主としてロマン派時代のピアノのための性格小曲。
 静かな夜の気分をあらわす抒情的なもの。
 創始者は一九世紀の作曲家フィールドといわれ、ショパンが多くの名曲を残した…。


  日本名──夜想曲。




  Nocturne




 静かに響くピアノの音色…

 この時間は無人であるべき場所から聴こえてきた旋律に、今宵も一仕事を終え空中散歩と洒落込んでいたキッドは、気になった好奇心を押さえる事無くその建物へと降り立った。
 この姿で態々人がいると解っている処に赴くなど…本来ならば誉められた行為ではない。
 もう今までに何度…大義名分を掲げて避け続けたか。
 それでも惹かれる心は押さえる事が出来ず…

「別に、もう今更…ってカンジだしね♪」

 自分に対して言い訳をすることは無い。むしろしても無駄なのだ。

 降り立ったその場で白衣の怪盗から極々ありふれた少年へとその姿を変える。
 それは万が一にでも、予測していた人物ではなかった時の為。

 しかし本音は……本当の姿で『彼』に会いたかっただけ、なのかもしれない。

「さぁてと、麗しき蒼の姫君のお姿を拝見させて頂きましょうか?」

 立ち寄らせる原因となったピアノの旋律に違和感を感じる部分もあるのだが…
 キッド──快斗の中で、この場所にいるであろう人物は1人だけ。

 …その場所が今の『彼』のフィールドであるなら尚更…





 ──開いていた窓から入り込んだ風。
 緩やかに踊るカーテンの隙間から、天空で輝く月明かりが零れる。

 就寝から1時間。
 その眩いほどの輝きに、今だ眠りについていなかったコナンはそっとその身を起こした。


 何処からそんな話になったのか解らないが、今日はコナンの通うクラスの親睦会。
 数ヶ月前の『学級会』で、

 夜の学校を探索して、そのまま教室でお泊まり会をしよう!

と、誰かが提案していたのを微かに覚えている。

 その日、コナンは前日に例の如く夜更かし(読書)をしていて…まともに参加していなかったのだ。
 ちなみにその計画(?)の立案者が少年探偵団であった事は言うまでも無い…;

 意外な事に許可され実行されている『親睦会』。
 勿論、担任教師の引率(?)付きなので、たいした冒険も事件も起こらず…

 …こうして、午後10時には就寝を言い渡されていた。

 小学生には「夜更かし」と言える就寝時間。
 しかしコナンにとってはまだまだ目の冴えている時間であり…

「………」

 数秒の思案の後で立ち上がり、コナンはそのまま静かに教室を出て行く。


 その気配を、隣でコナンに背を向けて寝ていた哀がそっと伺っていた…。



 教室を抜け出したところで目的がある訳でもなく。
 コナンは既に知り尽くしている校内を適当に歩き…やがて1つの教室の前で立ち止まる。

「…そーいや、当分弾いてなかったな…」

 小さく呟きを漏らし、軽く頷くと迷う事無くその教室に入っていく。

 その場所は音楽室。
 小学校の授業では、自分達の教室で授業を行うのがセオリーで、高学年になるまではこうして音楽室に訪れる事は無い。

「ちょっと位だったら、大丈夫だよな…? 防音も、それなりに効いてるみたいだし」

 黒板の前に置かれているグランドピアノ。
 小学校の音楽室にしては少々高価な種類のソレを、コナンは馴れた手つきで扱い…奏でる為の準備をする。

 音楽が苦手とされているコナン──新一だが、実際は「音楽が苦手」なのではなく「歌が苦手」なだけ。
 「音楽」関心を持たないせいか、人よりは少々疎いところがあるのは事実だが…

 …それでも、決して「音楽」が出来ない訳ではなく──


「やっぱ、この身体じゃ無理があるよなぁ…」

 工藤邸の一室にも、立派なグランドピアノが置かれていて…新一の時は最低でも1日に1度は触るようにしていた。

 …小さな身体になってから自然と離れていたピアノ。

 工藤邸に入る事が出来ない事や、居候先の毛利家にピアノが無いことも原因だが…一番の原因はやはりその身長。
 小さな身体では足が浮いてしまい…満足な音は出せない。

「…ま、1曲くらいならいいだろ。どーせブランクで指もたいして動かないだろうし」

 そう言って自分を納得させると、コナンは椅子の高さの調節を始めた…




 ──校舎内に入った途端聴こえなくなってしまった旋律に、屋上で耳にした位置から場所を特定した快斗。
 静かに、足音を立てる事無く廊下を進み…やがて立ち止まる。

 耳を澄ませば、僅かに漏れ聴こえるメロディー。

 快斗は気配を殺したまま、廊下に面した窓からそっと中を伺い見る。
 教室にいたのはやはり快斗が求めていた人物で…

「(ピアノ…弾けるンだな)」

 『工藤 新一は音楽が苦手』というのはそれなりに有名である。
 当然、今はコナンとなっているその姿でも、それは変わらない筈なのだが…
 …快斗は訝しげな表情を見せる事無く納得し、

「(…まあ、絶対音感を持ってるヤツが、『苦手』な訳ねぇよな)」

と、満足げな笑みを浮かべた。


 コナンとの衝撃的な邂逅を交わした後、その存在が気になった快斗──キッドは、警察無線で傍受した「江戸川 コナン」という人物について徹底的に調べ尽くした。

 そして彼が、過去に唯一自分を追い詰めたあの探偵である事を知り……彼が「コナン」として関わった全ての事件を把握した。

 大阪から服部 平次がやって来た時、ほんの僅かな時間だが元の姿に戻った事も、音楽が苦手であるくせに、奏でられてピアノの旋律を間違う事無く聴き取れる音感を持っている事も知っていた。

 …だから、彼がこの曲を弾いているのも…解らなくはなかった。


 Sonae fur klavier Nr.14 “Mondschein”op.27-2


                 ──ピアノソナタ 第14番  「月光」 第1楽章──






【MIDIは『ノクターン』様よりお借りしております。】



んふふ〜Vv弾けるのねコナンさん♪素敵…選曲が☆←そこか!!
にしても、夜の学校で月光を奏でるコナンさん…それを覗き見(…)するKID様…素敵過ぎます!!(興奮気味)
そりゃもうコナンさんは某誰かさんを意識して………ごほごほ…(逃)
それにしても、これを貰った約30分後のコナンで次回予告を見た時は驚愕しましたよ…。(貰ったのは9月15日のコナンの前・笑)
雪花姉…やっぱり予知能力あったのね…(違)
と、言う訳(?)で後編も楽しみにまってますわ☆

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