小さい頃、本当に小さい頃
約束したあの誓いは
今も俺の胸の中にあるよ?
――小指と小指の約束――
『おれおっきくなったらしんちゃんとけっこんするーv』
『じゃあかいちゃんはおれのおよめさん♪』
『だーめvしんちゃんがおれのおよめさんなの〜♪』
それは遥か昔の約束。
『むぅ…じゃあかいちゃんはなに?』
『おれはしんちゃんのおむこさんv』
『おむこさん?』
『そう、おむこさん。だからしんちゃんがおよめさんになってくれたら、おれたちずっといっしょにいられるよ?』
『じゃあおれかいちゃんのおよめさんになる〜♪』
きっともう彼は忘れているかもしれないけれど。
『じゃあやくそく。ゆーびきりげんまん』
『うそついたらはりせんぼんの〜ます♪』
『『ゆびきった♪』』
『これでずっといっしょだよ?』
『うん♪ずっといっしょだね♪』
それでも俺にとっては今も一番大切な誓い。
一目見て解った。
あの澄み切った大きな蒼い瞳。
それが例え偽りの姿であったとしても、あの瞳を忘れる筈が無い。あの瞳を忘れられる筈が無い。
だって彼は俺が愛した最初で最後の、唯一人の初恋の人。
あの邂逅は偶然。
けれど二人の出会いは必然。
そう言ったら君は笑うだろうか。
そう言ったら君は怒るだろうか。
どっちでもいい。
君が俺を見てくれるなら…。
一目見て解った。
あの綺麗な綺麗な藍。
それが例え偽りの姿であったとしても、あの瞳を忘れる筈が無い。あの瞳を忘れられる筈が無い。
だって彼は俺を一人残して旅立ってしまった世界で一番大切で、世界で一番憎むべき人間だから。
あの邂逅は偶然。
けれど二人の出会いは必然。
そう言ったらお前は笑うだろうか。
そう言ったらお前は泣くだろうか。
どっちでもいい。
お前が再び俺の傍にいてくれるなら…。
深夜の屋上。
それは密会にはうってつけの場所。
屋上のフェンスの上に危なげもなく佇んで地上の星を見下ろしながら怪盗は今日の待ち人に思いを馳せ、自分を落ち着ける為にゆっくりと詰めていた息を吐き出した。
どう思われるのか解らなかった。
幼い頃から『探偵』を目指していた彼は本当に『探偵』になっていた。
小さな頃から『シャーロック・ホームズ』に憧れていた彼は今では『平成のシャーロック・ホームズ』と呼ばれるまでになった。
今は何らかの事情であの姿になってしまっている様だが、その魔法も何時かきっと解けるだろう。 彼の夢が叶った事に喜びもするが、同時に落胆もする。
『探偵』である彼は『怪盗』である自分を決して赦してくれる筈が無い、と。
幼い頃約束した。ずっと一緒にいると。
幼い頃約束した。決して互いを裏切らないと。
けれど自分はそのどちらも果たせなかった。
父が死に、その死の原因が解っていた母は俺を連れ直ぐに引越しを決めた。
もちろん俺がそれを知ったのは当日で、彼に何かを言う暇なんてなくて。
それはもちろん母の計画のうちだった。
母は出来得る最善の方法を取った。それは解っている。
けれど…。
「赦してくれる筈ないよな…」
ずっと一緒にいると誓った彼に何も言わずに離れてしまった。
決して裏切らないと誓った彼をきっと今も俺は裏切っている。
自分のした事に、これまで生きてきた人生に悔いは無いけれど。
それでも…もし叶うなら…。
「もう一度だけでいい…彼に逢いたい…」
それは切実な願い。
「一度だけでいいのかよ?」
「!?」
一人感傷に浸っていたからなのか、それとも彼の気配の消し方が上手かったからなのか。
気付かなかった気配がその言葉と共に急速にリアルに感じられた。
彼が居る。
今正に自分が振り返れば彼の姿をこの瞳に捉える事が出来る。
その事に動揺して、上がる呼吸と心拍数を抑えるのに必死で、振り返る事が出来ない。
「……こっちを見てもくれないのか?」
けれど、微かに聞こえた言葉は胸が締め付けられる程の切ない響きを纏っていて。
気付いた時にはフェンスから飛び降りて、彼の細く、小さな身体を掻き抱いていた。
「ごめん…」
「どうして謝るんだよ」
「……ごめん」
それしか言えなくて。
他に何を言ったらいいか解らなくて。
彼の肩が震えていたのは解っていたけど、とにかく言えたのはそれだけ。
そんな怪盗に探偵は小さく溜息を吐いて、そっと口を開いた。
「何で怪盗なんかやってんだよ」
「………」
「何で何も言わずに行っちまったんだよ」
「………」
「何で俺の事…一人にしたんだよ……」
「…ほんとに……ごめん……」
声に混じる泪。
零れ落ちる雫。
それを流させているのは自分で、その原因は紛れもなく自分の行動で。
それでも何も言い訳なんか出来ないから、怪盗はぎゅっと探偵を抱き締めて、精一杯の謝罪をすることしか出来ない。
けれど、その言葉に探偵は緩く首を振った。
「俺は別に謝って欲しい訳じゃない…」
謝って欲しくてこんな時間にこんな場所に来た訳ではない、と。
