『運命の人』

 そんなの自分には縁のないものだと思っていた

 彼に出会ったあの日までは…








My better half








「どうかしたのか?」


 自分の方をじーっと見詰め一人何やら、ふむふむと納得している快斗に新一は首を傾げ目の前に置かれているコーヒーに手を伸ばしながら尋ねてみた。


「新一って『マイ・ベター・ハーフ』だよなあ、と思って」

「………」


 にっこり微笑んでそう言えば、新一はコーヒーカップを持ったまま固まってしまった。
 そんな新一により一層笑みを深めながら快斗は新一に聞かせる為ではなく、自分が改めてその事を噛み締める為かの様に言葉を続ける。


「他にも『比翼の鳥』とか『連理の枝』とか同じ様な言葉もあるけど、新一はやっぱり『ベター・ハーフ』って感じだよね」


我が善き片羽マイ・ベター・ハーフ

 そんな言葉が目の前のこの人のイメージに、頭の中でまるでパズルのピースの様にピッタリと嵌った。

 最初に『KID』として対峙した時にそう感じた。
 そして『黒羽快斗』として最初に出会った時もそう感じた。

 俺達の善き片羽ベター・ハーフはこの人しか居ない、と。

 だから自分が犯罪者で、彼が探偵だと解っていても手を伸ばした。
 だってこの世でたった一人だけの『運命の人』を見つけてしまったから。


「……快斗」
「ん?」


 一人少しの回想に浸っていれば、どうやらやっと自分を取り戻したらしい新一に名前を呼ばれた。
 隣に座っている彼の顔を覗き込めば、頬は赤く染まっているのに瞳は鋭くこちらを睨み付けていた。


「お前ベター・ハーフの意味を完全に理解した上で言ってるのか…?」
「うん。もっちろん♪」

 善き片割れでしょ?

「………お前その顔は知ってるな?」

 善き片割れは片割れでも…。

「だって新一美人さんだし、ぴったりじゃん♪」

 もうこれ以上ないってぐらいぴったり〜♪


 ご丁寧に語尾に音符マークまでつけてくれた快斗に新一は頭の中でぷちっ、っと何かが切れる音を聞いた。



「だからって何で俺が『妻』扱いされなきゃなんねえんだよ!!!!」



 ベターハーフは確かに『善き片割れ』

 けれど片割れは片割れでも英語では『妻』もしくは『愛妻』の意味で使われる。
 それはつまり女性に使われるものであって…。


「だって〜新一って美人さんな奥さんだし〜vv」

 俺ってばこんな美人な奥さん貰えるなんて幸せだよねvvv

「俺がいつお前の奥さんになったんだよ!!」

 俺はお前に貰われた覚えはない!!!


 ふるふると怒りで震えている新一の肩をにっこりと微笑んだままそっと引き寄せて。
 どさくさに紛れて額に一つキスを落とす。


「いいじゃんv俺は新一に一番ぴったりな言葉だと思うんだもんvv」

 これからも俺のベター・ハーフでいてねvv

「勝手に思うんじゃねえ!!」

 だから俺はお前のベター・ハーフになった覚えはねえって言ってんだろ!!!


 ぜえぜえと息をきらしながらも懸命に否定し続ける可愛らしい新一に、快斗はこみ上げてくる笑いを何とか噛み殺しながらぎゅーと新一を抱き締めた。


「いいのv 新一は俺の奥さんなんだからv」
「……ちょっと待て。…それはお前の方じゃないのか?」
「へ?」


 満面の笑みで新一をぎゅうぎゅうと抱きしめていた快斗は新一のその一言に首を傾げた。
 そんな快斗にぶすっとしたまま、それでも新一は奥さんの定義を淡々と語っていく。


「うちで料理をしてるのは誰だ?」
「俺だけど?」
「うちで洗濯をしてるのは誰だ?」
「……俺です」
「うちで掃除をしてるのは誰だ?」
「…………俺です…ι」


 快斗の回答に満足した新一は、快斗に最後とばかりににっこりと微笑んで


「じゃあベターハーフはお前だよな?」


 と、悠然と言ってみせた。

 が、しかし……、


「それって『善き片割れ』なのは認めてくれてるってことだよね?♪」
「あ………っ…///」



 ―――墓穴(爆)



 真っ赤になって固まってしまった新一を快斗はしっかりと抱きしめて、声高らかに宣言したのだった。


「解ったv俺はこれからも新一のベターハーフでいるからねvv」










END.


better halfの響きが好きv


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