「今年の俺は一味違う!」
朝っぱらから声高らかに宣言した目の前の恋人に
新一は恋人選びを間違えたかもしれないと本気で頭を抱えたのだった
チョコレート戦争
(まずはお約束を取り付けましょう編)
「何がどう一味違うんだよ…ι」
朝食の席でいきなり声高らかに宣言した快斗に対し新一は思いっきり溜め息を吐いた。
けれど内容を聞いてやる辺りがお隣の科学者に言わせれば『何だかんだ言っても結局はバカップルなのよ』と言われる由縁でもあるのだが。
「よくぞ聞いてくれました!」
新一の言葉に快斗は椅子に座ったまま無意味に胸を張ってそう答えると、まるで教師が生徒に何かを尋ねるかの様に少々もったいぶって新一に質問をする。
「今月の14日は何の日でしょう?♪」
「14日…?」
「そう。14日♪」
何やらルンルンの快斗に対し、新一は一度首を傾げてから顎に手をあてて何時もの推理ポーズで考え始めた。
今日から2月だから快斗が言っているのは2月14日。
(ホームズの誕生日は先月だったし、緋色の研究でホームズとワトソンが出逢ったのは3月だし…)
が、さっぱり解らない。
―――てか、新一さん。見事にホームズばっかですねι(うるせー!by新一)
「何かあったか?」
数十秒間じっくり考えてみてもやっぱり結論は出なくて、そう返せば快斗はズルッと椅子から落ちかけたが何とか持ち直して再び口を開いた。
「何かあったかって新一…ι」
「ん?」
「あるでしょう!?とってとっても大事な日が!!」
先程の宣言よりも大音量で叫ばれ新一は耳を両手で塞ぎ、形の良い眉をきゅっと寄せて不満げに呟く。
「煩い」
「だってぇ…」
「だってじゃねえ」
「……新ちゃんがいじめる〜」
「虐めてねえだろうが」
そう言って新一は身体をテーブルに乗り出し、手を伸ばしてぺしっと軽く快斗の頭を叩く。
まったく…朝っぱらから何でこんなに無意味に気力と体力を使わなければならないのか…。
「だって…俺は先月からずーっと14日の事考えてたのにさ…」
新一ってば何も考えてくれてないんだもん…。
えぐえぐと泣きながら俯いてテーブルの上にのの字まで書いている快斗に新一は本日二度目の大きな溜め息を吐いて。
仕方なくそこから先を聞いてやる事にした。
「で、14日に何があんだよ」
「……タイン……」
「は?」
「バレンタインデーなの!!」
「ああ」
そんな事かと納得した新一に快斗はぷうっと頬を膨らます。
「そんな事なんかじゃないの!!とってもとっても大事なの!!」
大体新一ってば記憶力すんごーく良いくせにどうしてバレンタインデーぐらい覚えてないの!!
「ほーお…。去年までバレンタインデーを知らなかった奴に言われたくねえなあ」
「!?な、何でそれを…」
「中森さんに聞いた」
「………ι」
それ以上何も言えなくなった快斗に新一は満足げに口の端を持ち上げた。
付き合いだした当初に快斗から紹介された快斗の幼馴染の話のよると、この目の前の恋人はつい去年までバレンタインデーを『皆がチョコをくれる日』だと思い込んでいたらしい。
まあ確かに間違ってはいないのだが、そこに籠められている色々な意味を吹っ飛ばしておいしい所だけ理解している辺りがコイツらしいと思う。
その話しを聞いた時、新一は去年までの16年間の間に快斗にチョコレートをあげた女の子達に心底同情したものだった。
まあ……少し安心したのも事実だが。
「で、でも今年の俺は一味違うの!!」
そんな事を少しばかり思い返していれば、どうやら自分を取り戻したらしい快斗の声に新一は成る程と納得する。
それで『今年は』なのか、と。
確かに今年は去年までの様に女の子達からただチョコレートを貰う訳にはいかないだろう。
その中に籠められた意味を知ってしまったのだから。
「まあ頑張れよ」
「……え?」
もてる快斗の事だから大変だろうとそういう意味を籠めて言ったのだが、その言葉に快斗は驚いたような声を上げた。
そんな快斗に新一はいまいち意味が伝わっていなかったのかと再度快斗を励ましてやる。
「今年は違うんだろ?」
「う、うん…」
「だから頑張れって言ってんだよ」
そう言えば快斗はパチパチと数度瞳を瞬かせて。
おずおずと新一にお伺いを立てる。
「良いの…?」
「別に俺に了承取る事じゃねえだろ?」
「そういうもんなのかなあ…?」
「そういうもんだろ」
「そっか♪じゃあ俺頑張るねvv」
「ああ。まあ精々頑張れよ」
「うんvv」
何やら途端にニコニコ顔になった快斗に新一は、そんなに人からの励ましの言葉が嬉しかったのか?と首を傾げて。
けれど、まあ喜んでるんだから良いか、と一人納得をしてまだ残っていたコーヒーをこくっと飲み干した。
が、そこで思いっきり意外な一言を聞く事になる。
「じゃあ14日は新一と朝からデートっとvv」
その瞬間、ガシャンっという音をたてて新一の手からテーブルの上の皿にマグカップが落ちた。
中味を飲み干していたのがせめてもの救いだったのだが。
「新一!大丈夫!?怪我しなかった!?」
「あ、ああ…」
「良かったぁ…」
新一の手と身体をチェックして、何とか割れなかったらしいマグカップを持って心底安堵している快斗を眺めつつ新一は、
(そういう意味だったのかよ!!)
