――かぷっ。
噛み付かれた方は呆気にとられ固まった。
〜痕〜
「…?」
本をキリの良い所まで読んで顔を上げれば隣に座っている快斗の首元に小さな赤い痕がある事に気付いた。
それに新一はことんと首を傾げる。
そんな所に自分はそんな物をつけた覚えはないし、かといって昨日の快斗は仕事の下見等で忙しかったから自分に隠れて誰かとそんな事を出来たとも考え難い。
一番可能性が高いのは寝ている間に何かで被れたとか、何かにぶつけたとかそういう類の物だろう。
「どうしたの?」
新一が首を傾げて何やら考えているのに気付いたのか、快斗はきゅっきゅっと磨いていたモノクルをテーブルに置き新一と同じ様に首を傾げた。
「首」
「……首?」
「痕」
「………しんいちぃ…単語じゃなくて文章で喋ってよι」
さっぱり解らないと悩んでしまった快斗に新一はおや?っと不思議に思う。
何時もだったらこれで解ってくれるのに。
………もしかしたら本人は気付いていないのかもしれない。
「鏡見て来いよ」
「鏡? 何で?」
「いいから」
新一はそう言ってぐいっと快斗の背中を押してソファーから追い出した。
追い出された方の快斗は仕方なく言われた通り鏡を見るべく洗面所へと向かう。
「何だよこれ!!!」
「………やっぱり気付いてなかったか」
暫くして洗面所から聞こえた快斗の叫び声に自分の推理が間違っていなかった事が解って。
満足した新一は再び本の世界へ戻るべく視線を落としたのだが…。
「しんいちぃ!!誤解だからね!!俺は浮気なんてしてない!!!」
急いで自分の所に戻って来て、聞いてもいないのに泣きそうになりながら必死に弁解をしてくる快斗によって邪魔されてしまう。
その事に、はぁ…っと溜め息を吐けば何をどう勘違いしたのか快斗は更に慌てた様子になる。
「ほんとに違うんだってば!! 俺は無実なの!!」
多分何かで被れただけなんだよ!!と一生懸命に弁明を続ける快斗を新一は無言で、ぐいっと引っ張って再び隣へと座らせる。
「し…しんいち…?」
新一の行動の意図が掴めずに混乱している快斗に新一はにっこりと微笑んでやって。
首に出来ている例の痕にかぷっと噛み付いた。
「えっ…?!」
余りにも意外過ぎる新一の行動にやられた方の快斗は驚きの余り固まってしまう。
しかしやった新一の方はというと快斗の首から唇を離して自分が付けた痕が残ったのを確認すると、これでやっと静かに本が読めると再び視線を本へと落として本の世界へと入ってしまう。
「…………どういう意味?」
「………」
てっきり首の痕の事で怒っていると思っていた恋人にその上からかぷっと噛み付かれて。
さっぱり解らない快斗は顔中に?マークを浮かべてしまう。
けれどその答えは答えられる唯一の人物からは返ってこなくて。
読書中の新一の邪魔をするのは(怖いので)憚られたのだが、今日ばかりはそうも言っていられないと思って意を決して新一の手から本を取り上げてしまう。
「…何だよ」
案の定不機嫌になった新一に冷や汗を流しながらも、此処まで来たらと覚悟を決めて尋ねた。
「さっきのどういう意味?」
「さっきの?」
「……噛み付いたじゃん」
「ああ、あれか」
あっさりと忘れ去っていてくれた恋人にがっくりと肩を落としながらもそう言えば、あれの事かとまるで他人事の様に言われた。
けれどここでめげていては無自覚で有名な工藤新一の恋人なんてやっていられない。
快斗は再度新一に同じ事を尋ねる。
「…どういう意味?」
「…愛情表現?」
「いや…疑問系で言われてもι」
言ってくれてる事は非常に嬉しいんですが…。
疑問系に疑問系で答えてくれた新一に快斗も困ってしまう。
だって答えを知ってるのは新一でしかありえないのだから。
「……何か見たら噛み付きたくなった」
困っている快斗に新一はふとそれだけ言うと再び手を本へと伸ばそうとする。
が、その言葉に快斗が反応しない訳がない。
新一が本へ手を伸ばしきる前にその手を遮って更に問う。
「それって無意識…?」
「無意識っていうか…」
新一は、んー…と少し考えてそれから再び口を開いた。
「お前の首に俺が付けた以外の痕が付いてるのが嫌だったから」
「……///」
さらっとやはり無自覚に殺し文句を言って、これで説明は終わったとばかりに新一は遮られていた手をもう一度伸ばし本を手に取って再び本の世界へと戻っていった。
その隣には真っ赤になってしまった快斗が固まっていたりするのだが、その事態を引き起こした当の本人はそれに気付く事はない。
「…新一ってば…ほんと…」
天然殺し文句の天才…///
小さく呟いた言葉は新一に届く事無く、後に残されたのは真っ赤になった快斗と、その首に残された赤い痕だけ。
END.
今更ですが、うちの新一さんは快斗大好きです(笑)
めちゃめちゃベタ惚れvvback