「……ずるい」
「え?」

 マイナスになった距離を名残惜しくもゼロに戻し、呼吸が乱れている新一の髪を優しく撫でる快斗。
 その穏やかで大人びた表情に、新一は少し不貞腐れたような表情をして呟いた。


「…いつも快斗ばっかり余裕あってずるい…」


 さっきまでとはまた別の意味で頬を赤く染めそんな事を言う新一に、快斗は益々愛しそうにその身体を抱き締める。

「くすっ…そんな事ないよ?」
「…うそだ」
「そう言うけどさ…新一のことに関して、オレに余裕なんてないよ? ……ほら」

 そう言って身体を離すと、新一の手を取り自分の心臓へと導いた…。



  とくんとくんとくん…



「……///」


 手のひらから感じる──早い鼓動。

 それはいつしか新一の鼓動と重なって…


「ね? オレも余裕なんてないって…解ってくれた?」
「…うん…///」
「いつも情けないな〜…とか思ってるンだよ、オレ」
「え…?」
「普段はポーカーフェイスを気取っていられるのにさ? 新一のことになると全然駄目なんだ」

 苦笑混じりに呟いた快斗。
 そんな快斗に、新一が不思議そうな表情を見せると、

「──新一の前では装う事なんて出来ないんだ…」

と、呟く。

 その表情は何処か苦しそうで…


「快斗…?」
「新一の前だけじゃない。誰かの口から新一の名前が出るだけで…」
「………」
「…凄く、独占欲を持ってる自分に気付くんだ」

 独白するように自分の思いを話す快斗に、新一は戸惑った表情を浮かべる。


 だって…、今まで1度も…



「…そんな風には見えない」
「そりゃ、新一に嫌われたくないからね。必死で押さえてるんだよ」
「……なんで、押さえるんだ…?」
「そりゃ…、醜い感情じゃん? こーゆうのってさ」

 再び不思議そうな表情を浮かべて問う新一。
 それに快斗が躊躇いながら返事をした。

 すると…


「醜くなんかねぇよ!」


 新一はそれまでの雰囲気も何もかも、全てを忘れて声を荒げた。



 周囲の人々が何事かと振り返る…


 それでも新一は気にする事無く快斗を見上げたまま首を振り、

「醜くなんかねぇよ…っ! オレだって…」

と、言い…そこで俯いた。


「新一…?」

 新一のらしくない様相に困ったように声をかける快斗。


「オレだって……いつも、嫉妬してる…」


「新一…」
「お前はオレと違って、いつも周りに人が溢れてる」
「………」
「快斗が笑顔を向ける相手全員に……嫉妬する」


 思いもよらなかったその言葉に、困惑から立ち直った快斗が笑みを浮かべる。

 だってこれは、新一からの告白。
 滅多に甘えてくれない、素直になってくれない新一の心の声──


「でもそれが作り物なのは、新一が一番よく解ってるでしょ?」


 オレが本当に、心から微笑むのは新一にだけ、だから…


「それでも…、それでもオレは…」
「…新一が気にする事ないんだよ?」
「………」

 尚も言い募ろうとする新一に、快斗はそっと離れていた距離を引き寄せた。

「それに、新一はオレと違うって言うけど、新一だって…」
「…オレだって?」
「新一の周りにだって人は溢れてるでしょ? それこそオレなんかよりよっぽど」

 再び腕の中に閉じ込めた愛しい人を習って、快斗も普段は閉じ込めていた心の声を口にする。

「……オレの周りに…?」
「新一が気付いてないだけで、一杯いるんだよ」
「…?」

 にっこりと…新一を安心させる笑みを浮かべる。
 そんな快斗の言葉と笑顔に、普段から自覚のない新一はまたも不思議そうに首を傾げる。


「──新一は、人を惹きつける瞳を持ってる。それに…善悪の制限なく、人は惹き付けられる…」


 街中でただすれ違う人。

 さっきまで顔を合わせていた警察関係者。

 彼に罪を暴かれた犯罪者。



 …振り向きざまの蒼い瞳に居抜かれた──怪盗。



 街中ですれ違った人は必ず1度は振り返る。
 悠然と立ち振舞うその姿に、見慣れている筈の者ですら見惚れる。
 自分の犯した罪を暴かれ、罵倒し逆恨みしてもおかしくない犯罪者ですら、彼の前では大人しくその罪を認めてしまう。


