その花の花言葉は
『尊重』
そして―――『愛情』
『Sweet, red fruit』
「こんな所に呼び出して一体何の用だよ」
仏頂面から吐き出された言葉。
その目前には当然の事ながら白い影が存在していた。
「お忙しいところお呼び立てして申し訳ありません」
深々と頭を下げてみせる白い影。
その影に新一は嫌そうに一つ溜息を吐いた。
「別に。それで用件は何だ」
「用件と申しますと?」
「俺を此処に呼び出した用件だよ!」
白々しくはぐらかす白い影に新一は少しムッとして新一は声を荒げた。
それにも白い影は動揺する事無く悠然と微笑んでみせる。
「別に用件はありませんよ」
「………は?」
真顔でしれっとそう告げて下さった白い影に新一は一瞬反応が遅れてしまった。
「用件がないって…」
「用件がなければ貴方をお呼び立てしてはいけませんか?」
「当たり前だろうが!!」
用事がないのに探偵を呼び出す怪盗が居て堪るか!
そう叫んだ新一に、白い影は「ふむっ…」っと考え込むように手を顎に当てて考え込むような動作をし、新一をじっと見詰め口を開いた。
「まあ、強いて言えば…」
「言えば何だよ」
「貴方にお会いしたかったから、というところでしょうか」
しれっと恥ずかしい事を言ってくれた怪盗。
その発言に一瞬新一は固まって、その後―――、
「探偵に会いたがる怪盗が居てどうする!!!」
―――夜の静寂に響き渡る程の大音量で叫んでいた。
「名探偵…何もそこまで叫ばなくても…」
「これが叫ばずに居られるか」
「そういうもんですか…?」
「そういうもんだ」
きぱっとはっきり言い切った新一。
その新一の様子にはキッドも苦笑するしかなかった。
「まあ、そう言われても仕方ありませんが明日は…あっ…」
「ん?」
ちらっと腕時計に目をやったキッドに新一が首を傾げる。
そんな新一にキッドは「しっ」と人差し指を口にあてた。
「スリー…トゥー…ワン」
「――――Happy birthday! 新一」
「えっ…」
一瞬の間の後、耳元で囁かれた言葉。
気付けば手に持たされていたのは小さな小さな白い花のブーケ。
「お誕生日おめでとうございます。名探偵」
次いで感じたのは確かな温もり。
唇を掠めていったその温もりが何を意味するのかを理解したのはその数秒後。
「なっ…///」
「私からの誕生日プレゼントですよ」
綺麗にウインクして見せた怪盗。
その仕草に新一は頬に熱が集まっていくのを感じていた。
「な…何が誕生日プレゼントだ!」
「まあ、それは貴方が一番よくご存知でしょう?」
「………」
にっこりと、それこそ今まで見せたことなどない微笑を怪盗は惜しげもなく前面に押し出してくる。
それには新一の次の文句も飲み込ませてしまう程の威力があった。
「生まれてきてくれてありがとうございます。私の名探偵」
視界を遮る煙幕。
それと同時に聞こえた言葉。
誰よりも早い、独占欲混じりの祝いの言葉。
煙幕が晴れた時、当然の如く彼の姿はそこにはなかった。
新一の視界に入ったのは、手元に残った白い小さな花のブーケだけ。
「ばーろぉ。誰がお前のだよ…」
そう呟いた新一の顔はその小さな白い花がつける実よりも赤かった―――のかどうかは、彼らを見ていた月だけが知っている。