バレンタインデー

それは全国の男女にとって戦争である

が、今年はその前日からすでに戦いは始まっていた

そしてそれは工藤邸のらぶらぶバカップルとて例外ではなかった…








チョコレート戦争
(前夜祭編)









「離せこのバ快斗!!」

「やだ!!」

「やだじゃねえ!!」


朝から工藤邸に響き渡る怒鳴り声。

ちなみに現時刻8時。

そんでもってちなみにお二人が居るのはリビングのソファーの上。

すっぽりと後ろから抱き締められる形になっている新一は何とかその腕から逃れようとバタバタと暴れている。

まあ、新一がどんなに暴れようと本気で逃がすつもりのない快斗の腕から逃げ出すのは無理なのだが。


「やだったらやだ!!」

「てめえはガキか…ι」


ぎゅーっと新一を抱き締めたまま、快斗はぶんぶんと首を横に振る。

それは絶対に嫌だ、という意思表示に他ならない。


「ガキでいいもん!」

「どうでもいいから学校に行かせろ」

「……絶対行かせない!行かせないったら行かせない!!」

「………はぁ……」


快斗の叫びに新一は本日何度目かの深い深い溜め息を吐く。

このやり取りがかれこれ30分近く続いている。

どうしてこんなに朝から体力と気力を使わなければならないのか…ι

そんな呆れきった新一の溜め息に快斗はぷうっと頬を膨らませる。


「新一解ってるの!?今日学校なんか行ったら大変なんだからね!」

「………何が大変なんだよ…」

「チョコレート貰わなきゃいけないでしょ!!」

「…………は?」


快斗の言葉に新一は首を傾げる。

新一の記憶が確かなら今日は…。


「今日は13日じゃねえの?」


1日に約束を取り付けられてから毎日毎日嫌という程14日のバレンタインの予定を何パターンも聞かされ続けていたのだから日にちを間違える筈はない。

今日は2月の13日。

バレンタインデーは明日の筈だが…。


「甘いの!新一は甘すぎるの!!」

「……?」

「明日は土曜日でしょ!」

「………だから?」


さっぱり訳が解らないと首を傾げたままの新一に快斗は、だから駄目なの!と続ける。


「明日が土曜日って事は学校休みでしょ?」

「それが何なんだよ」


流石に其れぐらいは解っていると新一は形の良い眉をきゅっと寄せる。

その様子からは新一は快斗の言わんとしている事等さっぱり解っていないという事がありありと解ってしまって、今度は快斗の方が溜め息を吐いてしまう。


「………新一君………」

「何だよ」

「推理の時はあんなに鋭すぎる程鋭いのにどうしてこういう時だけはそうなのかなぁ…」

「るせー!さっさと言いやがれ!!」


新一の眉が余計に寄ったのを見て、快斗はもう一度溜め息を吐いてから新一に説明する。


「あのね、14日が土曜日でお休みって事は学校でチョコレート渡せないでしょ?」

「そりゃそうだろうな」

「だから前日の13日に学校で渡そう、って思って今日持ってくる子が多いんだよ」

「ああ、そういう事か」


成る程、としみじみ納得している新一を見て快斗はもう一度深々と溜め息を吐いてしまう。



この目の前の綺麗で可愛らしく頭が切れて、でもその癖ちょっと抜けてる可愛い可愛い自分の恋人はどうしてこうもイベントとかその手のものだとこうした推理(と呼べるかも怪しい物)をしてくれないのだろうか。