 意に添わない事を言ってまで、自分の存在を彼に刻み付け様とするほどに…



 彼の名探偵は、万人を惹きつける──




「…それは快斗の方だ」

「え?」

 快斗の言葉にゆっくりと首を振り反論する新一。


「お前のその瞳は、いつだって振り返る事なく真っ直ぐ前を見つめてる。いつだって強い輝きを放ち続けてる…」


 周囲を守る為に自分1人が罪を背負って…
 全てを偽りながら、闇に墜ちる事無く戦って…

 真っ白な戦闘服に身を包み、1人勇敢に立ち向かうその姿は……眩いほどに光を放っている。



「………」
「……な、なんだよ…」

 そう言って口を閉ざした新一を茫然と見つめる快斗。
 そんな快斗に、新一は居心地が悪そうに目を泳がせる。

「いや…、なにって言うか…」


 まさか新一が、自分をそんな風に見ているとは思いもしなかった。

 そんな風に…想ってくれているとは思わなかった…


「…オレ、愛されてるなあ…と思って///」
「……今更気付いてんじゃねえよ…///」

 珍しく顔を赤くしながら言う快斗に、連鎖反応のように自分も顔を赤くしつつ、それでもしっかりと言い切る新一。


 それは相変わらずのオレ様口調だけれど…

「オレも。新一のこと愛してるよv」
「…ばぁろ///」

 思いっきり照れながら悪態を付く新一。
 そんな新一をくすくすと笑いながら、

「──それじゃ、そろそろホテルの行こうか」

と、言って腕の中から解放する。

「ああ…、腹減った」
「途中で食材買わなきゃね! 何食べたい?」

 途端に冷えた身体が温もりを求めそうになる。
 そんな自分に内心苦笑しつつ、新一は誤魔化すように口を開く。

「…さかな?」
「し、しんいち〜!(泣)」
「冗談だよ、ほら行くぞ」

 本気で慌てている快斗にくすりと笑みを零し、ホテルの方向へと身体を向ける。
 ホテルの名前は聞いていないが、この地で予約する処は1つしかないから……新一は迷う事無くその方角へと足を進めた…。



「ホテルに行ったらプレゼント上げるからねv」
「オレは…」
「新一自身で良いよ♪」←即答。
「…お前なぁ; ま、いーけど」
「え?!」
「でも、プレゼントは別にあるからな? ──家に、だけど」
「え、え、え…?」←混乱。
「何だよ…、オレがプレゼント用意してたらいけないのかよ」
「ち、違うって! その事もびっくりだけど、それより…」
「んじゃ、『ホテルで…』ってのもなしで良いか」
「駄目っ!」

「……ほら。だったらさっさと行こうぜ?」


 そう言って、新一は快斗に右手を差し出した…。







【桜月様後書き】

【好評の(…)言い訳のお時間デス】

 「銀翼」祭り、快新編(笑)
 『KOA』クリスマス集中連載でお届けしたブツの大幅(笑)加筆修正版デス♪

 これはお馴染み(笑)由梨香サンとのメールでセリフのみのやり取りを交わして…
 それに桜月が行動ロールやらを付け足したモノです。
 だから桜月のモノにしてはいつもより120%糖分高め(笑)
 書きながら砂やら砂糖やらザラメやら…周囲にはバケツの山、山、山…;
 これもひとえに由梨香マジックです!(爆)

『Zusammenkunft』=『待ち合わせ』




【薫月コメント】
うきゃぁ〜vv甘々〜vvvv
当分高めで最初から最後まで、薫月もしっかりたっぷり(…)ザラメ吐かせて頂きましたvv(笑)
んふふ〜vもうぐふぐふよ〜♪
こんな素敵ブツ貰っちゃって良いのかしら〜♪メールしてて良かったわv(ぇ?そこ?)
お言葉に甘えて強奪v(妖笑)もう笑いが止まりませんわv
雪花姉〜ありがとぉ〜♪♪
(でも由梨香マジックではなく雪花姉マジックです!・力説)


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