「快斗の好きな物?」

「ええ」

「…甘い物か?」


 少し考えた後、疑問形で答えが返ってきた。








【僕の好きなもの 君の好きなもの(side S)】








「あのね工藤君、質問しているのはこっちなんだけど」


 こうなる事は予想していたものの、疑問形で返された答えに哀は溜め息を吐く。


「だって他に思いつくか?」
「だから聞いてるのはこっちだって言ってるでしょうに…」


 先ほどから堂々巡りの会話に哀はほとほと頭が痛くなってるくるのを感じていた。


「ん〜嫌いな物ならすぐ思い付くんだけどなあ…」
「確かにね」

 一時期流行ったあの歌をスーパーで聞いただけで青ざめていたもの。

「ああ、あん時はおもしろかったよな〜♪」
「工藤君…彼がそれ聞いたら泣くわよ」


 今度CD買ってこようかなんて楽しそうにしている新一に、黒羽君も哀れだわと思ってしまう。


「それで、彼の好きなものは一体何なのかしら?」
「う〜ん…やっぱ甘い物だろうな」

 それ以外で何か思いつかねえし。

「まあ、彼の甘い物好きは半端じゃないものね」


 最初にあのコーヒーもどきを作成しているのを見た時は気持ちが悪くなったものだ。
 コーヒーに砂糖5杯とミルクをたっぷり注いでいたのだから…。


「あのコーヒーもどきは見てるこっちが気持ち悪くなるからやめて欲しいんだけどな…」
「ほんとよね…」


 新一も哀もどちらかと言えば甘い物が苦手なタイプである。
 まあ、快斗が来てから昔よりは食べるようになったのかもしれないが。

>BR? 「彼のあの甘い物好きは激し過ぎる運動量の為かしら? それとも只単に好きなだけなのかしら?」
「多分後者だな」


 あいつの味覚は絶対に子供のそれだ、と新一は断言する。


「こないだなんか『なんで新一そんな辛いの食べれるの〜!?』とか言って自分用に甘口のカレー作ってたんだぜ?」
「あら彼苦いのだけじゃなくて辛いのも駄目だったの?」


 それは良い事を聞いたわ、と哀が何やら企んでいる様子に新一はまずい事言ったかな一瞬思う。
 が、次の瞬間には犠牲になるのは快斗だから良いか、というかなり酷な結論を出していた。

「ねえ、工藤君」


 どうやら企み終えたらしい哀がはたと口を開く。


「ん?」
「何だか彼の場合、好きな物じゃなくて嫌いな物の話しになってしまうのは気のせいかしら?」
「いや…多分それ気のせいじゃない…」

 多分嫌いな物の方の反応がおもしろいからそうなるんだろうな。

「そうね、彼の反応は見ていて飽きないわ」


 アレにどこまで耐えられるのか実験した時は面白かったわ、と語る哀の目はマッドサイエンティストそのものだった。


「で、やっぱりあいつの好きな物って甘い物なのか?」
「工藤君…いったい何時まで堂々巡りをさせるつもりなの?」


 自分の質問に思いっきり疑問系で返してくる新一に哀は今度こそ思いっきり溜め息をつく。


「だってあいつあんまり物とかに執着しないからさ。好きなものって言われてもわかんねえんだよな…」


 考え込んでしまう新一に哀はここにいない快斗の事を思い浮かべる。


(一番執着している人にそう言われてしまってわね…)


 快斗が執着しているものなど周りから見ている人間には一目で解るのに。
 あれだけ毎日毎日口説かれて、甘やかされて、どうして当の本人は解らないのかしら…。


(黒羽君も大変ね…)


 これだけ気付かない人間を探す方が難しいのかもしれない。
 まあ、そんな新一だから良いのかもしれないが…。


「あ、悪い灰原。俺帰るわ」


 コーヒーさんきゅーな、とだけ言って話の途中で何故か急に帰ってしまった新一に哀は一体何があったのかしらと一瞬固まってしまったのだが…。


「なるほどね…」


 向かいにある窓の外を見てみれば、買い物に行っていた快斗が帰って来たところだった。


(まったく、黒羽君も工藤君も一体どんな感覚してるのよ…)


 自分のほうから窓が見えるという事は向かい側に座っていた彼らからは窓の外が見えないという事。


「ホントに実験してみたいわね…」


 どこまで近付いたら解るのかしら?、なんて事を楽し気に考えつつ快斗の実験とどちらを先にしようか真剣に検討するのだった。








「ただいま♪」
「おかえり」


 お隣から出てきた新一に快斗はただいまのキスを額に落とす。
 二人で仲良く玄関に入りつつお互いにただいま、と微笑む。



「で、哀ちゃんと何話してたの?」


 買ってきた物を冷蔵庫に整理していく快斗の動作にすら見惚れつつやっぱりここは言っとくべきかな、と忠告をする。


「…快斗。お前灰原に渡されて変な物飲むんじゃねぞ。」


 その瞬間快斗の表情にぴきっと線が入ったのを新一は確認した。


「新一〜! 哀ちゃんに何言ったの〜!!」
「いや…こないだのカレーの話しただけで…」
「嘘!? それ実験してくださいって言ってるようなもんじゃん!!」


 前にアレが駄目なの知られた時はホント怖かったんだよ〜、と泣きついてくる快斗に新一は最後の駄目押しをする。


「安心しろ。骨は拾ってやる」
「…全然安心できない〜!!!!」





 泣き喚く快斗の煩さに新一がお隣に快斗を進呈しに行くまで残り30分…。










END.


何だか哀ちゃんのマッドっぷりが上がってるのは気のせいか…?(笑)
恐らくこの後哀ちゃんにたっぷり遊ばれる事でしょう(爆)
お題からそれて行ってる気もしないでもないが…(核爆)


side K


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