と、一人内心で激しく突っ込んでいた(笑)
「気をつけなきゃ駄目だよ?大事な身体なんだから」
「解った…」
「うん♪宜しい♪」
快斗の言葉に新一は半ば無意識(理解していたら素直に返事をするような言葉ではない物にまで)返事をして、内心に何だかとっても複雑な気持ちを抱えていた。
(今更違ったなんて言えねえ…ι)
先程のそれはそれは嬉しそうな表情を浮かべていた快斗を思い出す。
今更「そういう意味じゃなかった」なんて言って彼の顔を曇らせたくないと思う。
新一だって彼と過ごせるのは嫌ではないから。
(やばっ…///)
そして、その意味を理解した途端に頬に熱が集まってくるのを感じていた。
「新一?」
新一が固まっている間に快斗は「危ないから」と用済みになった食器をさっさと片付けて。
戻ってきた所で何やら複雑な表情を浮かべていた新一に呼びかけた。
「何かあった?」
「別に…」
「ほんと?」
「ん…」
こくんと頷いた新一の顔からは先程の表情は消え去っていて。
代わりにほんの少しだけ頬が桜色になっている。
(あ、もしかして照れてくれてる…?)
その変化に快斗は内心で喜ぶ。
やっぱりこんな所も本当に可愛らしいと思う。
でもそれを敢えて言うような真似はしない。
だってそんな事を言おうものならこの目の前の照れ屋な恋人は直ぐに逃げ出してしまうだろうから。
「それなら良かった。あ、だからね14日は空けといてね?♪」
「……ん…///」
けれどもう少し可愛い彼を見たくて敢えて念を押してみる。
それにもう一度こくんと頷いてくれた彼の頬は先程よりも更に桜色に色付いていて。
そりゃもう今すぐここで押し倒したいぐらいに可愛らしい。
が、……現実とは常に無情である。
「あっ…」
「ん?」
「快斗、時間!」
「あっ…ι」
新一に言われて時計を見れば既に時計は8時10分を指している。
今から学校まで走ってギリギリ間に合うといった時間か。
「ほら、さっさと行けよ」
「で、でもぉ…」
「行かないと14日付き合ってやんねえぞ?」
「うっ…行ってきます……ι」
新一の無情な言葉に快斗は泣く泣く行く準備をして、最後に未だ頬を少し赤らめたまま椅子に座っている新一を振り返る。
こんな可愛い可愛い新一をこのまま放って学校になんて行きたくない!
行きたくないが…それでは14日新一と過ごす事が出来ない訳で……。
「絶対絶対14日付き合ってもらうんだからぁ〜!!」
と、泣き叫びながら工藤邸を後にするのだった。
「ったく…世話が焼ける…」
ガキかアイツは…。
泣き叫びながら出かけて行った快斗に新一は呆れたようにそう呟く。
けれどその頬が熱くなっているのは自分でも解る程。
「……ま、偶には良いか…」
そう言って仕度をする為立ち上がった新一の表情は酷く柔らかいものだった。
to be continue….
バレンタイン第一弾(?)
ひたすらに無自覚、無自覚、無自覚(強調し過ぎ)新ちゃんが書きたかっただけ(爆)
快斗君は宣言通り14日のプランを残り13日間でしっかり頑張って考える事でしょう。
それが実行されるかされないかは置いといて…(ぇ)
でもって、何故にお二人さんの出かける時間が違うかと言えば唯単に距離の問題。
快斗の方が遠いからどうしてもね。
前夜祭編
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