〜ある日の快斗くん〜










「ふっ〜ふ〜ん♪」

 鼻歌交じりに学校から快斗は帰宅した。

 帰宅したといってもそこは自分の自宅ではなく、一週間前晴れて恋人同士になった新一の自宅。
 付き合い出したのをいい事に同棲(居候だ!by新一)をしているのだった。






「お帰り快斗」


 そんな上機嫌の快斗を新一がわざわざ玄関まで迎えに来てくれるのだから機嫌もより一層良くなって思わず新一を抱きしめる。


「ただいま新一vv」
「…か、快斗///」

 恥ずかしがってるけど嫌がってないとこが可愛いんだよね〜vv


 あまりに可愛いからそのままおでこにキスを落とす。


「新一ってホント可愛いよね〜vvv」
「快斗!!」


 しれっとそんな事を言ってさっさとリビングの方に行ってしまう快斗に新一は盛大にため息をつく。


(なんで俺こんな奴好きになったかなぁ…)


 やっぱりKIDのままで居させれば良かったか…などと快斗が聞いたら号泣しそうな事を思いつつ、快斗の後を追ってリビングへと入ったのだった。






「で、なんでそんなにご機嫌なんだよ」


 帰ってくるなり、なにやらゲーム機をセットしだした快斗に新一は嫌な予感を覚える。


「ん〜?これ借りたから♪」


 と快斗が鞄から取り出したのは…昔懐かしの名作『ドラ○エV』のスー○ァミ版だった(爆)
 しかも本体までしっかり準備してきている。


「…………何で今頃…?」


 ゲーム好きとは決して言えない新一だが昔、同級生が話をしていたのを聞いた事はあった。
 …が、それが発売されたのはかーなり前のはずだ。


「ん? いや〜あの頃忙しくてさぁ…」


 忙しい…ちょっと待て…発売されたあの頃は俺達はまだ子供だろ…。
 まあ、まだ成人した訳ではないから、少なくとも大人とは言えないけれど…。


「いったいそんな頃からお前は何やってたんだ…」


 思わず溜め息と共にそんな言葉が漏れてしまう。


「あ〜新一酷いよぅ〜。俺はただその頃は一生懸命手品の練習してただけなんだよ?」


 うるうると涙目で見つめられ新一は思わず、


(なんで高校生の男子の分際でそんな表情が似合うんだ…。ちょっと可愛いじゃねぇか…)


 などと思ってしまう。

 これも惚れた弱みというか…恋人の贔屓目というか…。
 調子に乗ってしょっちゅうやられても困るので決して本人には言わないが。


「わぁった、わぁった。で、何で今それなんだ?」
「折角だからねvv」


 何が折角なのかさっぱり解らないが本人が楽しそうなので良しとしよう。


「快斗。コーヒー飲むか?」
「うん」
「やっぱりいつもの分量なのか?」
「うん♪」
「………解った…待ってろ…」


 そう言うと新一はげっそりとした顔でキッチンへと入っていく。

 付き合って知ったのだが、快斗の甘い物好きは半端ではない。
 朝からショートケーキをホールで食べ、三時のおやつのにはチョコレートケーキをホールで、
 夕食後のデザートにはぷっちんプリンを六個という夥しい数を消費した経歴がある。

 そして、その快斗が好んで飲むコーヒーはすでにコーヒーとは呼べない代物で。
 なにしろコーヒーがカップの5分の2に対しミルクが5分の3、そこに砂糖が5杯という異常な量なのだ。
 コーヒーにミルクを入れているというより、ミルクにコーヒーを入れていると言った方が正しいだろう。
 新一などこのコーヒーもどきを見ただけで気持が悪くなってしまうのだが快斗が美味しそうに飲むのだからしょうがないと半ば諦めているのだった。






 出来上がった自分のコーヒーと快斗のコーヒーもどきを持ってリビングに戻ると快斗が何やら難しそうな顔をして悩んでいた。


「はい、快斗コーヒー(もどきby新一)」
「ん、サンキュ♪」
「で、いったい何を悩んでたんだ?」
「新一の職業」
「は?」
「だから、新一の職業」


 快斗は何やら説明書を見ながらうんうんと、唸っている。


「職業ったって、俺は学生だぞ」
「いや…そうじゃなくて…」
「??」


 さっぱり話しについていけない新一をしり目に快斗はどんどんと自分の思考に耽っていく。


「…やっぱ最終的には新一は賢者だろ…っとすると…やっぱここは最初は僧侶かねぇ…」


 魔法使いは紅子だしなぁ…、と快斗は呟く。


「なぁ…快斗…」
「ん?何??」
「お前もしかしなくてもキャラクターに俺の名前付ける気か…?」
「もちろんvvちなみに勇者は快斗君ね♪」
「……………」


(こいつやっぱり本物の馬鹿か?絶対IQ400あるなんて嘘だろ…)


