楽しい楽しい
 休日のお出かけ

 それなのに、それなのに…

 どうしてこの人ってば
 こんなに事件体質なんだろう…;










 俺の恋人は事件体質










 今日は天気も良く、麗らかな日曜日。
 快斗的にはそりゃもう素晴らしい事に、名探偵と呼ばれる恋人に事件の依頼もなく警察の要請もなかった。
 快斗自身も、キッドの仕事もなくマジックの舞台出演依頼も今日はなかったので時間があった。

 そう、珍しく二人揃って時間があった訳である。


「ねえ、新一! 折角の日曜日なんだからどっかお出かけしよーよv」
「嫌だ。今日は推理小説三昧って決めてんだよ」
「この推理小説ヲタク…;」
「るせー! お前は大人しく仕事の道具でも作ってろ!」
「……探偵の発言とは思えねえよな、それ;」


 折角の麗らかな日曜日なのに、事件やら何やらで読む事が出来なかった推理小説を読みふける新一の横で、快斗は多少ぶーたれながらも言われた通り(…)マジックのタネ(……)――本当は仕事用―――作りをしていた。










 夕方になって、うず高く積まれていた最後の本を漸く読み終えて、パタンと新一が本を閉じたのを快斗は見逃さなかった。


「新一!」
「何だよ」
「6時間43分」
「は…?」


 いきなり訳の分らない時間を言われて、首を傾げる新一を快斗はぎゅーっと抱きしめた。
 そんないきなりな行動にぱしぱしと瞳を瞬かせる新一の頬に、快斗は自分の頬をスリスリと寄せる。


「新一君の今日の読書時間! 俺おとなしーく新一が終わるまで待ってたけど、もう限界! もう新一欠乏症!!」
「ちょ、ちょっと快斗!」
「嫌だ。新一が悪いんだ!」


 そのままソファーに押し倒されて、わたわたと慌てる新一に、快斗はにっこり笑って言う。
 ちなみに―――その瞳は笑っていない。


「ねえ、新一。俺のお出かけのお誘い断った挙句に、こっちのお誘いまで断ったりしないよね?」
「いや、あの…」
「ね?」



 ………拙い事になった。



 正直内心でそう思った新一はどうしようかと考えあぐねる。
 実は今日は深夜過ぎにテレビで、『ホームズ対フロイト』という、ホームズのパスティーシュを映像化した物がやるのだ。
 それは新一が前々から見たいと思ってチェックしていたものである。

 勿論録画しておけば済むことなのだが、それでも今度はいつ暇な時間が取れるか分らない。
 だから、出来る事ならその時に見ておきたいのだが……。


 それを考えるとこの状況は非常に拙い。
 しかも、こういう状況の場合、快斗の相手は………正直、明日が心配だ。

 こういう時の快斗は性質が悪い。
 新一欠乏症だか何だか知らないが、こういう時の快斗はとことん放してくれない。
 普段はその…なんていうか……優しくしては貰っているのだが、こういう時の快斗は、普段つけてあるらしい理性という名のリミッターが思いっきり外れてしまうのだ。
 だから……次の日は正直動けないぐらいになる事も珍しくない。

 週末ならまあ良いとして―――いや、良くはないけれど百歩譲って良いとしよう―――明日は月曜日。  色々あったせいで(…)単位の危ない新一としては、出来れば今日は避けたい事態だ。



 ―――何か良い打開策はないものか…。



 考えに考えた新一は、そういえば快斗が先日言っていた事を思い出した。



「なあ、快斗…」
「何?」
「お前、こないだ駅前に美味しそうなアイス屋が出来たって言ってたよな?」
「う、うん…」


 こんな状況で一体何を言うのかと、少し不審げに返事をする快斗を新一はじっと見詰めたまま先を続けた。


「これから行かねえか?」
「え…?」
「お前も俺も、今度いつ時間が取れるか分んないだろ? だから…」
「……俺をアイスで釣るつもり?」


 だからこれから、と言おうとしたところで、快斗の目が鋭く光る。
 そんな快斗の瞳に、内心でちっ、っと舌打ちをして、新一はしかたなーく………持ち前の演技力を発揮した(爆)


