「新一の好きな物?」

「ええ」

「そりゃ、事件でしょ」


 解り切った事の様にきっぱりと言われた。









【34.僕の好きなもの 君の好きなもの(side K)】









「そうよね…」


 溜め息と共に哀も頷いた。
 自分が言った質問とはいえ、答えは火を見るよりも明らかだった。


「だって新一俺と一緒に居るより事件ある時の方が機嫌良いんだもん…」


 俺は新一と一緒に居られるだけで幸せなのに〜、といじける快斗に哀は追い討ちを掛ける。


「前に一週間程事件が無かった時は酷かったものね」
「うん……」


 三ヶ月ぐらい前、目立った事件も無く一週間ほど警察から新一への要請が無かった時期が有った。
 三日目までは新一の機嫌もそこそこに良く、一緒に買い物に行ったり、料理をしたりと楽しい時間を過ごしたのだが。

 四日目からが酷かった。








『快斗』
『ん? 何〜♪』
『何か盗め』
『…はいぃぃ〜?!』


 その日の新一は朝っぱらからそんな暴言を発したのだ。


『し、新一君? 自分が何言ってるか解ってる??』


 一瞬遅れて自分に言われた事を理解した快斗は新一に詰め寄るようにそう尋ねた。


『解ってる』


 ご機嫌斜めな様子でそう言われた時は本当に脱力したものだった。
 かりにも「探偵」の彼が自分に何か盗めとは…。


『新一君…。それが非常に問題発言なのも解ってるよね?』
『解ってるって言ってんだろ!』


 確かめる様にそう尋ねた瞬間思いっきり脇腹を蹴られた。


『…新一…酷い…』
『解り切った事聞いてくるお前が悪い!』
『だって新一がそんな事言うなんてさ〜』

『しょうがねえだろ! 事件も、小説の新刊もねえんだよ!』

(だからって…その結論に辿り着くなよ…;)


 随分な俺様っぷりにさすがの快斗も溜め息を吐く。


『で、何か盗む予定はねえのか?』
『う〜ん…』


 検討はしてみるものの近々予告を出せる様な展示会等は無い。


『ねえのか…』


 そんな快斗の様子に更に沈んでしまう新一を快斗は思いっきり抱きしめた。


『馬鹿! 離せ!』
『いいじゃん♪ 快斗君とずっと一緒に居られるんだよ?』


 新一はそれじゃ不満な訳?と尋ねれば新一は盛大に眉を寄せる。


『非常に不満だ』

(やっぱり…)


 素直に頷いてくれるとは思っていなかったがそんなに思いっきり不満だと言わなくても、と思ってしまう。


『新一の馬鹿〜!』
『馬鹿はお前だバ快斗』
『新ちゃん酷い…』
『変な呼び方すんじぇねえ!』









 結局、新一の不機嫌さはその後三日間続き最後の日などは次のKIDの仕事用に考えてあった暗号まで進呈する羽目になったのだ。


「新一の中では事件が一番だよね…」

 二番目が推理小説で…三番目はKIDの暗号かな。
 俺は新一が一番なのに…。

「まあ、根っからの探偵だからしょうがないのでしょうけどね」

 事件体質の彼が一週間事件に出会わなかった事が奇跡なのだから。

「そうだよね。ホント新一は探偵だよ…」

 でも、探偵してる時の新一もかっこいいから好きなんだよね〜Vv


 さっきまでの落胆ぶりは何処吹く風で一人悦に入り、にたにたしている快斗に志保は溜め息を吐きながら思う。


(本当に何も解ってないんだから…)


 確かに事件が無いと不機嫌なのは否定しない。
 だが、快斗が居ない時の比ではないのだ。

 以前快斗がKIDの仕事の下調べで三日間家を留守にした時など目も当てられない程酷かった。
 けれど素直でない彼は結局帰ってきた快斗にも素っ気無かったのだけれど。


(まあ、自覚してないうちが花なのでしょうけどね)


 自分が一番だなんて自覚してしまったらますます調子に乗るのだから目の前のこの男は。
 志保が内心溜め息を吐いていると、突然快斗が座っていた椅子から突然立ちあがった。


「あ、ごめん志保ちゃん。新一帰って来たみたいだから帰るね♪」


 お茶ありがとね♪と言ってお礼に薔薇を一輪差し出すと快斗は目にも留まらぬ速さで帰って行った。


「まったく…いったいどんな感覚してるのかしら…」

 自分は彼が帰って来た事などまったく気付かなかったっていうのに。

(今度実験してみようかしら)

 でもそれならば工藤君の協力も必要ね。


 どうやって彼を丸め込もうかしら、と楽し気に思案して哀はカップを片付け始めた。








「新一Vvおかえり♪」
「うわっ! 馬鹿、急に抱き着くな!!」


 玄関の鍵を開けようとした瞬間後ろから快斗に抱き付かれ新一は危うく倒れそうになる。


「だって新一居なくて寂しかったんだもん」
「ったく…ほら、入るぞ」
「うん♪」


 快斗に後ろからべったりと張り付かれてなんとか玄関に入る。


「で、お前どこ行ってたんだ?」
「ちょっとお隣にね」
「ふ〜ん…」
「ん〜? 何? 新一焼きもち〜??」
「ばっ…んなわけねえだろ!!」
「や〜んv新一可愛いVv」


 顔を真っ赤にして一生懸命否定してくる新一を快斗は思いっきり抱きしめた。


「可愛くねえ!! 離せバ快斗!」
「やだ♪ だって俺には新一が一番なんだから〜♪」
「どういう理屈だ!!」

「俺の一番好きなのは新一ってことVv」


 べたべたと張り付いてくる快斗に新一は思いっきり溜め息をついた。


(ったく、んなもん俺だって一緒なんだよ…)


 新一が心の中でそう思ったのは一生の秘密。
















END.


何やら新一君が俺様街道突っ走ってますが…(笑)
無自覚快斗君が書きたかっただけ♪(オイ)



side S


back