 最近の小学生でも自分の名前をキャラクターに付ける事などしないだろうに。
 あろう事か高校二年生の彼が自分の名前を付けようとしているのだ…。

 しかも、勇者に……。

 こいつは児童そのものだな、と新一が確信した瞬間だった。






「快斗…」
「何?」


 相変わらず名前をまだ決め兼ねているキャラクターがいるらしく快斗はまだ悩んでいた。


「お前…いや、いい。好きにしろ」


 そういうと新一は書斎の方に引き上げてしまう。もう付き合っていられないとの判断の末だった。


「あれ? 新一? 何処行くの?」
「書斎」
「え〜。本ならここで読めばいいじゃん」
「いい…。一人でやってろ…」
「新一ってば〜」


 冷たいわ〜、なんて嘆く快斗はほっぽって、書斎に入ると新一は早速読書に勤しんだ。






 が…しばらく静かだったリビングの方から快斗の叫びが次々と聞こえてくる。


「あ、駄目〜。新一は俺が守るの〜」
「ったく、紅子の奴MPがなくなってやがる…宿屋行かねぇとなぁ…」
「くぅ〜、早く新一賢者に転職させて二人だけで旅に出たい〜!!」


 …………等など…。


 極めつけが、


「新一は俺のなんだからな!!横からちゃちゃ入れてくんじゃねぇ〜!!!」


 …だった。

 流石にそれ以上聞いているのも嫌になったので快斗を止めにリビングへ向かう。






「快斗…」
「えっ? あ、ごめん煩かった?」


 …非常に今更である。


「没収」
「へっ? …あ〜〜〜!!!」


 その瞬間、新一は見事にコードを抜き去った。
 後に残ったのは呆然と固まってしまった快斗だけだった。






「新一ってばなんでコード抜くかなぁ…」


 リビングの端のほうで、『の』の字を書きながら快斗はいじけていた。


「てめぇが変な名前付けるからだ」


 きっぱりとそう言い切ると、新一はゲームを片づけにかかった。
 しかし、ふとある事を思い付いて新一の手は止まる。
 次の瞬間、新一の手によってゲーム機が再びセットされていく。


「新一?」


 新一の行動の意図を計り兼ねている快斗が呼びかけても一切応答がない。
 よっぽどさっきので機嫌損ねちゃったかなぁ、なんていじけている快斗に次の瞬間思いがけない言葉がかけられた。





「これしばらく借りるぞ」




 …はい? 今新一君何とおっしゃいました…?


「聞いてるのか? これはしばらく俺が借りる」


 そう言うと説明書を読みつつふむふむ、と何やら納得している新一の様子に快斗は目を疑った。


(あの新一がテレビゲーム!?)


 …コントローラーを握る姿がこれほど似合わない人も珍しいだろう。
 けれどそれがどこか可愛げで快斗は思わず見惚れてしまう。


「快斗、飯」
「…はい」

 が、それもつかの間。

 普段新一から食事の事を切り出すなどめったになく、これを逃すと暫く食事をしてくれなくなりそうなので、さっさと用意にかかる。
 キッチンに向かった快斗を確認すると新一は『天使の微笑み』ならぬ『悪魔の微笑み』を浮かべ、作戦を実行に移すのだった。






「新一〜。御飯できたよ〜」
「ん。ちょっと待って、セーブするから」

 あの名探偵から『セーブするから』なんて言葉が聞けるとは思わなかった…。


 人も変われば変わるもんなんだなぁ…、と妙に快斗が感心しているとどうやらセーブし終わったらしい新一が食卓の椅子に座った。



「じゃぁ、いただきます」
「いただきます」


 目の前で手を合わせてそういう新一も可愛いよなぁvvっと思わず魅入ってしまう。


「何かついてるか?」
「ううん、可愛いなぁ、と思ってvv」
「言ってろ…」


 そんないつもと同じ会話をしながらの楽しい食事を終え、いつもなら新一は書斎に戻るのだが、


「さて…続きしよ」
「へっ…?」


 なんとそのままド○クエに直行したのである。


(あれ…新一ってゲームとか興味無いはずじゃなかったのか?…それともやってみて興味沸いたのかな…)


 などと快斗が物珍しそうに新一を見ていたのに気付いたのか、新一は快斗の方を振り返る。
 そこに浮かんでいた笑みは先程快斗に見られないように浮かべていた『悪魔の笑み』そのもので。


「…し、新一?」
「〜♪」


 音程がいつも以上にずれているが珍しく鼻歌なんか歌いながらゲームのスイッチをつける新一に快斗はなぜか背筋に悪寒を覚えた。






 そして画面上に映ったパーティー。
 勇者が何故かキッドで(笑)その後ろに武道家のラン、僧侶のアイ、そしてその後ろには………。




 『遊び人………カイト』の文字が…。




「新一…それがしたかったのね…」
「だって一番ぴったりじゃん♪」


 そう嬉しそうに新一は振り返る。

 先程浮かべた極上の『悪魔の笑み』そのもので。
 その光景を見た瞬間快斗はもう二度とキャラクターに自分の周りの人の名前をつけるのは止めようと心に誓ったのだった。










実はこれ…実話が元になってます(爆)
友人宅に遊びに行くと、ドラク○Vをやっている友人。
画面を覗きこめば勇者が「カイト」賢者が「シンイチ」…(笑)
しかも2人っきりでの冒険。
我が友ながら流石と思いました(笑)
しかし、哀ちゃんにぴったりのキャラが居なくて悩みました。
文中では僧侶にしてますが、やっぱり彼女はドクターですね(苦笑)
う〜ん。難しい…。

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