「ひでー言われようだな。おれはただ……」
「…?」
「一緒にアイス食べるなんて………何か恋人同士みたいでいいな、と思ったんだけどな……」
「!?」


 快斗から視線を逸らし、若干寂しそうにそう言ってやる。
 ――――本当は、そんな事微塵も思っていないのだが(笑)

 そんな新一に………快斗が反応しない筈がない。


「し、新一が…そんな事思ってくれてたなんて……」
「でも良いんだ。別に快斗が行きたくないなら…」


 新一が目元にほんの少し、涙さえ滲ませて見せれば(勿論演技である)当然、快斗が次に紡ぐ言葉なんて、新一には手に取るように分っていた。







「ごめん、俺が悪かった!! 今から食べに行こう!!」







(勝った………!)





 内心で、新一がガッツポーズをしたのは言うまでもない。






























 折角のお出かけだし。
 もとい、折角のデートだしv

 折角のデートだからと言って、出かける前に快斗はとっておきの店にディナーの予約を取って。
 日曜日だというのに運良く取ることが出来た予約の時間まではまだ時間があったから、その前にアイスを食べに行く予定を立てて。
 出かける間際に、お財布の中身が寂しい事に気付いた快斗が、『別に親父のカードがあるからいいのに…』なんて坊ちゃん的発言をした新一の言葉に乗る筈がなく――快斗が誘ったのだから、快斗にだって見栄ぐらいある――銀行に寄ってATMでお金をおろし、さて、これから出かけようとした刹那―――。




「大人しろ! 全員動くんじゃない!!」





 ――――あろうことか、その銀行に銀行強盗が押し入ってきたのである。





「いいか! 全員両手を頭に乗せて、そっちの端に寄れ! 変な真似しやがったら撃つからな!!」



「………」
「………」



 何でまた、こういう事件に巻き込まれる羽目になるのだろうか;




















 本当に何て言うタイミングの悪さだろうか。
 まあ、横に居る名探偵にはある意味タイミングが良かったのかもしれないが…。


 押し入ってきた銀行強盗の指示に従って端に集められ座らされた人質は約20人程。
 それに、カウンター内に居る職員が10名程。

 片や犯人グループは4人。
 全員拳銃を所持し、当然と言えば当然だが覆面を被っている。

 何ともベタな銀行強盗。
 というか……何ともベタな展開である。



『なあ、快斗…』
『ん?』



 そんなベタな展開の中、犯人達の注意がカウンターに注がれているのを良い事に、小声で話しかけてきた新一。
 その瞳は―――何だか不謹慎にも若干楽しそうだ。


(あー…もう; 新一君、やる気満々;)


 その目に快斗は内心で溜息を吐いた。
 ちらりと時計を見れば、予約まで後20分。
 ここから店までは歩いて5分程度だから、後15分で片をつけなければ間に合わない。

 そんな快斗の視線の意図に気付かない新一ではない。


『間に合わせてやるから心配すんな』
『………いや、ちょっと、新一君;』


 15分で銀行強盗を何とかしようなんて思っちゃってる恋人に、快斗は肩を落とす。

 もう…何でこの人ってばそういう事さらっというんだろう;
 っていうか、普通の人は大人しく捕まってるだけで、銀行強盗をどうにかしようなんて思わない訳で。
 いかんせん、相手は拳銃まで所持している訳で。
 人質まで居るからかなりこっちが不利なんだけど……;



『という訳で、お前も協力しろ』
『協力って…;』



 俺一応、裏の顔は窃盗犯なんですよ…?