そんな所もまた可愛らしいのだけれど、流石にこれはちょっと困る。

だって……………ほんとに彼はもてるから。

しかもその上無自覚、無自覚、無自覚(だから強調し過ぎ)なのだから困りもの。



「だから、絶対行かせないの!!」


きっぱりとそう言いきって快斗は再びぎゅーっと新一を抱き締める。

その腕の中、新一はまったく…と苦笑する。



自分がコナンになっていた時のせいで出席日数が危ない事は彼も知っていて。

『進級できないと大変だから、俺がおぶってでも学校に連れて行くからね!』とまで自分がこの身体に戻った時に言ってくれた筈なのに。

この手の事に関しては譲る気はないらしい。

それが焼きもちから来るものだと知っているから悪い気はしないのだが。

…ここで甘やかしては後々新一自身が困る事になる。



「快斗」

「ん?」

「今日学校に行かせてくれないなら…」

「なら…?」

「明日の予定は全部なしな」

「!?」


にっこりと微笑んで、快斗にとってそれはそれは残酷な事を告げた新一に快斗はそりゃもうカッチーンと固まった。

それに満足した新一は、そりゃもう天使の様な可愛らしい笑顔で、


「解ったらさっさと離せよな?」


と、最終宣告のように告げた。

そんな新一に対し漸く自分を取り戻した快斗は何かお強請りする時の様にかわいらしーく、じーっと新一の顔を見詰めて、


「しんいちぃ…」


と、甘えた声を出す。

その瞳は何かを思いついた悪戯っ子の様な色を帯びていて。

けれど新一はその色に見て見ぬ振りをする。


「んだよ…」

「今日学校に行くってことはだよ…」

「俺は別にチョコレートなんてどうでも…」

「俺もチョコ貰わなきゃいけないだよねえ」

「!?」


快斗の発言に新一は大きな目を何時も以上に大きくして、快斗を見詰める。



確かに快斗は頭もいいし、(黙っていれば)それなり以上に格好良いし、愛想も良いし、料理も上手いし……(以下エンドレスで惚気なので省略・笑)

時々自分なんかとはとても釣り合いがとれないと思って新一が沈んでしまう程、快斗は『いい男』の部類に入る。

と、いう事はかなりの量のチョコレートを確保してくる事は必死。

それに彼が甘いものが大好きである事は周知の事実だから女の子達は気兼ねなく渡せるだろう。


それは嫌と言う程解りきっていた事だったのに、すっかり毎日毎日14日の予定を快斗に言われ続けていた新一はこうして改めて言われるまでまともに考えてすらいなかった。

そして快斗が女の子達にチョコレートを貰っている姿を想像した新一は心の中で、


(…………結構嫌かもしれない……)


なんて思ってしまう。



そこまで想像してきゅっと寄った新一の形の良い眉に快斗は内心でニヤリと笑みを浮かべる。



自分のそれはそれは無自覚で、無自覚で、むじかくーな恋人は自分に向けられる好意には無自覚なくせに快斗に向けられるそれには頗る鋭い。

それ故に街を歩いている時に快斗に向けられる視線だとか、友人達からかけられてくる電話だとか。

自分に向けられる物にはあれ程無自覚なのが信じられないくらい快斗の物には敏感なのだ。

まあ…昔自分が白馬と怒鳴り合いをしていただけで何やら焼きもちを焼いてくれたらしい、という多少見当違いな所もあったりするが、それは快斗にとってみれば唯の嬉しい誤算でしかなく。

とにかく普段の名探偵の彼からは想像も出来ない位の焼きもち屋さんな一面を持っている訳で。

だから今回これを利用しない手はない…と、先程の発言をした訳なのであるが…。





―――ぎゅ。





「ん?」


先程まで快斗の腕の中で暴れていた筈の新一に突然腕をぎゅっと掴まれて快斗は首を傾げる。

…………もちろん意図的に、であるが。


「どうしたの?」

「…………」


相変わらずぎゅっと快斗の腕を掴んだまま、黙って俯いた新一に快斗は内心でくすっと笑って。

新一をぎゅーっと抱き締め耳元で囁く。


「言ってくれなきゃ解んないよ?」

「………うちに居る……」

「ありがとvしんいちvv」


そのまま耳にちゅvっと軽くキスをして。

少し色付いた頬にもキスを落として。

快斗は自分の勝利に内心でほくそ笑んだ。


こうしてバレンタイン前日の攻防は見事なまでの快斗の勝利で幕を下ろしたのだった。







to be continue….

バレンタイン第二弾。え?前『夜』じゃないって?そこはご愛嬌という事でv(オイ)
今回もやはり無自覚、無自覚、無自覚(だから強調し過ぎ)だがしかし、焼きもち屋さんな新ちゃんが書きたかっただけ(爆)
そして明日の14日…果たしてきちんと日付通りにあぷ出来るのか…(ぇ)←どうやらまだ書けてないらしい(爆死)
快斗君の苦労はまだまだ続く予定…(笑)


本番編

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