ずっと抱き締めてやりたかったんだ
独り孤高に立ち続けるその肩を
〜Promise〜
「そんな格好では風邪を引きますよ?」
ふわりと目の前を過ぎった真っ白なマントに視界を遮られ、次の瞬間には温かい温もりに包み込まれていた。
「うるせーよ。お前に言われたくねえ」
急に高くなった視線に一瞬遅れて自分が彼の腕に抱き上げられているのだと悟ったコナンは不機嫌になる。
こんな時は特に思う。
自分は何と小さく非力な子供なのかと。
「こう見えてもこれはこれで結構暖かいんですよ?」
にっこりと笑顔を浮かべて包み込んでくれる真っ白な腕は温かくて逞しくて。
元に戻った自分でも張り合えないのは解っているから余計に悔しさが増す。
「だったら夏はさぞかし暑いんだろうな」
不機嫌なまま言い放った言葉にすら目の前の怪盗はにこやかに笑い返すだけで。
何だか自分だけが子供の様で……こんな事では嫌なのに、対等でありたいのに何時でもこんな関係で。
包み込んでくれるその腕が酷く残酷な温かさを伝えてくる。
「……降ろせよ」
そんな彼の優しさと温もりから逃れたくて、KIDの腕の中ぼそっと呟く。
とりあえずこの腕から優しい温かさから逃れたかった。
でなければ余計に子供っぽい自分を曝してしまいそうだったから。
「私に抱き締められるのはお嫌ですか?」
「そうじゃねえけど……」
言葉を濁し、腕の中で顔を隠すかのように俯いたコナンにKIDは苦笑してそのままコナンの要求通りにその身体を冷たいアスファルトの上へと降ろした。
「これで宜しいですか?」
「ん…」
頷くコナンにKIDは膝を折り、その目線の高さを合わせてくる。
それは極々自然に行われる動作。
けれどそれすら今のコナンには歯痒くて…。
「いい…」
「え?」
「合わせなくていい…」
自分に合わせてそんな事をしなくても良いのだと。
そんな風に自分と彼の対格差を顕著に見せ付けられたくは無いのだと。
視線を逸らし俯くコナンにKIDは彼が何を言おうとしたのか理解したらしく、苦笑を浮かべる。
「名探偵。これは合わせているんじゃありませんよ?」
「だったら何だって言うんだよ」
「貴方のお顔を良く拝見したいだけなんです」
貴方の綺麗なその瞳をもっと良く見たいから、だからこうするだけなんですよ?
これは唯の私の我が侭なんです。
だからそんな風に俯かないで頂けませんか? 折角の綺麗な瞳が見られませんから。
「………気障」
KIDの台詞に嫌そうにそう言いながらも再び上げられたコナンの顔には笑みが浮かんでいて。
そのコナンの綺麗な笑みにKIDも微笑む。
「お気に召しましたか?」
何ならこの台詞録音しておきましょうか?
「いらねえよ…」
誰が二度も聞くか。
そんな風にくすくすとお互いに笑いあって。
コナンの機嫌が浮上した事に安心したKIDはそっとコナンを抱き寄せる。
抱き締め抱き締められて伝わってくるのはお互いの温もり。
それは冷たくなった身体にも日々の疲れで疲弊した心にも染み込んでくる。
そしてその温かさに目を細め、コナンはその温もりと共にずっとずっと仕舞いこんでいた本音をKIDに伝える。
「いつか…」
「?」
「何時か俺が元に戻ったらさ……抱き締めてやるよ。俺がお前を」
「名探偵…」
ずっとずっと抱き締めてもらうばかりで。
それじゃ足りないのだとずっと思っていて。
ずっとずっとこの孤高の存在を抱き締めてやりたかった。
けれど今の身体では充分に抱き締めてやる事も叶わなくて。
彼の力になってやる事が出来なくて。
だから誓った。
早く元の姿に戻って、一番に彼を抱き締めてやるのだと。
「だから待ってろ」
「解りました」
コナンの言葉にKIDは静かに頷いた。
それは深夜の屋上で静かに交わされた2人だけの約束。
そしてその約束が叶う日はそう遠くない未来……。
END.
映画サイトに踊らされて薫月にしては珍しく(…)Kコで逝ってみましたvv
コナンさん♪コナンさん〜♪(大分あの煽り文句にやられてるらしい)
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