徐々に弱まっていく息

 徐々に霞んでいく視界

 何時かは来ると思っていた瞬間頭に浮かんだのは

 綺麗な綺麗な二つの『蒼』








Last Regret









「っぅ…しくじったな…」


 路地裏にずるずると逃げ込んでコンクリートの壁に寄りかかり、ずるずると地面に蹲る。

 元は綺麗な白だった筈の衣装は所々切り裂かれ、自分の血液で赤く染めあげられている。
 それはもう止血をしてもどうにもならないと自分で解るだけの量。


「何時かは来ると思ってたけど…」


 ああ…でも今日は嫌だなあ、と苦笑を浮かべる。

 もう直ぐ今日という日は終わるから。
 せめて其れまではもってくれないかと思う。

 今日は大切な大切な記念日だから。


「名探偵…大丈夫かなぁ…」


 今日という日の記念に彼に招待状を送って。
 怪盗から探偵に招待状なんてお前馬鹿か?なんて呆れられながら、それでも来てくれた彼に笑みを零して。
 大切な大切な記念日だからとっておきのショーを披露して。

 綺麗な綺麗な瞳を輝かせて自分のマジックに見入ってくれた彼は本当に可愛かった。


「ほんと…可愛かったよな…」


 その表情を思い出して、くすっと笑う。

 彼の瞳は本当にきらきら輝いていた。それこそどんな宝石も適わない程に。
 本当ならあのまま攫ってしまいたかったけれど、彼が彼の面倒を見てくれている彼女とその父親にどんな言い訳をしてきたのか解らなかったから。
 だから早めに、丁重に彼がお世話になっているお宅までお送りして。
 渋る彼には『この後仕事があるから…』といえる様に事前に予告上も捜査2課にお届けしてあった。

 まあ、もっともそれが仇になった訳だが…。



「ほんと情けねえの…」



 最近漸く彼の心が徐々にではあるが自分に傾いてきている。
 だからこそ今日という日に二人きりで逢ってくれた。
 彼はきっと自分の気持ちを隠しているつもりなのだろうが、そんなもの当にお見通し。

 だって、その手の事になると彼は可愛いぐらい解り易いのだから。



「………ほんと……情けねえな………」



 好きで好きで堪らなかった人が漸く自分の方を向いてくれたというのにこの始末。
 本当に情けないったらない。


「悪い事……しちまったな………」


 きっと自分さえ彼の前に現れなければ彼はきっと今でも彼女を好きだった筈。
 なのにその機会を奪ったのは自分。

 そして今…彼を悲しませようとしているのも自分。



「こんな事なら…」



 言っておけば良かったと思う。

 あんな思わせ振りなだけの行動じゃなくて。
 あんな気障な台詞だけじゃなくて。

 ただ強く強く抱きしめて、


 『好きだ』


 と伝えておけば良かったと…。




「ほんと…最後の最後まで情けねえよな……」



 もう苦笑も出てこない。
 ほんとうに最後の最期なのが自分で解る。

 ゆっくりと落ちてくる瞼。
 その裏に広がって行く闇。

 その中で唯一つだけ後悔するのは…。




 ――大切な彼を悲しませてしまう事…。






END.


実はこれ…今年の邂逅記念日の没案(ぇ)
流石に、「記念日に死にネタはどうよ?」って訳で急遽これから「天使〜」に差し替えました(爆)
でも勿体無いので(…)こんな中途半端な時期に載せてみたり(最低)

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