飛び立つように出て行ったお前が
もう二度と帰って来ないのではないかと心配になる
〜a bird in cage(Ver.K)〜
「遅い」
帰ってきた瞬間今まで暗かった筈の部屋の電気が点いて、少しだけ眩しさに目を細めた後不機嫌な顔をして立っている新一をふわりと抱きしめた。
「ごめん」
「遅いんだよこの馬鹿」
「ごめんね」
一体何時から此処で待っていたのかとか用意していった夕食はちゃんと食べたのかとか、心配で聞きたい事は一杯あったけれどそれよりも心配をかけたのは自分だからきちんと謝罪を述べる。
「怪我…してないよな?」
「うん。してないよ」
「……それならいい」
そこまで確認して、やっと背中に回された新一の手の服を通してでも伝わってくる冷たさに快斗は眉を寄せる。
「新一」
「…何だよ」
「また暖房消して待ってたでしょ」
「………」
黙って頷いた新一に内心では溜め息を吐いて、快斗は自分の体温を新一に分け与えるかの様に新一を強く抱きしめる。
どうして外から帰って来た自分よりこの人の方が冷たいのか…。
「お前が…」
「?」
「お前がこんな寒い中に居るのに…」
快斗がこんな寒空の下で仕事をしているのに、自分だけ暖かい部屋の中で待っている事など出来ないのだとそう語る新一に快斗は苦笑する。
まったく…この優しすぎる彼は何時だって周りのことばかり考えて自分の事は考えてくれないのだから。
「でもそれじゃ新一が風邪引いちゃうでしょ?」
「別にいい」
「俺が良くないの」
そう言って抱き締めてくれていた腕を外させて、その冷え切っている華奢な身体を抱き上げる。
「お風呂にしましょうか、お姫様」
「…お前も冷たい」
「はいはい。じゃあ一緒に入ろ?」
一緒に入って暖め合おう?
こくんと頷いた新一の気が変わらないうちにと、さっさと部屋を出てお風呂にお湯を張る為に2階の部屋から1階のバスルームへと向かう。
途中で躊躇いがちに首に回された腕がかなり嬉しい。
新一を一時でも離すのが嫌で、抱え上げたままバスルームの準備をしてお湯が溜まるまでリビングのソファーで待つことにする。
快斗はゆっくりと新一を抱えたままでソファーへと座る。
快斗の膝の上に乗せられる形になった新一が降りようとするのを抱きしめる事で封じて。
「重いだろ。降ろせよ」
「重くないよ。新一ってば軽すぎる」
そういえば夕食は?と尋ねた快斗に新一は緩く首を振る。
「じゃあお風呂から出たら一緒に食べよ?」
「…うん」
頷いて快斗の首から手を外してそれを背に回し、ぽふっと快斗の肩に頭を預けた新一の髪を快斗はそっと梳いて。
さらさらと零れ落ちる漆黒の絹糸に唇を寄せる。
「心配かけてごめんね」
そのせいでしょ?ご飯食べられなかったのは。
「…心配なんかしてない」
ただ単に食欲がなかっただけだ。
「うん。ごめんね」
素直じゃない彼の言葉と、素直過ぎる彼の行動のギャップが可愛くて。
その優しい愛情表現に精一杯の謝罪を述べる。
――どんなに彼を心配させると解っていても止める事は出来ないから。
「………帰って来ないかと思った」
ふと、珍しく素直に言われた新一の言葉に本当の意味を取る事に耐えられなくて快斗はわざと首を傾げた。
「どうして? 俺の帰ってくる場所は此処だけだよ?」
他に帰る場所なんて何処にもないでしょ?
「…俺が言いたい事が解ってんのにそんな的外れな気休め言うな」
「…ごめん」
けれどやっぱりそれも彼の瞳は誤魔化せなくて。
ぎゅっと籠められた腕の力に彼の痛みが混じっているようで。
快斗は堪まらず新一を掻き抱いた。
そして今日も生きて帰って来れた事に心の底から安堵する。
こんな壊れ物の様に優しく儚い彼を独りぼっちにして死ぬ事なんて出来ないから。
「いいよ…お前が帰って来るならそれでいい…」
「うん、帰ってくるよ。新一を独りになんか出来ないからね」
ほんの僅かに潤んでいる新一の目元にそっと唇を寄せて、頬にも唇にもキスをして。
同じように返された口付けに笑みを零す。
「大丈夫。俺は帰ってくるから」
ちゃんと生きて此処に帰ってくるから。
その言葉に少しだけ表情を明るくした新一に快斗は一つの約束を贈る。
「ねえ新一」
「…ん?」
「何時かさ…何時かパンドラが見付かったら…」
パンドラを砕いて、もう二度と俺が夜空を翔る必要なくなったその時は…
「?」
「――夜空を飛ぶ白い鳥じゃなくて、新一だけの『籠の中の黒い鳥』になるから」
「……か…いと…」
大きな瞳を驚愕で更に大きく見開いた新一に快斗はにっこりと笑ってみせる。
「そうすればもう帰ってこないかもしれないなんて心配は必要ないでしょ?」
END.
新一さんが…素直で可愛らしい…。
Ver.Sとの差があり過ぎです…(爆)
何故これをクリスマスイブに持ってきたんだ自分…ι
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