 とりあえず、自分で自嘲気味に突っ込んでみたけれど、それでもこんな銀行強盗とは一緒にされたくはないのは事実だ。
 俺の方が、もっと華麗で手際だっていい。
 おっと…そこは誇れる所でも何でもないんだけど…。



『お前、今何か持ってるか?』
『んー…』



 流石に仕事ではないので、残念ながら物騒な物は持っていない。
 あるのはマジックに使うタネ達だけ。
 これはいつ何があってもいいように(…)ある程度は仕込んである。



『マジック用の道具しか持ってないけど。あー…トランプ銃だけは持ってる』
『じゃあお前はそれでいいか。俺は……火でも噴くか?』
『……何で新一が;』



 そういえば先日、あの時のお礼とばかりに送られてきた『ホッパー奇術団』からの招待状。
 先日行われたそのショーに新一を連れて行って、楽屋まで激励に行った。
 快斗が他の団員と話している時に、新一は何やら楽しそうに彼女と話していたっけ。

 その時聞いたのか……;



『いーだろ。俺だってやってみたい』
『いや、それはまた今度やらせてやるから;』



 お願いだから興味本位でそんな事はやめて欲しい;
 横でリアルにやってみたそうにしている新一に、正直涙目になりながら、快斗は何か他に使えそうなものはないかと頭の中で考える。



『後は……鏡と、変装道具と……』
『催眠スプレーぐらい持ってないのかよ』
『いや、仕事の時以外は流石に…;』



 普通のマジックの時は流石に使わないから、残念な事にお仕事(…)の時以外そんな物体は持っていない訳で。
 でもこんな事になるならそのぐらい持っておけばよかった…。
 というか、今度からは是非入れておこう。
 この人と居ると、本当にいつ何があるか分らないから…;


 快斗がそんな事を心のうちで誓っている間に、新一は何やら横で銀行内部を見渡している。
 そして、目指すモノを見つけたのか、口元に笑みを浮かべて快斗に尋ねた。



『お前、夜目利くよな』
『ああ。利くけど……って、そういう訳ね』



 新一の目に止まったモノを違う事なく快斗も見つけ、質問の意図を知る。
 けれど、取り合えず突っ込みたいのも確かだ。



『つーか、それじゃ俺が全部やる羽目になるんじゃん…;』
『当たり前だろ。俺は武器も持たない一般人だ』
『………一般人ねえ;』


 一般人なら、銀行強盗をどうこうする、とかいう気なんて起こさない訳なのだが、それを突っ込むのはやめておいた。
 ―――――この人にそんな事言ったってしょうがない;(諦)



『まあ、鏡だけは貸せよ』
『鏡?』
『ああ。俺も少しは手を貸してやるよ』



 無謀な事を言ったりやったりする探偵ではあっても、一応その辺りの事は気にしているらしい。
 それにほんの少しだけ安堵して、快斗は持ち前のテクニックで鏡を新一のズボンのポケットに忍ばせてやる。



『流石怪盗。手が早いな』
『違う意味でも手は早いけどねv』
『………』
『新一、睨むなって;』



 ちょっとだけ茶目っ気を出してそんな事を言ってみれば、無言で睨まれるというオマケが突いてきて、快斗は泣きそうになる。

 恋人になって随分時間は経つというのに、相変わらずこの人は―――つれない;
 もうちょっと乗ってくれたっていいのに;



『馬鹿な事言ってないで準備しろ。俺が一瞬注意をひきつけるから……いいな?』
『分りましたよ、名探偵』



 快斗の返事を聞いた瞬間、新一はポケットから鏡を取り出して、光を天井に反射させる。



「何だ! 誰だ!」



 ソレに気付いた強盗団の一人が慌てて人質の方を振り向く。
 その刹那―――。










 ―――――視界が全て闇に覆われた。










「うわっ!」
「おわっ!」


「何だ?! 一体どうしたんだ!!」





 喚く強盗団の拳銃を、トランプ銃から放たれたトランプが見事に犯人達の手から弾いていく。
 しかし、それが見えるのは―――弾いている本人にだけ。




 暗闇の中、訳も分らず―――――犯人達は何者かによって捉えられ、ロープで縛られてしまっていた。






























「さて、と」



 電源が予備電源に切り替えられ、視界が戻ると、新一はやれやれと言った感じで立ち上がった。
 周りを見渡せば人質達が、茫然と言う感じでフロアーの真ん中に縛りあげられている犯人達を見詰めていた。


