだけの自分では嫌なのだと。
 支え合って生きていける関係にしたいのだと。

 皆まで告げられなくても新一の言いたい事が解ったKIDは柔らかく微笑むと静かに首を縦に振った。


「貴方にそう言って頂けて光栄ですよ」
「……俺も支えるから…」
「ええ…解っていますよ」


 そう言って再び抱き締めれば、抱き締めた腕の中の新一がKIDの背に手を回してKIDを抱き締め返してくれた事に彼の了承の意を取って。
 KIDはゆっくりとその心の中に入っていく。


「名探偵…言ってくれませんか?」

 私に弱音を吐いては下さいませんか?


 耳元で静かに静かに囁いた言葉に返すかのように、KIDの背に回された手にはぎゅっと力が籠められる。

 そして…語りだされるのは新一の本音。


「………辛…かった…」


 もう二度と自分の足で地を踏む事も、ボールを蹴る事も、歩く事すら出来ないと知って。

 本当は直ぐにでも泣き出したいぐらい辛かった。

 でも灰原や博士の前でそんな事は出来なくて…両親や他の回りの人間にも弱音を吐くことなんて出来なくて。
 誰にも頼れなくて…独りきりで抱えてきて………苦しかった…。

 言いながら力の籠められる細い腕。
 そして少しずつ濡れていくKIDの胸元。

 それが今まで耐えに耐えてきた新一の苦しみの重さのようで。

 KIDはその華奢な、けれど全てを誰にも話すことなく自分独りで背負ってきた新一の身体を強く強く抱き締める。


「もう大丈夫ですよ」

 私が居ますから。
 貴方を独りで苦しませたりなどしませんから。
 貴方をずっとずっと抱き締めて生きて行きますから。

 ずっとずっと貴方の傍に居ますから。

「KID……」
「いいんですよ。今は泣きたいだけ泣いて下さい」


 躊躇いがちに呼ばれた名前にやんわりとそう言って。
 少しだけしゃくり上げている新一の背中をそっと撫でてやる。


「ゆっくり休んでいいんですよ」

 貴方は今まで充分に苦しんできたのですから今この一時だけでもゆっくり心を休めて下さい。


 新一の痩せて少し骨ばった背中を撫でながらそっとそっと囁く。

 大切な人がこれ以上苦しまなくて済むように。
 大切な人の苦しみが少しでも癒えるように。


「泣いて泣いて涙が枯れ果てるくらいに泣いたら、また真っ直ぐ前を見て歩いて行けばいいんですから」

 だから今だけは苦しみから自分を解放してあげて下さい。
 強くあろうとする事を自分に課すのを少しだけ休んで下さい。

 その分は私が支えますから。


 そう告げれば今度こそ思いっきり泣き出した新一をKIDは出来る限り優しく抱きしめて。

 この細い肩を一生支え続けていく事を心に誓ったのだった。








 失ったのは大切だった『右足』

 手に入れたのはそれ以上に大切な『支え合う事の出来る人』

 失ったものは大きかったけれどそれは自分には必要な代償で。


 そして最後に手に入れたものは何物にも代え難い『安心して休む事の出来る場所』









END.


と言う訳で(忘れてたけど)半年記念フリー小説です。
ここまでやってこれたのも心優しい皆様のお陰です。
至らぬところが多々あるサイトですがこれからも宜しくお願い致します。
フリー期間は03/01/31までなので宜しければお持ち帰りください。
その際BBSやメール等で一言頂ければ嬉しいですv

フリー期間終了いたしました。お持ち帰り下さった皆様、有難う御座いましたvv

これははサイト開設時からずっと書きたかった話し。
03/11/27の日記で言っていたブツはこれだったり。
途中まではさくさく進んでたんですが後半が非常に進まなかった…ι
何とかこうして出せて一安心です。色々書き足らない所はありますが(爆)
少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです。

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