欲しいのはそんな言葉じゃなくて、もっと…。
「謝って欲しい訳じゃないんだ……」
欲しかったのは彼の存在。彼の温もり。
今抱きしめてくれている彼自身。
だから今言わなければならない事は…。
「ずっと待ってた」
「――っ!」
そう、伝えたかったのは自分の想いだ。
幼い頃約束した、偽りのない自分の想い。
「お前が居なくなって、辛くて辛くてお前の事を忘れようと思った事もあったけど……でも忘れられなかったんだ」
「しん…」
「お前は俺にとって何よりも誰よりも大切な人間だった」
それは偽りなき本当の言葉。
けれどそれと同時に―――。
「でも…お前は俺を置いて行った」
「………」
「だけど…」
――痛む胸もまた偽りなき本当の真実。
「言い訳があるなら聞いてやるよ」
それでもこうしてもう一度逢えたのだから、言いたいのは恨み言じゃない。伝えたいのはそんな言葉じゃない。
本当に伝えたいのは、
「何か理由があったんだろ?」
今でも心の中に貴方が居るという事だけ。
「…聞いて……くれるの?」
「当たり前だろ」
「でも俺…」
「行きたくて行った訳じゃない、そうじゃないのか?」
「それはそうだけど…」
その反応が意外だったのか、口調がしどろもどろになってしまった怪盗に探偵はクスッと小さく笑う。
それにぴくっと小さく肩を反応させて、怪盗は探偵からそっと身体を少しだけ離すと、不安そうに探偵の顔を覗き込んだ。
「な、なに…?」
「いや、ほんとの喋り方は昔のままなんだな、と思ってさ」
流石に嫌だぞ?普通の時も『怪盗』のままのあの気障な喋り方だったら。
「ああ、そういう事か…」
俺も嫌だよ。アレはあくまでも『キッド』仕様なんだから。
お互いにクスクスと笑って。
その笑顔がお互いに昔の面影を持ち、けれど昔のそれとは変わってしまった事に気付いて。
けれど、それでも瞳の彩は変っていなかったから。
「なあ、快斗」
だから解ったんだ。
「ん?」
俺達はまた此処から始められる。
「手、貸せよ」
「手?」
「いいから貸せって言ってんだよ」
例え互いが偽りの姿で、偽りの言葉でしか生きられなくても。
それでも互いの心に嘘偽りはないから。
だから今此処からまた始めよう?
約束が叶わなかったのならもう一度新しい約束で塗り替えればいい。
約束を違えてしまったのならもう一度新しい約束で塗り替えればいい。
奪い取った怪盗の手に探偵はそっと小さな小指を絡める。
それは嘗てと同じ様に、小さな小指。
相手のそれが大きくなっている事に、そして自分のそれが今は偽りな事にほんの少しの感傷を覚えはするけれど、それも今はどうでもいい。
欲しいのはこれからもずっと続いていく筈の小指と小指の約束だから。
「もっかい約束しろよ」
「え…?」
「だから、もう一回約束しろって言ってんだよ」
「それって…」
パチパチと瞳を瞬かせた顔は昔と一緒で。
探偵は急かす様に小指を小さく上下に動かした。
嘗て約束した時の様に。
「許してくれるの?」
探偵の行動にそう不安そうにお伺いを立てた怪盗に探偵は口の端を小さく持ち上げるだけで答える。
「許す訳ねえだろ」
「でも…」
「許すんじゃねえよ。償わせるだけだ」
ずっとずっと待っていた日々を。
ずっとずっと待ち侘びていた人に。
自分を置いていったのは他ならぬ彼だから。
それは必要な建て前。
その本音に怪盗も口元に笑みを上らせる。
「そう言われちゃったらしっかり償うしかないね」
「バーロ。当たり前だ」
「うん。ありがと」
本当に有り難う。
そんな機会をくれて。
「その代わり…」
「ん?」
「……ずっと傍に居ろよ?」
「うん。ずっと傍に居るよ」
恥ずかしくて昔みたいにあんな風には歌えなくて。
けれど想いは同じだから。
その言葉だけでいい。
「今度約束破ったらマジで針千本だからな?」
「えっ…流石の俺でもそれは…」
「じゃあさか…」
「ごめんなさい…;」
「解ればいいんだよ」
そう言ってニッコリと笑った探偵は幸せそうで、その笑みに怪盗も同じモノを浮かべた。
幼い頃約束した言葉は今も胸にあって
それは叶う事はなかったけれど
それでもこうしてまた再び同じ誓いを交わす事が出来たから
だから今度こそずっと君の傍に居るよ
END.
60000hit有り難う御座いますv
皆さんのお陰でこうして記念フリーを続けていく事が出来てますv
本当に有り難う御座いますvv
今回は小さい頃知り合いだった、なんて設定をしてみたり。
慣れない事はするもんじゃないです;(撃沈)
少しでもお気に召して頂ければ幸いです。
こちらは何時も通り60000hit記念でフリーとなっております。
宜しければお持ち帰り下さいませ♪
その際報告は不要ですが…して頂けるとめろめろvになります(ぇ)
おまけ
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