「皆さん。もう大丈夫ですから安心して下さい」


 その声に引き寄せられる様に新一を見上げた人々。
 その瞬間、誰かが声をあげた。


「あれ、名探偵の工藤新一じゃない?」
「あ、ホントだ! 工藤新一よ!!」


 途端にきゃあきゃあと色めき立つ周りに、新一は人差し指を立て、唇の前にすっと持って行った。


「お静かに。全て片付きましたから、是非僕がこの場に居た事はどうぞご内密に」


 そう言ってほほ笑むと、新一は静かにフロアーの真ん中あたりに散乱していた拳銃を拾い集めた。
 それを犯人が現金を詰めるために持ってきて置いたのであろう鞄に入れると、カウンターの前まで歩いて行って、女性行員の一人に告げる。


「すぐに警察に連絡して下さい。それから、これは誰にも触らせない様に」


 そう言って、鞄をカウンターに置くと、すたすたと裏口から出て行ってしまった。
 勿論、その場に居た人は、そんな彼の姿を茫然と見送ったのだという。




















 ―――これが世に言う、『工藤新一、銀行強盗撃退事件』である(爆)




















 その後、快斗と新一は無事に予約していたディナーに間に合い、無事に食事を堪能した。
 その帰り、駅前のアイス屋で、快斗は大好きなチョコレートアイスを、新一はレモンシャーベットを食べたらしい。

 その後家に帰りこの事件のご褒美、と称して―――快斗が新一を美味しく頂いたのは、まあ余談である。








































 が、当然これで終われる筈がない(ぇ)


「新一。狡い!」
「るせー。役得だ、役得」


 次の日の朝刊を二人でベットの中で眺めながら――つまりはやっぱり学校には行けなかった;――快斗がぼやいた言葉に新一はそう言って笑ってみせる。
 朝刊の一面は―――『工藤新一、銀行強盗を撃退!!』なんて見出しだった。


「大体、新一は『あの場に居た人間には秘密にしろって言って来た』ってあの後言ってたじゃないかー!」
「ばーろ。んなもん、誰かが言うに決まってんだろ」
「じゃあ、それが分っててそんな事言ってきたっていうのかよ!」
「ああ」
「つーか、アレ俺が倒したんじゃねえか;」


 がっくりと肩を落とした快斗に、新一がそっと手を伸ばそうとした刹那―――。







 ――――RRRRR……RRRRRR………。







 新一の携帯電話の着信音が部屋に響き割った。
 着信画面を見れば見知った名前。


「あ、目暮警部だ」
「……コレ絡みか」
「そうだろうな。あ、お前今日暇?」
「暇って…まあ、暇だけど」


 結局二人して学校をさぼってしまった訳であるが、まあそれはそれ。
 諦めて今日は暇を持て余すつもりでいたのだから、快斗は暇である。


「じゃあ、悪いけど車で警視庁に乗っけてってくれ。身体だるい…」
「……名探偵。俺、ぴっちぴちの17歳」
「だからどうした?」
「17歳って事は、普通自動車の免許は持ってねえんだよ」
「だから?」
「だから?じゃねえ! 無免許の俺に警視庁まで乗っけてくれって!?」
「いーじゃねえか。いつも運転してんだろ?」
「いつもじゃねえよ! キッドで必要な時だけだ!」
「じゃあ、大丈夫だろ」
「大丈夫じゃねえ!!」


 結局タクシーを呼んで、そのタクシーにぐちぐち文句を言う新一を詰め込んで。
 タクシーが見えなくなるまで見送った快斗は、その場で溜息を吐いた。










「ったく、あんな狡猾で無鉄砲で無茶苦茶な人が探偵やってられる事び方が―――よっぽど事件だよ;」




















 ちなみに、快斗が自分の仕業だと誇示するためにわざと配電盤に残していたトランプは、新一が裏口から出て行くときにしっかりかっちり回収したらしい。




















蒼様、大変大変お待たせしたしました。
しかも、大変お待たせした上に似非事件物ですみません;
協力…出来てねえ;(爆)
今一つリクを消費しきれていない感じですが、少しでもお楽しみ頂けたなら幸いです。

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